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第百五十三話 百鬼夜行‐其の後

アレス・アカデミアに生徒たちによる治療が一通り終わった後、その場には緊張感のある空気が流れていた。周りは炎の障壁により辺りも見渡せないし、炎の轟音により周囲の音も聞こえない。これは骨喰がラーザと溺結を人間に連れ去られないようにするために作り出した。


【ふむ、まあ十分か。】


ラーザの体の治療は完全に済ませてある。なにせラーザに治癒をかけたのはアテナだ。その治癒術式は現在の人間領の中でもトップクラスだ。


「もうそろそろ説明を願いたいですね。」


ルイスは口を開く。そのカリスマ性はこの異常事態でもパニックにならないこの集団の長であることが証明している。


【何についてだ?】


「決まってるでしょう。すべてです。この状況についても、あなた自身についても。言語を操る武器など聞いたこともない。」


この場にいる人間は人間領の未来の最前線を担う若者ばかりで、それ故に子供たちに危害が及ぶようなことはあってはならない。


【そうだな、だったら今の状況を教えてやろう。ただ、信じるかどうかは貴様らで決めろ。】


それから骨喰はラーザがダンジョンで発見した時の話から、今に至るまでを大雑把に説明した。骨喰自身のことも含めて。その話を聞いているときの全員の表情は驚き一色だ。怨霊、呪層、神器など。しかしルイスは子供たちとはまた違うことで驚いていた。


【ルイスといったか。貴様は今考えているな。このことを上にどのように報告するかを。違うか?】


「ええ、まあね。知らないことばかりで説明に頭を悩ませることになりそうですから。」


【違うだろ?貴様は今、ラーザがそこまでのことを知っているという状況に頭を悩ませているのだ。恐らく怨霊や呪層というのは国の最高機密の一つだっだのろう。】


「はは、そこまで見破られるなんて流石、神器は違いますね。」


「先生、このことを知ってたんですか?」


生徒の一人、アンディが言う。


「まあね、百鬼夜行についても知っていたとも。そのために今日は王国呪術師団に王都を守らせていたんだ。だが、予想外の介入で事態が過ぎるまで待つという決定が下されていたみたいだが。」


予想外の介入というのはラーザのことだろう。


「じゃあ、もしかすると彼を見殺しにするかもしれなかったんですか?」


アテナが抗議の声を上げる。ルイスは何を当然のことを言うのだという顔をする。


「遠方から確認をした所、介入者は指名手配犯で死刑囚のラーザと断定された。ラーザが怨霊に殺されるならよし、殺されないとしても削れたところを叩けばよいということだ。しかし今は我々を人質に取っている形だがらね。なかなか殺せない。」


仮にでも前までは教え子だった少年に非情なことを言う。しかしそれが貴族であり、政治家としてのルイスなのだろう。


【そうだ、この中で呪力一定出力で操作できるものはいないか?】


「まあ幾人かはいるが…どうした?」


【溺結に呪力を送り込む。これで目覚めるのが早くなるかもしれない。】


溺結は怨霊だ。呪力を流し込めば回復はするだろうが、自分に適合する呪力でなければ逆効果になることも多い。


【こいつは神級怨霊だぞ?呪力に関しては最強だ。おそらくどのような呪力でも適合する。】


「それは我々にメリットがない。」


【やらなかった場合のデメリットを考えた方がいい。】


ルイスのささやかな抵抗も一蹴される。その後生徒の中から三人ほどが前に出て溺結に呪力を流し込む。


「怨霊ってホントに全部呪力なんだね。」


後ろから覗き込む形でアテナが言う。その目は微細な呪力であっても感じ取れるほどに成長している。


「それにしても不思議です…この世にこんな生物がいるなんて。」


「それは厳密に言えば生物ではない。我々から漏れ出た呪力が積み重なり生まれたものだ。殆どの場合は知能を持たないが、この骨喰の口ぶりからすると相当賢いようだな。」


マリアの呟きにルイスが補足をする。それを説明できるほどには人間領は呪層についての知識を持っているということだろう。


【貴様らはラーザと友人の関係にあったのだろう?俺様が話したのだ。今度は貴様らが話す番だ。】


骨喰がそう提案した。この刀はそういう世俗的な話も大好きだ。


「友人…そうですね。私たちは良き友でした。」


アリアがそう口を開く。その表情は少し暗い。


「大人びていて、でも少し子供っぽいところもある。平民なのに知識も戦闘技術も一級レベル。私たちはよく懇意にさせてもらいました。」


「だが、その生活も長くは続かなかった。」


ウラノスが続きを語りだす。


「俺はまだ疑っているが、ラーザはとある武術大会で不正を働いたという理由で投獄された。まあ相手が悪かった。何せあの…」


【待て。】


そこまで言ったタイミングで骨喰が静止する。なぜなら何者かが炎の中を突っ込んできているのを感じたからだ。


「はあ!ようやく出れた。みんな、無事か?」


業火の中を強引に通ってきたのだろう。声に主は体全体を癒しながら言う。年はおそらく子供たちと同じくらい。金髪に碧い目の美青年だ。


「…!」


その瞬間その場を全く別の緊張感が覆い尽くす。それはなぜか。今の今まで彼の話をしていたからだ。そう、彼はあの…


「このような場所まで、よくぞお越しくださいました、皇太子殿下。」


貴族ならば誰も知っている有名人。現国王の一人息子である。そしてあの大会でラーザに完敗した男。


「はっはっは!僕と君の仲だろう、ルイス。そう畏まるな。そしてこれが…あの時のガキか。」


皇太子殿下はそういって意識をまだ取り戻さないラーザに近づく。止めたいところだが、皇太子という立場上誰も何も言えない。


「今、この日をどれだけ夢に見たことか…」


そう言って皇太子は術式を準備し始めた。と、その瞬間、


【来たか。】


辺りの景色が一変した。

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