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第百四十五話 百鬼夜行-其の壱

「ぐっ、眩しい。」


先ほどまで薄暗い呪層に居たからか少し強い光にも目が慣れない。俺が目を開けると、そこは大きな庭だった。そこかしこに花が植わっている。少し奥には3mほどの壁が見える。その壁はこの馬鹿広い庭を取り囲むようにして建てられいる。


「ここはまさか…」


俺が後ろを向くと、巨大な白亜の城が見える。王城だろう。つまりここは城の庭の中だ。


「本当に王都の中心部に出たな。」


俺は【クリア】で気配を消しながらつぶやく。その際に王都周辺の呪力反応を確認してみるがまだ大きな呪力反応の塊はない。


「じゃあ上に登るか。」


俺は【エンハンス】をかけ、王城の頂上に登る。王国の旗が立っているところに行き、その支柱にもたれかかる。


「いやぁ、絶景だな。」


【ここが人間領の王都か。ずいぶんと栄えているな。】


眼下に広がる無数の建物。近くのは貴族街だろう。遠くの方で少しさびれているのが貧民街。俺の記憶の中にあるのと相違ないものだった。


【あの大きな建物はなんだ?その周辺に様々な地形がみられるが。】


骨喰が言った方を向くと本当に懐かしいものが見えた。


「あれは王立アレス・アカデミアだよ。俺が通ってた学園。」


遠くの方にある魔法時計を確認したところ今は昼過ぎだ。今日は平日のはずなので通常通り授業があるだろう。


【おい、ラーザ。来たぞ。】


俺が少し感傷に浸っていたときに骨喰の声がする。俺が王都周辺を探ってみるとちょうど俺が見ている方向、つまりアレス・アカデミアのさらに奥から巨大な呪力反応がする。


「わかった。じゃあ骨喰、行くぞ。呪力斬!」


俺は空中に幾筋もの斬撃を重ねて足場を作る。そしてそれを踏み台にして空中を飛びながら移動する。


【素晴らしいな。ここまで俺の能力を使いこなした奴は初めてだ。】


しかしこれは少しでも集中が途切れれば俺の足が斬れてしまう危険な技だ。故に戦闘時にはなかなか使いづらい。


「おっ、やってるな。」


アレス・アカデミアの上を通った時に下を確認すると、教室で授業をしている生徒の姿が見えた。俺が知っている顔がいないので。下の学年だろう。俺の学年が一期生なので上の学年はいない。


【ラーザ、集中しろ。もうすぐそこだ。】


もちろんそうだ。すでに怨霊が出てき始めている。アレス・アカデミアとの距離は大体1㎞といったところか。どれくらい出てくるかは知らないが、そこを死守だな。


「あれは…」


先陣を切って王都方面を目指しているのは足が10本近くある蜂型の怨霊3体だ。大きさは2mくらい。その目は非常に不愉快な気分にさせられるものだ。


「じゃあ、行くか。怨霊斬!」


俺は空中で下に大きくけり、そのまま3匹のうち先頭を飛んでいた蜂に襲い掛かる。


「ピグジャア」


蜂は抵抗することも出来ぬまま俺に切り裂かれ、骨喰へと吸われる。それを見て後ろにいる蜂が急停止をする。


「悪いな。ここから先は進入禁止だ。」


「ニン…ゲン。コ…ロス」


そのような言葉が聞こえてきたと同時に2匹一斉に襲い掛かってくる。ふむ、ずいぶんといい連携だが、


「それじゃあ俺には追い付けないな。」


俺は左右に展開してきた2匹を文字通り一刀両断する。そのままそいつらの呪体は骨喰へと下る。


「【ガーディアン・シールド】」


俺は巨大な結界を張る。これで俺が万一取りこぼしてもしばらくは耐えられるだろう。


「よし、じゃあこの調子で行くぞ!」


【承知した。】


俺は今まさに俺に迫ってきている怨霊の大群へと突っ込んだ。




その後の戦いは苛烈を極めた。なにせ一体でも王城側へと行くことがないように最新の注意を払わねばならないからだ。しかしまあ幸いにもまだ知能的に高い怨霊は出てきていないのか俺に群がてくるばかりだ。ほかの場所に出てくるのではと警戒をしているが、いまだそのような気配はしない。


「呪力斬」


俺の後方に呪力の刃を作り出し、後ろまで迫っていた細長い四足歩行の異形を串刺しにする。その間にも俺はキノコに足が生えて一つ目が付きましたみたいな形の奴を合計19体切り刻む。


「きりがないな。」


俺は怨霊たちがワラワラと出てくる場所を睨む。黒く歪んだ空間があり、そこから出てきている。幸い同種の怨霊でなくては連携の「れ」の字もないらしい。


「ツヨ……ゲン、ノロ…」


その瞬間地面が割れ、口が飛び出す。俺はその口に飲み込まれる。


「ンン、オイ…シイ」


俺を食った怨霊はそう言いもう一度地面に潜ろうとするが、


「ンガ、イタ」


内部から切り裂きそのまま骨喰へと吸い込まれる。全体像が見えなかったが相当でかそうなやつだった。


「っち、べたつくな。」


呪力でできたあいつの体液だろう。本当に不愉快になる。


「おひょひょひょひょ~」


俺が次に切る怨霊を決めていると、突然その緊迫した状況には場違いな剽軽な声が聞こえてくる。


【ラーザ、これは。】


「ああ、わかってる。」


気が付けば俺の視界は真っ暗になっている。周囲の気配も感じられない。帝の魔眼ですら周囲を感知しえない。


「どこかな?どこかな?どこから来るかな?」


またあの声だ。周囲の感覚を奪う呪い。いったいどこでかけられたのかは知らないが、厄介だな。


「おとなしく負けを認め」


しかし奴の声は最後まで聞こえてこなかった。それはなぜか。俺が骨喰を目の前すれすれに通したからだ。確かに厄介かもしれないが、それは対処法がないわけではない。


「これほど強力な呪いだ。発動条件は相当シビアなはずだ。おそらくさっきの体液に紛れて密着したんだろうが。主に視覚に関する呪いなら本体は目の近くにいる。そうだろ?」


俺が言いきると、視界が晴れる。その瞬間俺の周囲をほかの怨霊が囲っているのがわかる。もうほとんど密着状態の奴もいる。


「いいねえ、これで楽になる。」


【そうだな。見せてやれ、貴様の圧倒的な力を。】


「呪力斬」


俺はこれまで吸ってきた呪力を使い周囲に呪力の刃を大量に生成する。そして俺を囲っていた怨霊どもはアリ地獄のように俺の斬撃領域へと入っていき斬られる。そう、怨霊は急には止まれないのだ。


「ふう、いったんは片付いたかな。」


辺りを見渡せば雑魚怨霊も湧いていない。そういえば結局上級怨霊は出てこなかったな。どういうことだろうか。


「お前、やるな。」


俺の耳元でそう声がした。

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