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第百四十九話 百鬼夜行‐其の伍

このままだと負ける。俺の2000年の人生経験がそう教えてくれる。俺は立ち上がりながら策を練る。最強の怨霊に勝つには正面戦闘では不可能だろう。それに犬神の神通力が厄介すぎる。斬ろうとすればあいつは瞬間移動で逃げることができる。


「そうですな…このままいたぶるというのも何か興に乗らない。あなた方の作戦会議の時間をとって差し上げましょう。」


「へっ、なんてお優しいことだ。」


恐らくこれは本当だろう。こいつは今、圧倒的優位な立場にいる。俺がどんな手を使っても勝てると思っている。俺は【思考加速】と【思考分割】を使い作戦を立案していく。生まれた無数の作戦を一つ一つシミュレーションしていき最も勝てる確率の高い案を一つまとめる。


「骨喰、聞いてくれ。これが俺の作戦だ。」


【わかった、教えてくれ。】


この作戦は成功する確率はものすごく低いだろう。しかし決まればほぼ確実に勝てる。


【ラーザ、本当に行くのだな?】


「ああ、もちろん。」


俺たちは2体の怨霊の方を向く。炎恨は上空でこちらを笑いながら観覧している。


「行くぞ!」


俺は犬神の方に駆け出す。


「正面突破ですか…なんとも滑稽な。」


溺結が右腕を掲げる。呪詛の合図だ。勝負は一瞬。呪詛の発動後から俺のたどり着くまで。


「【ジャンプ】!」


俺は転移術式で2体の後ろに転移する。そのまま骨喰を振るう。あわよくばこのまま決めてしまいところだが、そうはいかない。犬神の瞬間移動で2体が俺から見て前方10mほど移動する。


「期待外れですな…」


犬神が呟く。いや、これでいい。俺はすかさず術式を行使する。


「聖なる力よ、我に力を。操るは空間。【スペース・スワップ】」


「……」


しかし何も変化は起こらない。


「どうしましたかな?失敗とは。あなたほどの強者が珍しい。」


「はいはい、そりゃどうも。相手の心配じゃなくて自分の心配をしな。」


俺がそう言うと犬神はふっ、と笑う。


「その言葉、そっくりそのまま返してやるぜ。」


俺もう一度犬神に斬りかかる。俺はあいつに纏わりつくが、溺結の呪いが邪魔をしてなかなか決定打に至らず、だんだんと動きについていけなくなる。


「ぐっ、」


俺は犬神の杖に腹を突かれ、空中に吹き飛ばされる。


「まだだ…まだ無理だ。」


「何かを見計らっているのですかな?」


犬神は神通力で空中の俺の背後に回り込む。地面からは溺結の呪詛が飛んでくる。


「【シールド】」


俺は足元に結界を作り出し、それを蹴るようにして前後の脅威を一太刀で斬る。が、しかし斬れたのは溺結の呪詛のみで犬神はやはり俺から見て10mほど前方に転移している。


「本当に素晴らしい…この実力を炎恨様のために活かすという手はないのですか?」


「【ケルビン・ショット】」


俺は氷属性の術式を放つ。それと同時に先ほど出した結界をもう一度蹴り、犬神に接近する。


「溺結、来なさい。」


溺結から発せられる呪詛が一段と強くなる。俺は空中で体勢を変え迎撃する。犬神は神通力で俺の術式を止める。その顔は余裕の表情が浮かんでいる。


【ラーザ、するなら今じゃないか?】


「わかってるよ、【ジャンプ】」


俺は術名を口に出す。それを聞いた犬神が神通力でその場を離脱しようとする。


「そこか!【エクスプロード・アロー】」


しかし俺の【ジャンプ】はフェイクだ。少し腕の立つ奴ならほとんど聖力を消費していないのでフェイクだと気づけるだろうが、犬神はまだ術式に対する理解が薄い。故に騙されるのだ。そして俺は犬神の呪力が集まっているポイント、つまり犬神の瞬間移動先に爆裂術式を打ち込んだ。


「な、これは…」


犬神は乗っている金色の雲から落ちる。やはりあの雲が犬神が浮ける理由か。そして落下地点は溺結の隣だ。


「今度こそ、【ジャンプ】」


俺は今回は正真正銘の【ジャンプ】を発動する。そして2体の背後に回る。


「意味のない作戦を。」


俺の目の前で2体の怨霊の姿が霞む。瞬間移動をするのだろう。これではまた骨喰の射程から出てしまう。


「ここだぁ!」


俺は骨喰を持っていない手を握る。その瞬間2体の姿が一瞬消え、そして…


「…!なぜ!?」


またその場に現れる。そのまま俺は骨喰で2体を斬る。


「何故…確かに移動したはず…」


「ラーザ。ありがとう。」


2体はその言葉を言い残し吸い込まれる。


【ラーザ、流石の俺とて神級怨霊を喰おうと思えばほかの呪いをすべて棄てねばならない。良いか?】


「待て、お前たちを飛ばす。」


俺は犬神の神通力から瞬間移動を行使し、骨喰とそして鬼人領で発見したあの白い鞭を遠くの方、最初に俺が巨大な結界を張った更に向こうまで飛ばす。そう、あの白い鞭こそ溺結の受け皿となるものだ。あれは本人の呪いの具現化そのものだからな。行けるだろう。


「ふう、なんとかなったな。」


俺は一息つく。しかしまだ戦いは終わっていない。俺は上空を見る。炎恨がこちらを見つめていた。


「君、さっきのはどうやったの?」


「簡単だ。あらかじめ空間を交換する術式をかけていて、それをタイミングよく発動する。ただ、あらかじめ準備するのにはどこの空間とどこの空間を交換するかというのも決めてる必要があるがな。」


「ふん、戦闘中そこまで意識して立ち回っているなんてね。何度も同じ手を使ったのは犬神の瞬間移動をの先を予測するためだったんだね。」


俺は服を少し整え、もう一度炎恨の方を向く。


「でもまあ今の君の行動は納得いかないなぁ。なんで骨喰を手放したの?」


確かに普通に考えれば勝つ可能性というのを消している気もする。しかしこれが最善策だという結論が出た。


「それは…お前に勝つためだよ!」


俺は【エンハンス】を行使して炎恨の方に飛びあがった。

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