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第百七十一話 火山の活用法

「ようやく森を抜けたな。」


俺たちは鬱蒼とした森を抜けて草原に出た。草丈は腰に届いていて少し歩きにくい。遠くの方には目的地である黒い塔が見える。あとどれくらい歩けばつくのだろうか。


【あれを見ろ。】


少し歩いていると骨喰が言う。言われた方を見てみると、近くに高い山があり、もくもくと煙を出している。いわゆる火山という奴だろうか。


「あれ、地形っていうより精霊だね。」


溺結呟く。俺ではどちらがどちらなのか判別がつかないが、怨霊である溺結ならわかるのだろう。文字通り見えて居る景色が違う。


「待てよ…火山の精霊ってことは、自在に噴火とかもできるのか?」


【どうだろうな。精霊自体の能力によるが、あれほど大きく霊力を出している精霊だ。できるかもしれない。】


「それがどうしたの?」


俺はある一つの考えを巡らせる。これがうまく行けばもしかしたら大幅な時間短縮ができるかもしれない。俺がそう考えていると山頂の方から轟音が聞こえてくる。


「て、おいおい待ってくれよ。」


俺が空を見上げるとちょうど俺の方に巨大な岩が飛んできていた。明らかに俺たちを狙って攻撃しているのだろう。溺結が手を掲げると、岩は空中で停止する。しかしその後も轟音が鳴り続け岩は俺たち方に降ってくる。


「どうする?全部止めるのは今の私の呪力量じゃ厳しかも。」


先の戦いで溺結は大量に呪力を消費した。あの時は余裕そうに振る舞っていたが、実際には呪体の強化、修復には呪力は想像以上に消費される。


「溺結、ちょっと失礼するぞ。」


俺は溺結を片手で抱える。見かけ通り相当軽い。同じような体格のアテナなどに比べても恐らく相当軽いだろう。怨霊は人間などとは違い呪力を巡らせるだけで体を維持できるので必要な器官が少ないのだ。


「走るぞ。目指すは山頂だ。あの精霊に話がある。」


【しかし俺様が思うにとても話が通じるようには見えんが。】


それはそうだ。しかし一旦この攻撃を止めてもらえないとちょっと面倒くさいので仕方ない。


「呪力斬」


俺は最低限の動きで山頂を目指すため、俺に当たりそうな岩をすべて呪力斬で斬る。しかし骨喰自体に呪力にも限りがある。ギリギリを攻める。


「着いたな。」


標高は1300mくらいだっただろうか。一直線に上ってきたし障害物もほとんどなかったので登りやすかった。


「すまん、一旦これ止めてもらっていい?」


俺は火口に向かて語り掛ける。この距離になれば俺でもこいつが精霊だということはわかる。火口から霊力がふつふつと煮え立っている。


「ふむ、よくぞここまでたどり着いた。」


村の長老みたいな声が聞こえたかと思うと噴火が収まった。姿は見えないが、恐らくこの火口全体が精霊であるので見せる姿もないのだろう。


「王に聞いていたが想像以上だ。身体能力も、その邪悪な力も。して、ここまで来てどうするというのだ?」


「俺たちをあの黒い塔まで届けてくれないか?」


一瞬の沈黙。なんだ、そんなに予想外の質問だっただろうか。


「お前さんは私の立場を知ったうえでその要望を通すためにここまで登ってきたのか?」


「立場って…ただあのムカつく精霊に俺を足止めするよう言われてただけだろ。それなら失敗に終わったんだし、もういいだろ。」


俺がそう言うと、とても大きなため息が聞こえてきた。そしてそのあと少しの笑い声。


「まあそうじゃな。あいつらで止まらんかったんじゃい。遅かれ早かれあの塔には着く。して、私はどうすればよい?」


おお、だいぶ話の分かる奴で助かったぜ。俺は近くに転がっていた岩を骨喰で薄い板状に加工する。刃を入れるたびに火口から呻き声のようなものが聞こえてきた気がするが気のせいだろう。まさかこの火山全体がこいつの体な訳ないよな。


「溺結、これを俺が投げたタイミングで空中に固定できるか?」


「う、うん。できると思うけど。」


確認ができたので、俺はそれを力いっぱいに投げる。できるだけ火口に近い場所に投げたので、火口付近でそれは停止する。


「うん、角度も位置もぴったりだな。」


岩の板は火口と黒い塔を結ぶ直線状に配置され、その角度は地面から見て直立の半分、つまり45度だ。俺は溺結を抱えてその上に飛び乗る。


「じゃあ、勢いよく噴火してくれ。できるだけこの板に垂直に力を加える形で。」


火山は俺の意図を察したらしい。少しずつ火口の霊力が一点に集まる。


「体勢を崩さぬようにな。」


その瞬間、大噴火が起きる。溺結は岩を固定していた呪いを解除し、岩は風圧に押され、黒い塔に向かって想定よりも大きい速度で飛んでいく。体の位置を変えつつ俺はバランスを保つ。


【すごいな。先ほどはこれを考えていたのか。】


「まあな。徒歩よりもよっぽど早いだろ。」


こういう奇想天外な発想というのは大切だ。特に2000年間も生きてきたのだ。どうしても頭が固くなりがちなのでいろいろな工夫をするのは心掛けている。


「っと、ギリギリ足りなかったか。」


黒い塔の目の前で着地する。先ほどの草原から打って変わって周囲は砂漠だ。これも一種の精霊かと思ったが、違ったらしい。俺たちは歩いて塔の足元まで来る。改めて見上げても高すぎる。


「いやぁ、すごいね。驚いたよ。」


上の方からそんな声が響いてきた。

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