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第百五十九話 異変

「シャラル遅いなぁ。」


俺は焚火に薪をくべながらつぶやく。先ほど少し離れたところにある川まで水浴びに行ってくると出て行ったきり帰ってきていない。万が一のことがあるので20分ほどで切り上げるように言っていたのだが。


「確かにちょっと心配だね。これまでこんなことなかったのに。」


溺結も火を見つめながらそう言う。怨霊だからか、その瞳には炎が反射していない。


【そんなに心配なら少しばかり様子を見に行くとよい。俺様がここに残っていれば入れ違いも起こるまい。】


骨喰がそう提案してきた。たしかに、俺たちが洗い物などで使っている川まで様子を見に行った方がいいか。


「そうだな、俺が呼べば骨喰はいつでも俺のところに来られるわけだし。じゃあ、アルケニー、溺結、行こうぜ。」


神器である骨喰はその主である俺が呼べば世界のどこにあろうと文字通り飛んでくることができる。どのような原理なのかを少し前に聞いてみたのだが、それが世界の理であるゆえに、原理も何もないらしい。ちなみにこれは覚醒状態の神器にのみ働くとか。


「シャー!」


すぐそばで寝ていたアルケニーも俺の呼びかけに目を覚まし、元気に返事をする。巨大化したアルケニーの上に乗り、川を目指す。一人で川に行く場合、どこに行くかはシャラルと話し合っているので、まずはそこに行ってみる。


「ここだけど…やっぱいないな。」


川の中までよく目を凝らすが、沈んでいるということもなさそうだ。


「ラーザ、これ見て。」


少し遠くの方を見ていた溺結が持って来たのは服と靴だ。それらは間違いなくシャラルが着ていたものに違いない。つまりここに来ていたのは間違いないのだろう。


「もうここにはいないっぽいか?」


俺は近くの気配を探るが反応はない。魔法や術式を使うことができればもっと違う結果になったかもしれないが。


「大丈夫…これがあれば探れるよ。」


溺結はその服をじっと見つめる。


「იპოვე პატრონი」


これは、呪詛だ。俺はまだこれが何を意味する言葉なのかはわからないが、今この状況を打破するものなのだろうということは予想がつく。


「ラーザ、見える?」


「見えるって何が?」


俺がそう言うとまた溺結がぶつぶつ言い始めた。その直後、俺の視界に一本の白い線が浮かび上がる。


「これは…呪力線か。」


「うん、私が今使ったのは所有者の現在地を示す呪い。高度なものになればその正確な位置が知覚できるようになるんだけど、怨霊である私が自分本来の呪詛以外を使うにはこれが限界。まだ力も戻ってないし。」


なるほどね。つかりはこれを辿ればシャラルの場所まで行けるということか。


「どれくらい伸びてるか、とかはわかるか?」


「私の呪力がどこまで到達してるかである程度は…大体20㎞くらいかな。」


え、なんでそんなに遠くのほうまで行ってるんだ?ここから20㎞くらいでこの方角はと言えばあれしかない。


「街か…本格的にシャラルの身に危険が迫ってるな。」


ここら辺の地方で一番の大都市だ。そりゃもちろん王都や冒険者協会自治区には遠く及ばないが。


「なるべく早めに行った方がいいな。アルケニー、あれやるぞ。」


「シャー!」


アルケニーは更に巨大化し、俺はその上に乗る。


「あれって?」


「見てればわかる、あとからアルケニーとついてきてくれ。」


俺がそう言うとアルケニーが高く飛び上がる。この巨体に見合わないジャンプ力で大体100mくらいだろうか。


「ほいっと」


俺はアルケニーから離脱し、背を向ける。その直後に背中にとてつもない衝撃がかかる。


「ナイス!いい位置だ。」


「シャー!」


俺はどんどんと遠ざかっていくアルケニーを後ろを向きながら確認する。原理は簡単で、ただ、アルケニーの糸で俺の背中を斜め上方向に押してもらっただけだ。これ、めちゃくちゃ痛みが走る代わりに、空中では結構早い方の移動方法だ。もちろん魔法や術式を使えばもっと早い。


「っと、見えてきたな。」


地面に伸びている白い呪力線を辿って行った先に都市が見えてくる。夜だというのに明かりはまだまだついたままだ。


「さーて、どこにいるんだ?」


街に入った俺は、呪力線を追いながら中心部へと歩みを進める。人が多いので呪力線がすぐに攪拌されてしまい、非常に見えづらい。


「っと、この中か。」


俺は一つの建物の前にたどり着く。明らかに呪力はここを指している。地下だろうか?本当に犯罪のにおいがプンプンしてくるな。


「来い、骨喰。」


俺がそう呟き、少し待っていると、骨喰が空から飛んできて、俺の腰に鞘が引っかかる。周りでは驚きの声が上がっている気がするが、まあ気にしても仕方がない。


【ここか?】


「ああ、間違いない。」


建物の看板を見た限り、そこは中くらいの規模の宿屋のようだ。しかし、今は『貸し切り』の札が下げられている。まあそんなものは無視するが。


「っち、鍵がかかってるな。」


まあ事を荒立てずに開錠も出来ないことはないが、少し時間がかかるし今はその時間が惜しい。


「ちょっと、乱暴するか。」


俺は骨喰で扉を壊す。中には少し高級感のある空間が広がっている。


「ちょ、どちら様ですか?」


ちょうど前を通りかかってきた給仕の人が驚いた顔で聞いてくるが、その言葉に耳も傾けず、部屋全体を見渡す。


「地下への階段はどこだ?」


【ラーザ、奥だ。】


確かに部屋の奥に階段がある。俺はそこにダッシュで行き、降る。その途中でこんな声が聞こえてきた。


「だから、私は絶対に何もしゃべらないから!」


これはシャラルの声だ。何かの尋問を受けている可能性がある。俺は更に急ぎで声がする部屋へと近づく。


「はあ、そんなこと言ったって、お互い時間の無駄だとは思わないか?」


男の声だ。気配を感じる限り中には相当数の人間がいると予想できる。俺は骨喰に手をかけながら扉の前まで来る。


「何度も言わせないで!私は…」


「シャラル!」


俺は声を出しながら扉を開けた。

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