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第百六十六話 霊への道

「この封印を解けるか?」


俺は冒険者協会自治区の家から持ってきた例の箱を見せる。溺結や骨喰の話によればエルフ領にこの封印を解くことができるやつがいるらしい。それにミレミアはこれでもここの姫様だ。こいつが解けれなければ誰にも解くことはできないだろう。


「何これ?ちょっとよく見せて。」


こちらに延ばされたミレミアの掌の上にそれを乗せる。少しの間ミレミアはそれをしげしげと観察していたが。目を離すとこう言う。


「これをどこで手に入れたの?」


「骨喰を見つけたのと同じところだ。」


それを聞くともう一度それを注意深く観察し俺の方に返してくる。


「これは精霊の力を使った封印ね。多分さっき話にできてきた前の文明の人たちが作ったんでしょう。とても高度よ。申し訳ないけど今の私じゃ到底開けられない。」


「そうか…」


ふむ、そうなるとこの村に期待するのはできなさそうだ。となれば後は候補地は一つしかあるまい。


【霊層に行くか。】


骨喰がそういう。霊層というのがその精霊が住まう層なのだろう。そこに行けば流石にこの封印解くことができるやつがいるだろうしな。


「ミレミア、霊層に行きたいんだが、連れて行ってくれるか?」


霊層に行く最も手っ取り早い方法はこいつが監視しているその裂け目をくぐるということだ。骨喰で空間を割るということも考えたが、これまで霊層に当たったことがないので恐らく不可能かできたとしても条件が厳しいのだろう。


「ちょ、ちょっと待ってよ。あんた達、何を頼んでいるか分かってるの?私の話聞いてた?私は異物を向こう側に渡さないようにここにいるんだよ?それが契約なの。」


「いやいや俺たちは異物じゃないだろ。それに別に精霊に害をなそうってわけじゃないし。何がだめだんだ?」


「あのねぇ、君たちは自分の家に知らない人が勝手に上がってて、何もしてないから別にいてもいいでしょ、とか言われたら納得できないでしょ。」


俺はその言葉に黙り込んでしまう。確かに言われてみればその通りかもしれない。霊層というのは精霊にとって家のようなものなのだろう。


「でも、そこを何とかできないか?なるべくお前の不利益にならないようにするから。」


「本当にもう…魔族ってなんで全然変わらないの。前に来た時もそうやって無理を通そうとしてきたでしょ。」


そう言われて2000年前の記憶がよみがえる。エルフと人間の協力体制を敷かれぬようにと四大魔族全員でここまで来て、交渉しに来たのだ。そしてらばったり人間の使者と出会ってそこで戦闘開始…というか一方的な虐殺が始まった。その後エルフ側にも同じように…そしてミレミアは当時まだ年端も行かぬ少女であった。


「あの時みたいに武力でどうかしようなんてことは控えるが。しつこさだけは変わってないからな。」


「やめてよ。あんたも私も時間に余裕があるわけじゃないでしょ。」


「人間も、多分同じだぜ?」


「ん、どういうこと?」


「多分だけど人間も俺と目的は同じだ。霊層に行くことが目的になってる。その場合俺が何かしなくても人間側が何か起こすかもしれない。」


その言葉を聞いた瞬間ミレミアの顔が引きつる。そこまで考えていなかったのだろう。しかし、俺が言ったことは正しい。そいでなければこんなところに修学旅行という名目で来るはずがない。


「どうすればいいの?」


「簡単だ。俺とあいつらを全員霊層に連れていく。まあ。そうだな。ミレミアは頑張って止めたけど俺たちが勝手に入ったという体で行けば大丈夫だろ。だめか?」


俺の提案を聞いたミレミアはじっくりと考え込む。その額には汗が滲んでいて、必死に考えをまとめようとしているのだろう。太陽の光がうっすらと見え始めてきた頃、答えを口にした。


「わかった。それでこの村の平穏が保たれるなら。私は精霊なんかよりもこの村の方が大事だから。」


「その言葉が聞けて良かった。じゃあ、ルイス…人間の代表にはこっちから伝えておこう。明日の朝、またこの家に全員で集合でいいか?」


「うん…それでいいよ。」


「ああ、俺とお前が昔からの知り合いだってことも隠しておいてくれ。頼む。」


ミレミアから肯定の返事をもらった後、俺はミレミアの家を出た。すでに外に出ているエルフはいない。


【何とか霊層に行く手筈が整ったな。】


「ああ、でもこれからも少し大変だぞ。まずはルイスのところに行こう。」


俺たちは先ほどの宿に帰った後、ルイスを起こして事の詳細を話した。もちろん俺とミレミアの関係性は伏せたままだ。


「君はなんという人だ。まさかこの夜にそこまでのことをするとは。明日からじっくり行こうと思っていたのだがね。まあいい。これで手間が省けたというものだ。」


早朝、食卓を全員で囲みながらルイスがみんなに説明する。その時は俺がその話をつけたということも伏せられていた。皆特段驚いた様子を見せていないので、事前に今回の目的を聞いていたのだろう。


「おはようございます、ミレミア様。」


ミレミアの家に行き、ルイスが挨拶する。俺や溺結は生徒の影に紛れておく。


「ええ、裂け目はこちらです。」


裏庭的なところに案内され、その地面に掘られた階段を降っていくと祠が見えてきた。祠の前には縄をかけられた門がある。


「では、封印解きます。」


ミレミアが縄に手をかざすと縄が次第に透明になり消えていく。精霊の力で閉じられていたのであろう封印が解除された、ということだろう。


「よし、行くぞ!」


ルイスを先頭として皆で裂け目に飛び込む。


「ああ!だめです!行ってはいけません!」


明らかにわざとらしいミレミアの声が俺の後ろから聞こえてきた。

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