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第百四十七話 百鬼夜行‐其の参

「そろそろ終わろうか、なぁ!」


頗羅堕がそういってこちらへと距離を詰めてくる。


「【ガーディアン・シールド】」


俺は結界を張り、頗羅堕の攻撃を防ぐ。しかしこの結界もすぐに壊されるだろう。


「守ってるだけじゃだめだぜ!」


しかし俺はこの少しの間が欲しかった。俺は術式の構築を終了させた。


「聖なる力よ、我に力を。生み出すは巨兵【クリエイト・ゴーレム】」


「なっ」


頗羅堕が警戒するように距離をとる。すると突然地面がうなり声をあげる。


「何をしやがった!?」


「頗羅堕、後ろです!」


帥が叫ぶ。しかし頗羅堕が反応する前に地面から生えてきた岩の腕が頗羅堕を吹き飛ばす。


【やったか?】


骨喰が言う。いや、それは絶対にやれてないときのセリフなんよ。


「痛ってえな。なんだ?」


頗羅堕はそう言うが恐らく全然効いていないだろう。


「ぐっ、これは…」


帥の方を見てみると、うねうねと動く土の柱を相手にしているところだ。風で吹き飛ばしてもすぐに新しい柱が出てくる。


【ラーザ、何をしたのだ?】


「これはゴーレムだよ。俺が作った。」


【しかしゴーレムというにはあまりにも全貌が見えんが。本当にゴーレムか?】


「形が定まっているものだけがゴーレムというわけではない、とだけ言っておこう。手の内は仲間にも明かすものじゃない。」


この術式は万が一にでも外部に流出すると絶対に悪用する奴が出てくるからな。俺が行使した術式はゴーレムの生成術式だが、それを込めたのは地下深くだ。ゴーレムを生成するときは行動パターンを記述した聖力を込めるが、このゴーレムは周囲にある土、岩を自らの体の一部とし自由に操るというものをつけている。このようにしてあたり一帯の地面をゴーレムのものとすることで場を完全にコントロールすることができる。


「でもこれの弱点は発動するのにめっちゃ細かい聖力の操作が必要になるところと瞬間的な攻撃力が低いところなんだよな。」


実はこれよりも大きい弱点があるがそれは今関係ない。


【しかしそこを俺様たちでカバーすればよいわけだ。】


物分かりが早いな。流石神器。


「くそっ、爺さん。埒が明かねえ。」


頗羅堕は無数に出現する岩石の手の相手をしている。その拳と蹴りで岩石を砕くが、散らばった岩片は地面に沈んでいき、次々と現れる。


「よお頗羅堕、俺とも遊ぼうぜ?」


俺は頗羅堕の方へと駆ける。頗羅堕は至極嫌がる顔を見せるがそんなのお構いなしだ。


「頗羅堕、今行きます。」


帥は土の柱を避けながら翼をはやしこちらへと飛翔してくる。いや、あいつ空まで飛べるのか。すごいな。


「空に逃げればいいと思ったんだろうが、残念だったな。」


帥が飛んだ方から鈍い音が聞こえる。ゴーレムが岩を打ち出したのだ。俺が設計した術式だぞ?対象の加速度、方向などから弾道予測も可能だ。


「爺さん!っち」


頗羅堕も一瞬帥の方を向くが、すぐに俺へと顔を戻す。そりゃあそうだ。少しでも気を抜けば骨喰に喰われる。


「悪いが爺さんには少しの間この戦闘から離脱してもらう。」


「何を言って…」


帥は少し体制を崩したが、低空飛行の状態で持ち直した。しかしその瞬間だった。


「むっ」


帥が飛んでいた地面が変形し、帥閉じ込める。そして帥が呪詛を行使する前に、


「爺さん!」


土ごと地面の中に潜っていってしまう。あのまま行けば下の方の岩に閉じ込められるだろう。帥の風では抜け出すのに時間がかかる。


「てめぇ!やりやがったな。」


頗羅堕は怒りマックスという表情でこちらに突っ込んでくる。


「甘いな。」


冷静さを失った実力者ほど狩りやすい者はない。これは俺が2000年間で学んだことだ。強者を強者たらしめる者は実力はもちろんそうだが、経験からくる冷静さだ。それを失えば強さは半減、いや3分の1くらいになる。


「くそ野郎!」


頗羅堕の渾身の一撃を俺は余裕で弾き返す。それを見て一旦距離を置こうと後方へジャンプするが、その行動は軽率だろう。


「な、やっちまった。」


頗羅堕を拘束するように岩が地面から現れる。ジャンプというのは体の支えである地面から離れるということだ。それゆえにほとんどの生物は空中で体を動かすとき支えるものがないため、力はいりにくい。今回の頗羅堕も例外ではなく、その岩を粉砕し脱出するのに少しほんの少しだけ時間を要してしまった。そして予定通りの位置にジャンプをして…


「いない!?」


俺は【クリア】を使い気配を薄くする。頗羅堕ほどであれば一瞬で看破できるだろうが、焦りがそれを阻んだ。焦った者の行動は読みやすい。実際冷静であれば頗羅堕も別の方向へと飛んでいただろう。しかし焦りが彼を安直な位置へと導いた。


「チェックメイトだ。怨霊斬」


俺は先回りをし、頗羅堕が飛んできたのに合わせて骨喰をふるう。


「こいつ…全部掌の上だったってことかよ。」


骨喰で一刀両断された頗羅堕はそれを言い残し喰われていった。


「ふう、まずは一人だな。そんでもって抜け出してくるのも早いなぁ。」


【ふむ、そうだな。】


地面からとんでもない呪力の塊が迫ってくる。俺が飛び退くと、そこから砂埃を巻き上げながら帥が出てきた。


「頗羅堕は…そうですか。一足遅かった。」


頗羅堕の死を感じたのだろう。帥は悔しそうにうつむく。しかしすぐに顔を上げ、


「仇は取ります。」


帥を取り巻く呪力が桁違いに多くなる。なるほど、これが上級怨霊、大天狗の全力か。


「ქარის დანა」


呪言を発した。帥ほどの怨霊が呪言込みで発動するの呪詛だ。相当強力なものだろう。


「怨霊斬!」


骨喰は紫色のオーラを発する。帝の魔眼で確認したところ多くの風の刃が帥の周りを規則的にまわっている。


「死ねい。」


その風の刃がこちらへカーブを描きながら飛んでくる。俺はそれを避けながら機会を窺う。


「ああ、もう。これじゃ近づけない。」


当たらなかった風の刃は周辺の地面を抉っている。当たったらひとたまりもないだろう。


【ラーザ、投げろ。】


骨喰が言う。俺は少しの間その意味を考えたがすぐに合点がいく。確かにそれならよさそうだ。


「おりゃ。」


俺は帥に向かって全力で骨喰を投げる。


「はっはっは、何をしていますのかな?我が刃が弾いてしまいますぞ。」


そのようにして笑う帥。確かに普通に考えればあの守りの突破は厳しいだろう。そう、普通ならば。


「【マグネ・コントロール】」


俺は磁力属性の術式を行使する。磁力は骨喰に力を加え、飛んでいく方向に修正を加える。帥が迎撃しようとするがすべてを磁力による方向転換でよけきる。


「なっ」


そして最終的に帥へと突き刺さる。


「見事。よもやその様なことが可能だとは。」


そのまま帥も吸い込まれる。俺は落ちてきた骨喰を拾う。これは俺だからできた高等な聖力操作だ。


「そりゃそうだ。俺を誰だと心得ている?」


俺は誰もいなくなった草原でひとり呟く。

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