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第百五十八話 大結界

「うわぁ、大きな壁…」


アルケニーに乗ったシャラルは目の前に立ちはだかる暗闇を見つめる。まだ昼間だが、この先からは光が出てきていない。シャラルが壁と形容するのも無理はない。本当にただの黒い壁にしか見えないからだ。しかしそれはどこまでも高く続いている。


「これが人間領、中立域、魔族領を隔てる結界だ。2000年前から未だに現役だな。これを壊す、もしくは無効化した時には、その結界に接してるそれぞれの領土に通知が行くんだ。」


まあそもそもこれの無効化とか考えない方がいいけどな。まず時間の無駄だ。


「地図上では、ここの結界の向こう側がエルフの森だな。じゃ、行くか。」


「行くって…どうやって?」


溺結が聞いてくる。


「こうやってだ。」


俺は持っていた骨喰を振るい、空間を割く。そこにできた呪層への入り口をくぐる。


【なるほど、そう来たか。】


骨喰は合点がいったらしい。みんなもついてくる。


「わあ、ここが呪層?本当に何もないね!」


「シャー!」


アルケニーとシャラルは呪層に来るのは初めてだ。ここら辺は人間もほとんど寄り付かないからな。怨霊もまったくいない。


「呪層と現はリンクしてるって言っても、それある程度の方角と位置だけだからな。正確な地点は出てみないとわからないけど、ある程度あの結界の方向に進めば良いだ…ろ…」


俺は思わず絶句しそうになった。その理由はただ一つ、呪層に先がないからだ。先がない、というのはどういうことか。それはつまり、地面が終わっている。さらにその奥には何もない白い空間が広がっているのだ。


「どうなってるんだ?」


俺がその空間の先に手を触れようとすると、


「なんだこれ?」


俺の手には何も触れていない。それどころか何かが触れたという感覚すらない。しかし俺の手は何かに阻まれているがごとく進まない。この感覚…何かに似ている気もする。


「はぁ、森はこの先の方角だよな…仕方ない、引き返すか。」


俺たちは一度現に戻り、話し合いを行う。


「ラーザ、あれは一体どういうことなの?」


シャラルが聞いてくるが俺もわからない。ただ、呪層が途切れていた。


「骨喰、溺結、お前たちはこれまであんなもの見たことあるか?」


【いや、まったく。】「全然知らない。」


こいつらが知らないとなると本当に何もできないな。さてさてどうしたものか。


「それにしてもあの感覚、何かに似てたんだよな。」


俺はあの時の感覚と記憶を照合していく。そこまでありふれた感覚ではない。特別なものだ。


「ああ、あれだ!」


俺はついにあの既視感の正体を見つけた。それはつまりあの結界だ。俺たちがあの結界を作った時に一回触ったのだ。そのときのあの独特な感じとあれが酷似しているのだ。


「つまりな、こういうことだ…」


俺は今まとめた考えを話し始める。


「……なるほど。つまり現があの結界は普通の結界属性の魔法や術式じゃないってことね。空間属性を織り交ぜた結界で、空間そのものを断絶してるから光が入ってこずにあんなに黒いんだ。」


【それ故に現とつながっている呪層においても空間が断絶していると。】


溺結と骨喰がわかりやすく説明しなおしてくれる。俺の説明が使っている結界の説明に重きを置きすぎてシャラルが放心状態だったからだ。


「これからどうするの?」


シャラルが不安げに聞いてくる。


「んー、今は手詰まりだな。といっても依頼を貰っちゃった以上は達成しないとだし。まあ野営道具はたくさんあるからな、少しの間ここらへんで解決策を練ることにしよう。」


その後俺たちは手分けして近くの森の木を切り、空き地を作った。そこにテントを立てて焚火の準備をしているうちに日も暮れてしまった。


「ラーザ、これ使っていい?」


シャラルがバックの中から調味料と取り出す。それは少し値の張る奴だが、まあ初日は英気を養う目的で使ってもいいか。


「いいけど、あんまり出しすぎるなよ。終盤には毎日同じ味とか飽きるだろ。」


「シャー?」


アルケニーが山の散策から帰ってきた。背中には大量のキノコが乗っかている。採ってきてくれたのだろう。


「ええと、これは食える、これは無理、こっちもいける、って誰を殺すつもりでこんなの採ってきたんだよ。」


俺がキノコの選別をしている間にもいい匂いが漂ってきた。溺結とシャラルの合作だ。


【ラーザ、結局どうするつもりなのだ?まさか無策ではあるまい。】


骨喰が聞いてくる。まあ確かに無策でここに居続けるわけにもいかない。俺はキノコの種類を特定しながら話す。


「王族とエルフは定期的に連絡を取りあっていると思われる。それがどれくらいの頻度かは知らないけど、少なくとも月に2.3回はあるんじゃないか?だったら、ここで待っとけばいつかその連絡者がここら辺に来るはずだ。それに乗じていくしかないだろ。」


実際今考えられる策はこれ位しかあるまい。ほかに有効な策なんて思いつかないので、しばらくはこのまま待機だ。


「おーい。ラーザ、できたよ!」


シャラルが俺を呼ぶ。俺もちょうど最後のキノコを『食えるけど酸味が少しあるグループ』に分類し終えたので、それをもってテントの方へと行く。


「じゃあ、いただきます!」


俺たちは夕食後、テントの中に入る。


「おやすみ、シャラル。」


俺はシャラルが寝たのを確認し、テントを出る。いつまで待てばいいかは知らないが、気長に待ちますかね。




そして、10日が過ぎた。

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