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第百七十四話 死亡

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「ラーザ君!」


私は思わず叫んでしまう。画面上で彼はすごい高さから落下しているところだった。薄暗くその表情までは見えないが、魔法が使えない彼では落下の衝撃に耐えることができないだろう。


「大丈夫、見てて。」


私の隣に座って見ていた溺結さんはそう言う。横を見れば冷静な言葉を言っていた溺結さんも少しばかり緊張しているように見える。しかし焦っている様子はない。いったい何に緊張しているのだろう。


「あっ」


後方からそういう声が聞こえてきた。見れば下の方に床が見え始めた。床は見る見るうちに迫ってきて、彼は腕を突くようにして床に激突し、煙が立つ。

「流石に死んだかな?」


先ほど衝撃的な告白をしたばかりだというのにこっちも冷静に言う。画面に目を戻すと、ちょうど煙がなくなり彼の姿が明るみになった。


「……」


声を上げる者はいない。その姿を見るに堪えなかったからだ。地面についた腕はおかしな方向に折れ曲がり、あたりには血の池ができていた。しかし私が恐る恐るもう一度画面に目を移したその時だった。


「あ~痛えなぁ。流石にこの高さだと痛みも感じるか。」


彼がそう言いながら立ち上がったのだ。私は目を疑った。あの高さから落ちて何もせずに生き残るなんてありえない。いったいどのような手品を使ったのだろう。


「だいぶ落ちたな。もう最下層じゃないのか?」


ラーザ君は折れ曲がった腕をもう片方の腕で曲げなおし、向きを調節した。それで治るのかと思ったが、なぜか彼の腕は何もなかったかように元通りだ。それに血の池ができているのに彼の出血はいつの間にか止まっている。


「一体どうなってるの…」


私が溺結さんの方を向くと、すごく安心したような表情をしていた。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


俺は暗闇の中を歩く。まだ少し痛むところがあるが、動きに支障が出るほどではない。流石に緊張したがうまいこと事が進んでくれたので良かった。


「なんかそれっぽところについたな。」


俺はこれまでとは違う細かい紋様が刻まれた巨大な壁に対面する。紋様は炎のとそれを生み出している人型の何かで構成されている。まあ何を伝えたいのかはさっぱりだが。


「たのもー。」


俺は壁を押して中に入る。中は広い空間が広がっていそうだが真っ暗でよく見えない。しかし、しばらくすると壁につけられていた松明に手前から順に灯がともり始め、部屋がよく見え始める。


「なんだ、あれ?」


奥に何か巨大な赤い結晶が見える。近づいてみると結晶にひびが入り始め、炎が吹き出て来た。そして炎はどんどん大きくなり、その中から一体の精霊が姿を現した。人型だが、背に翼が生え、足はトカゲの尻尾のようだ。そして広い部屋を高く飛び始める。


「あ~、なるほど。こいつを倒せと。」


いや、今の俺じゃ無理だろ。そもそも攻撃を当てられる気がしないんだが。まあやるだけやってみるけどさ。


「ふう、じゃあ行くか。」


俺は壁の方に走り、先ほどと同じように壁を走り、精霊と同じ高さまで来る。そして一度壁を垂直に強くけり、精霊に接近する。


「さてさて、どんな奴かな。」


俺はそいつの首に空中で蹴りを入れるが、それはすぐに弾かれてしまう。指輪の力のみの筋力量ではこのくらいか。


「ज्वाला」


精霊がそう言うと空中に炎の弾が大量に生成される。それらは俺を追尾するかのように発射される。


「いや、これ本当に絶望的では?」


俺は何とかそれを避けながら精霊に攻撃を加えようとするが、どうしても巨体に阻まれうまくいかない。だんだん炎の密度も高くなってきた。


「うん、無理だな、こりゃ。」


空中で動きを止める。この狭い空間でこの密度の炎を避けながらこいつに傷を負わせるなんて今の俺には無理だろう。


「ぐはっ」


その瞬間俺の肉体を鋭利な形をした炎が貫く。宙につられた状態で俺は意識を手放した。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


ラーザ君が負けた。私はその決定的瞬間を目にしたし、今もそれを裏付けるように彼の体を炎が貫いているが、いまだにそれを信じられない。あの彼が?いつだって絶望的状況を打破してきた彼が負けるなんてあり得るのか?


「ラーザ…」


横で溺結さんが呟く。この怨霊はいったい今どういう気分だろうか。信頼して送り出した人が息絶える瞬間を目撃するなんて。


【やはり、こうなるか。】


骨喰さんがそういう。そこにはどこか事前にこのことが予想されていたかのような響きがある。


「わかってたんですか?」


思わず聞いてしまう。もしそうであるならばそれは彼を見殺しにしたのと同義だ。


【ああ、わかっていたさ。】


「じゃあ、なんで彼を止めなかったんですか!!わかっていてなぜ、止めなかったんですか…」


後半は声がかすれてしまい私でも何を言っているのかわからない。


「これはしょうがないことなの。いつかこうなる運命だったし、ラーザ自身もこれを受け入れるべきだった。」


私はその言葉にかちん、と来た。この者たちは彼の、ラーザ君の味方ではなかったのか。それなのに彼の死を何にも感じていない。


「そんなことない…彼はこんなところで死ぬべきじゃない。もっと、もっと生きるべきだよ…」


私がそう言った直後だった。


【何を言っている?言っておくがラーザはまだ死んでいない。】


私はその言葉を聞いて涙を拭きながら画面に目を戻す。その瞬間、誰かが叫んだ。


「おい、あれ見ろ、あいつ、まだ動いてる!」


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

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