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第百七十三話 久しぶりの一人

「一人か…」


階段を降りながら俺は呟く。思えば最近は一人で何かをするという機会がとても少なくなっていた。人間に転生する前、つまり魔族領の四大魔族という活動していた時も直近500年くらいは単独での戦闘行為なんてものはしてこなかった。常に近くに誰かいるという状況。


「一人は寂しいぞ。」


過去、魔王に言われた言葉を思い返す。あの時、あの言葉なければ俺はあの戦乱吹き荒れる魔族領で戦死していただろう。それほどまでにあの時代は厳しかった。


「まあ、時々一人になって羽目を外すっていうのも大事だよな。」


しかし適量の単独行動も精神を癒すのには重要になる。そういうのでは良い機会になるだろう。


「っと、ついたな。」


いつの間にか階段も終わり、目の前に石造りの通路が広がる。精巧な紋様が刻まれているが、何か攻略の手掛かりとなりそうなものはない。無視して進む。


「来たな。」


俺は通路の前の方を見据える。前方からこちらに駆けてくる足音。数とそのリズムから察するに4足歩行の獣が3体くらいか。今の俺は魔法も術式も使えない。骨喰も持っていないので完全に体術での勝負だ。


「さあ、久々に思いのまま行こうかな。」


俺は姿を現した3体の一本の角が生えた黒い狼と対峙する。向こうも俺のことを警戒ているのか、中々距離を詰めてこない。


「そっちが来ないなら俺が行くぞ。」


床を蹴り、一気に加速する。そのまま中央の狼の目の前まで迫る。反応される前に目の前の狼を頭から鷲づかみにし。そいつの体で周りの狼を薙ぎ払う。吹き飛ばされ壁に衝突る狼を横目で追いながら気を失ったことを確認する。そして最後につかんでいる狼を地面に頭から叩きつけて全員を地に伏した。


「はぁ~、やっぱ誰にも見られてないってのがやりやすいよなぁ。」


普段ではこのような戦闘法は周りからのイメージダウンにつながる恐れがあるため控えているが、今はおそらく誰にも見られていない。先ほどまで俺たちを見ていた【スクリーン】の聖力の線もなくなっている。


「よし、この調子で進んでいくか。」


俺はさらなる深みへ足を踏み入れて行く。




「ふう、ようやく終わったな。」


俺は周囲で倒れている精霊を見渡す。あの山羊角の男が言うにはこれはあいつの力で作られた疑似精霊という話だった。それゆえに人型の精霊でも心置きなく戦える。


「うーん、だいぶ骨が折れるなぁ。」


先ほどから散見していたが、今回の通路には大量の罠だ。先ほどまでは比べ物にならない量。気をつけたら大したことないのだが、今の俺は体を回復する手段を持ち合わせていないので、少しの傷でも受けたくない。


「いやぁ、殺意マシマシだな、こりゃ。」


俺が先ほどの部屋から人型の精霊の体をもってきて前方に投げると、地面に落ちた瞬間地面から白い光線が出てきて串刺しにしてしまった。その後も地面に触れているところからは絶え間なく光線が出てきて、どんどん体がボロボロになってしまう。


「うーん、これ地面には触れたくないよなぁ。」


一応床の模様が絶妙に違うので見分けること自体は簡単だが、それでも時間がとられる。仕方ないので少し賭けに出ることにした。


「ちゃんと助走をつけて…」


俺は来た方に少し戻り、助走をつけ、光線地帯直前で前方斜め方向にジャンプする。明らかに一度のジャンプで届く距離ではないので、空中で体勢を入れ替える。


「よっ、よっ」


そのまま俺は壁をジャンプしていくことで何とか地面に触れることなく光線地帯を抜ける。俺が少し壁にもたれかかり休憩していると、壁の模様が俺が持たれているところだけ少し薄いことに気づいた。


「なんだこれ…」


俺は小声でつぶやきよく観察する。そして俺はあることに気づきその場で足踏みをする。ちょうど歩いているような感覚で、少しづつ音を小さくしていき、足踏みを止める。すると、壁がうっすらと透明になっていき、中から大量の獣型精霊と奥から人型の精霊が出てきた。俺は出て来た側の壁のギリギリで待機していたので、奴らが全員出たのを見計らって先頭のウシ型の奴を光線地帯の方向へ蹴飛ばす。


「おお、これは気持ちいいな。」


ウシ型精霊は体がでかいので、大量の精霊を巻き込みながら光線地帯の餌食となる。奴ら相当驚いたのか、ほとんど抵抗できずにあとはヒョロヒョロの人型精霊が残るのみとなった。流石にこいつは少しばかり知能が高いらしい。


「足音のような音を鳴らし、遠ざかったと思わせて不意打ち。手慣れてるね。」


「ああ、そうだな。」


その場で戦闘が始まる。ほかの精霊を使役しての不意打ちを試みるほどだ。これまで戦ったどの精霊よりも強い。骨喰があればどうということはないが、こうも逃げに徹されると時間がかかる。俺の突きはのらりくらりと躱される。


「でもまあ、逃げるだけじゃ勝てないけどな。」


俺は一瞬の不意を突き、腹に拳を突き、壁にぶつける。精霊はその場で倒れこんでしまった。


「ふふふ、やっぱり強いね。こうするしかないみたいだ。」


精霊がそう呟くと、辺りから地響きが聞こえてくる。まさかこれは…


「おい、それは流石にルール違反じゃないか?」


俺は咄嗟に反対側の壁、つまりこいつらが出て来た穴の方に逃げる。もしかすればこれで…


「はは、逃げても無駄だよ。この周辺一帯が範囲だ。」


その直後、地面が大きく割れ、俺は安定感を失う。小迷宮(ミニ・ラビリンス)を壊すことで俺を落下死させようとしているのだろう。


「じゃあ、がんばってね。」


ヒョロヒョロの精霊がそう言って空中で見えなくなり、俺は一人になる。


「あ~、やっぱこうなっちゃうか。」


俺は体勢を整えながら、しぶしぶ解決策を講じ始めた。

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