第十二話 魔帝の決意
「はあ、」
その日の夜、俺は宿のベッドの中で1人ため息をつく。原因は一つしかない。そう、人間が今計画しているという10年後の魔族領総攻撃である。
「これからどうしようかな。」
思わずこぼれる。もちろん明日のことではなく、これからのことだ。そのタイミングで俺は、10年ほど前のことを思い出していた。あの宴の日の夜、俺は決意したのだ。必ず魔族領に帰還して魔王と戦うと。しかし、この10年間で俺のその考えはすっかりなくなってしまった。人間として平凡に生きていくと言うこともいいかなと思ったためである。この10年間は俺にとって楽しいものだった。力が全てだった魔族領に生まれ、幼少期から一つの領土を治め、拡大し、四大魔族と呼ばれるまでになっていた俺にとって、少しずつ育っていくと言うことは初めての経験だった。だからこそこのまま人間として天寿を全うし、その後魔族に転生と言う選択肢も考えていたし、それを実行しようともしていた。しかし、今日このことを聞いてそれを実行できる魔族が何人いるだろうか。故郷が総攻撃に遭っているなか、のうのうと生きていくつもりはない。つまり、俺がするべきことは、
「人間の妨害。」
これである。しかも、妨害するときは迅速にそれでいて効果的にするべきだろう。
「騙して、騙して、騙し尽くす。」
10年と言う長い月日かもしれないが、人間を騙し続けて最終局面で計画をぶち壊す。これしかない。なに、俺は2000年も生きてきたんだ。これくらい一瞬で過ぎていくだろう。それに、騙すと言うのは俺の得意分野だ。
「よしっ。」
俺は決心を新たにする。とりあえず今からすべきことは、
「ミトウワ村に帰ろう。」
そう言うと俺は、深い眠りへと落ちていく。
翌日、俺は馬車業者の建物中で手続きをしていた。ミトウワ村のような田舎には馬車の定期便なんていうものは存在せず、逐一馬車を特別に手配してもらわなければならない。正直馬鹿にできない値段だが、しょうがない。
「ラーザ君。」
俺を呼ぶ声がした。振り返るそこには赤い瞳と綺麗なブラウンの髪をしている可愛らしい少女がいた。なぜか肩で息をしているが。
「もう、帰るんだったら言ってよ。昨日パパから聞いてびっくりしちゃった。」
そう言って、頬を膨らませる彼女。
「あれ、言ってなかったけ?」
とりあえずとぼけてみると、
「言ってないよ〜。昨日お稽古から帰ってきたらラーザ君がもう帰ったって聞いてびっくりしちゃったんだ。結局昨日はあんまりお話できなかったし。」
そう言いながら隣に座ってくるアテナ。
「へえ、それはごめんな。それにしてもよくこの場所がわかったな。王都にはもっといろんな馬車業者がいるのに。」
「分かったんじゃなくて、通り掛かったらラーザ君がいただけです〜。」
嘘だな。断言できる。そもそも貴族の御令嬢がこんな王都の中の下町を通り掛かるか。しかも、めちゃめちゃ疲れてるじゃないか。息も少し荒いし、顔も赤いぞ。
「そうか、偶然通りかかったのか。」
俺は笑って応える。
「っと、もうそろそろ出発の時間だ。」
手配した馬車がやってくる。
「そうか、じゃあしばらくお別れだね。今度は入学式の日かな?」
「そうかもな、じゃあまた会おう!」
そう言って手を振りながら馬車に乗る。
「バイバーイ!」
アテナの声が聞こえた。後ろを振り返ると、ずっと手を振ってくれている少女がいるのであった。
少し短いかもですが、今日はここまでです。また明日も投稿予定なのでお願いします。