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第百七十六話 契約と罰

ドクン


「!!」


私の心臓が暴れるように波打ち始める。鼓動が急速に早くなり、心臓の方を見てみるとそこから伸びてラーザ君に繋がっていたかすかな呪力線がどんどん太くなっていく。大量の呪力が私からラーザ君に向かって送り込まれている。


「炎恨、取り消しなさい!今ならまだ間に合う。」


溺結さんが慌てたように言う。しかし炎恨は不敵な笑みを浮かべたまま動かない。そうこうしている間にどんどん呪力が強まっていき、彼の体を拘束し始める。


「ははっ、流石だね。契約呪術といってもここまで罰が重い契約もあまりない。契約違反者を殺すにしてもこんな出力はいらないだろうに。」


【もうこの段階まで来たら宣言を取り消すことすら難しいぞ。溺結、どうする?】


溺結さんの方を向くと、何かを必死に考えている様子だった。下を向き、何かぶつぶつ呟いている。


「あ~、もうお迎えか。案外早かったね。」


そう言いながらも未だ顔色一つ変えずその場で笑っている。しかし体全体を白い呪力が覆い、今にも彼の魂ごと呪殺してしまいそうなほど呪力がたまってきている。今度こそ彼の最後の瞬間になるかもしれない、と私は目をつむってしまう。


「…?」


私の鼓動が急速に収まってきた。私から伸びる呪力の気配も、ラーザ君を取り巻く呪力の密度も急速に薄くなる。死んだわけではあるまい。現に彼の魂の気配はまだ強いままだ。恐る恐る目を開けると、そこには元気にピンピンしているラーザ君の姿があった。


「どういうことだ?契約が執行されなかった…?」


ルイス先生が言う。確かに私たちは契約を結んだ。その条件には確かに契約の違反をした時には死罪になるという風に記されていたはずだ。


「契約呪術の破棄を宣言したのち、その罪を逃れ得る方法が3つあるんだ。」


炎恨が話始める。


「一つ、契約者同士に圧倒的な力の差が存在すること。ちょっとの差じゃだめだ。何があっても絶対に覆らない力量の差があって初めて執行を逃れられる。まあ、逃れるといってもただ執行に耐えられる、というだけだがね。」


彼は何を言いたいのだろうか。私たちにそこまでの差はないはずだ。


「二つ、契約の破棄宣言、これ自体を破棄する。まあ契約は元通りなるから、宣言を破棄してそれを逃れる方法というには少し微妙なところだけどね。そして三つ、」


「契約受理者が契約を無効にする。」


溺結さんが口を挟む。契約受理者が契約を無効にする、確かにその方法でも行けるだろうが、私は契約を無効にした覚えはない、いやそもそも契約を無効に知る方法すら知らない。


「人間たちよ、今疑問に思っているだろう。ラーザと契約を結んだのはそこの娘だ。契約を無効化なんてできるわけないと。しかし違うんだ。溺結は契約者って言ったんじゃない。契約受理者って言ったんだ。さてここで問題だ。君たちの契約で契約受理者って、誰だい?」


私はあの時、ラーザ君と契約呪術を結んだ時のことを思い出す。確かあの時は…


「溺結さん!」


そうだ、あの時私たちは溺結さんの仲介で契約を結んだ。その場合は契約受理者は溺結さんになるということか。


「まさか…あなたが今、契約を無効にしたんですか?」


ルイス先生が溺結さんに聞く。もしそうなのだとしたら、それは私たちの信用にかかわる問題だ。なぜなら向こうはいつでもこの契約を解除できたわけだ。それは私たちを裏切ることにつながりかねない。


「どうなんですか?」


ルイス先生がもう一度少し語気を荒げて問いただす。しかし溺結さんは俯いたまま返事をしない。


【そうだ。俺様たちは明らかに俺様たちに有利な契約を貴様らが無知なことを利用して結んだ。】


代わりに応えてくれたのは骨喰さんだ。その返答にルイス先生は頭を抱える。


「いやぁ、本当に何も気づいてなかったのか。まあ仕方がない。今後学んでいけばいいんだ。今後あるかはわからないけど、ねっ!」


その直後炎恨がこちらに向かって炎の弾を打ってくる。明らかな不意打ち。私たちが対応できずにいると、その弾は空中で分解して消えていった。


「まあ君たち、喧嘩はあとでした方がいいよ。今はこの神級怨霊を止めることを考えた方がいい。」


オベイロンさんがそう言って、光線をいくつも生み出し炎恨に発射する。しかし彼はそれを動かずにすべて炎で弾く。


「流石、神霊と呼ばれるだけあるか。っと、これは…」


彼の体を拘束する呪力、溺結さんの呪いだ。今度は契約呪術ではない。


「そうだね、オベイロン。まずはラーザを返してもらおう。みんなも手伝ってくれる?」


私たちは目を見合わせる。しかし今は協力するしかないだろう。彼を止めることが先決だ。


「わかりました。といっても、協力できることは少ないでしょうが。」


「いや、大丈夫だ。僕もこの溺結も近接戦闘向けじゃないんでね。接近されたら殺されるだろう。ということで、前衛を張ってくれる人がいてればいいな。」


いや、そんなこと言われても前衛を張れるほど卓越した技術をもって、そしてその恐怖に打ち勝てる人なんて…


「俺が行こう。」


いた。王国騎士団長の息子、剣術において右に出る者はいない戦士、ウラノスさんだ。それに続き、アンディさんなど近距離武器を得意とする人たちが前に出る。


「いいね、頼もしい。大丈夫、僕と溺結であいつの呪いはある程度防げる。あとは君たちが魔法で削るだけだ。」


強力な魔獣を倒す時のような感じだろうか。前衛に耐えてもらいながら魔法を打ち込んでいく。


「よし、そっちも準備できたみたいだね。僕も準備完了だ。」


この間、炎恨は何かをしていたらしいが、何をしていたのだろう。しかしそれを聞く間もなく戦いは始まる。


「じゃあは手始めに、これはどうかな?」


炎恨は両手の親指同士を組み、蝶のような形を作る。


「ფლეიმის პეპელა」


彼の周囲に紫色の炎でできた蝶が現れた。

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