表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

154/199

第百四十八話 百鬼夜行‐其の肆

「素晴らしい。それでこそ怨霊斬骨喰に認められた者だ。」


後ろから声がする。俺が振り向くとそこには炎恨がいた。その姿はほかの怨霊と違い現によく馴染んでいた。狐の姿が現のそれと変わらないからだ。


「お前の手勢はほとんど斬ったぞ。それともなんだ、今度はお前が相手をしてくれるのか?」


俺が問うと炎恨は少し微笑をした後にこう言った。


「まさか、まだ自分の部下が残っている状態で戦場に出てくる大将がどこにいるんだい?」


「だがそこら辺の三下じゃ俺を倒せないぜ。」


「わかってるよ。流石は世界最強の神器といってところだ。だから最強には最強をぶつけるんだ。」


炎恨がそういうと俺とあいつの間に巨大な炎が巻き起こる。強い光に思わず俺は手で光を遮る。光が収まり出てきたのは、


「溺結!」


空中に無表情のまま静止する溺結であった。溺結は無造作に右手を前に掲げる。


【ラーザ、斬れ!】


骨喰の声が聞こえる。しかし俺が反応する前に俺の体は動かなくなる。気が付けば俺を白い呪力が縛っている。この呪いは溺結のものだ。


「溺結…どうして…」


「なあに、今の彼女には何を言っても意味ないよ。だってもう僕の物なんだから。」


無邪気な声でそう言う炎恨。帝の魔眼で見れば確かに炎恨の呪力が溺結の内部で活性化している。形容するならば燃えている。


「呪力斬!」


俺は呪詛を斬ろうとするが流石は神級怨霊、呪力斬では威力が足りない。


「ははっ、どうする?このままだと負けちゃうよ。」


「骨喰!行くぞ、【マグネ・コントロール】」


俺は骨喰を手放しそのまま術式で操作をする。しかし普通に呪力の線を斬るには勢いが足りないだろう。故に俺は捨て身の策に出た。


「かはっ」


「おいおい、君はいったい何を…」


炎恨はあきれ声を出す。その理由はいたって単純だ。なぜなら骨喰を刺したのは俺の心臓だからだ。魂と心臓はほとんど同じ位置にあるといわれている。事実として今回、骨喰の刃は俺の心臓と同時に俺の魂にも届いている。


「【グレーター・ヒール】」


俺は上位治癒術式を行使する。骨喰に開けられた穴は完全に治癒する。


「あぶねえ。死ぬところだった。」


【本当にそうだぞ。もっと慎重にしろ。】


俺が前を向くと炎恨がありえないものを見たという顔をしている。しかしその後すぐにいつもの顔に戻る。


「そういうことか。魂ごと骨喰で斬る事でかけられた呪詛を喰ったのか。そして魂を治癒する。ずいぶんと強引だね。そんなことが何度も成功するわけない。溺結、もう一度だ。」


しかし溺結は動かない。まるで何かに抗っているかのように。


「いやだ、私、ラーザを傷つけたくない。」


恐らく振り絞った末の言葉だろう。しかしその言葉が終わった後溺結の中にある炎恨の呪力がさらに激しく燃え盛り始めた。


「僕の物のくせに逆らうなんて。まあいい。これでもう抵抗なんてできないでしょ。」


【ラーザ、来るぞ!】


俺も今回は反応できた。こちらに迫ってくる。呪力を骨喰で斬る。しかし数が多い。


「っち。骨喰、頗羅堕と帥の呪いはあるか?」


【あるぞ。もう使える。】


その瞬間俺に力が漲ってくる。呪力による身体強化。魔力や聖力によるものとは違うがとても強力だ。


「さあいつまでもつかな。僕はここで見ておくとしよう。」


俺は草原を駆けながら溺結の呪詛を斬り続ける。本当にジリ貧だ。


「骨喰、どうすればいい?」


【溺結を斬ればひとまずは落ち着くだろうが…】


「でもそれは溺結が死ぬってことだろ。そんなこと…」


ここまで俺のことをサポートしてくれたのだ。死なせるなんてできない。


【いや、一応俺が喰った後に依代となるものがあればそこから怨霊の再生もいけないことはないが。時間がかかる上に溺結ほどの怨霊の依代などこの世には…本人に関係しているものがいい。】


その言葉を聞いた瞬間に俺に一つのアイデアが浮かんでくる。


「待てよ…骨喰、依代のことは何とかなりそうだ。」


【本当か?では、その言葉を信じるぞ。】


そうと決まれば俺たちのひとまずの目標は溺結を骨喰で斬ることだ。


「しかし、本当に近づけないな。」


溺結は流石神級怨霊だ。手数も致死性も先ほどの頗羅堕や帥とは桁違いだ。俺は遠距離からの呪力を捌くのだけで精一杯だ。先ほどのように投げてもすぐに弾かれるだろう。


「【ウェザー・フォグ】」


俺は気候属性の術式で霧を発生させる。


「【クリア】」


さらに気配を消す。これである程度までは近づけるだろう。俺がそっと近づいていると、


「っ!!」


溺結が正確に俺の位置に呪詛を飛ばしてくる。まさかこれでも俺の位置がわかるのか。


【違うな、これは…】


俺が帝の魔眼を凝らしてみると、溺結の隣にもう一体怨霊が見える。あの呪力は、


「犬神か。」


いつの間にか出てきていたのだろう。そしてあいつの神通力をもってすれば俺の位置など筒抜けか。


「めんどくさいな。仕方がない。」


これでは俺が一方的に聖力を使うだけだ。2つの術式を解除する。


【ラーザ、後方に注意しろ。】


骨喰の声がする。しかし俺はそれくらいすでに感知している。俺が骨喰を後ろに突き出すと、


「ほお、怖い怖い。」


声がして俺の背中に衝撃が来る。少し上に刃を出しすぎた。いや、その位置に来ることを予知していたのだろう。そして杖での突きには呪力が込められており、普通よりも大きい衝撃を受けてしまう。俺は溺結の方向に少し吹き飛ばされる。


「容赦ねえな。」


空中で溺結の呪いが飛んでくるが、なんとか骨喰で受けきる。俺が正面を向くとまた溺結と犬神が並んでいる。


「さて、どうしますかな?」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ