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第百四十四話 炎恨の策略

「ここが炎恨のいる場所か。」


これまでの島の中で最も広い場所だ。相変わらず灰色一色の風景だが、異形の怪物はこちらを窺っている。


「ほっほっほ。まさか牛鬼を倒してここまで来るとは。予想外ですな。」


先ほども聞いた声、犬神の声が聞こえてくる。


「それに溺結殿も多少はお力を取り戻したようで。」


またもや俺が感知する前に目の前に姿を現す。しかし今回は呪力の流れをなんとなくだが、理解した。次は絶対に感知して見せる。


「お前にはあんまり用事はないんだが。炎恨に会わせてくれ。」


「ずいぶんと連れない。まあ良いでしょう。こちらへ。炎恨様も待ちわびております。」


そういって犬神は背を向けて進みだす。あいつが乗っている金色の雲のようなものはあいつの一部なのだろうか、それとも道具なのだろうか?


「一つ申し上げておきます。くれぐれも炎恨様のお気に障ることはなされぬよう。それが最後の記憶となってしまいますゆえ。」


2,3分ほど進んだところで犬神が言う。溺結が言うには性格は最悪らしいからな。それは難しそうだ。


「では、こちらへ。」


犬神が手を向けて先に一匹の狐が目を閉じて寝ている。尾が9つあること以外は現の狐と大差なく一見人畜無害そうな見た目だが、俺の直感が逃げろ、と警鐘を鳴らす。


「ふふふ、久しぶりだね。溺結。」


狐が少し顔を上げて言う。その目は深紅に染まっており、とても憎悪などから生まれた怨霊とは思えない。声は少し高く、あどけない少年を想起させる。


「炎恨、あなたずいぶんと寝坊助になったのね。」


溺結が皮肉全開といた声で反応する。


「ひどいじゃないか。こうやって旧友と巡り会ってその物言い。」


「あなたを友としたことは一度もない。そしてこれからもね。」


最強の怨霊同士の会話にただの一般人である俺は口を挟む隙もない。それほどまで空気がピリついている。炎恨は一瞬ため息をついたかと思うと、


「そうだよね。これまでの君は僕の敵であり、そしてこれからは……僕の一つの駒なんだから。」


炎恨の顔に不気味な笑顔が浮かぶ。俺も溺結も骨喰も何を言っているのかわからなかった。しかし、変化は一瞬にして訪れる。


「あっがっ。これは…」


横を見てみれば溺結の胸が赤く発光している。苦しそうに悶えるが、悲痛な声が虚しくこだまするだけだ。


「お前…何をした!」


帝の魔眼を行使してもこいつからは呪力なんて出てきてない。しかし明らかにこいつが仕業であろう呪いが溺結を襲う。


「ほんっとうに君は馬鹿だなぁ。こんな場所にノコノコと出てきて、僕が君を封印するときに何もしなかったと思う?本当にずっと待ってたんだよ。君ならここにもう一回来てくれるって。それでさ…その時は君を僕の者にしようって。」


まるで悪戯が成功した子供のように無邪気な声を出し笑う。しかしそこに子供のような可愛らしさは一切ない。


「君を封印するときに僕の呪いを一緒に封印してさ、君がここに来たら君を僕の忠実な駒にするようにしてたんだ。君ほど上手に操れないけど、内部から呪いが君を支配すれば簡単だよ。」


「炎…恨!」


溺結は手を伸ばし、呪いを行使する。しかしその細い呪力の糸は炎恨によって燃やし尽くされる。


「さてさて、君が僕の物になるまでもう少しかかりそうだ。それまでこいつをどうしておくかだな。」


炎恨はようやく俺のことを認知したのか、こちらを向く。


「その刀…そうか。だからか。牛鬼が死んだ理由。わかったよ。そうだ!君も僕の物にならないか?待遇は保証するよ。何せ君は怨霊斬骨喰の使い手だろう。」


「断る…と言ったら?」


「愚かとしか言いようがないね。まあだったらどこにでも行ってくれて構わないさ。まあ早いとこ君の魂と溺結との繋がりを断って現にお帰り。切れない?じゃあ僕がしてあげるよ。」


そう言って炎恨は俺と溺結をつないでいた呪力を燃やす。そのまま繋がりはなくなる。


「じゃあ早く帰りな。僕は忙しいんだ。もうそろそろあれも始まるしね。犬神、あれの準備はできてるのか?」


「はい、すでに全ての怨霊が配置につきました。いつでもよろしいかと。」


犬神が少し笑みを含んだ声で答える。


「あれって、なんだ?」


「ふふふ、そんな無条件で教えるとでも思った?でも、そうだなぁ。でも、君たちの現の話だしね。君たちの街が地獄絵図になる、ということぐらいは教えてもいいか。」


「俺たちの街が地獄絵図、だと?どういうことだ。」


俺の眉間にしわが寄る。現が地獄絵図というのはまるで、溺結が言っていた百鬼夜行ではないか。


「ははっ、いいねえ。その顔。そうだな。もっとその顔を見たい。教えてあげるよ。君さぁ、僕のところに来るまでに怨霊が少ないと思わなかったかい?」


確かにそれがずっと思っていたところだ。あまりにも強い怨霊が少なすぎる、まるでどこかに集まっているかのような。そこで俺ある一つの可能性に気づく。


「まさか…お前、現を襲わせるというのか?大量の怨霊に。」


「あったりー!鋭いね。百鬼夜行だよ。ようやく準備が整ったんだ。あれれ~どうしようか?このままだと君の大事な場所が大変なことになっちゃうね。なんだっけ、アトリテアだっけ?そこがめちゃくちゃだよ。」


アトリテア、人間領の王都の名前だ。そして現在の呪層の位置から現に出ればアトリテアの中心部に出る。


「少し遠いところから一気に怨霊を送り込んで、一網打尽だよ。このことを知ってるのは君だけ。君が守らないと壊滅だよ。」


まあ恐らくそうだろう。王国騎士団、魔術師団、そして創設されたばかりの呪術師団では対抗できないだろう。


「行って…」


そこで溺結が弱々しくつぶやく。今にも消え入りそうなその声は確かに俺に届いた。


「私は大丈夫。絶対に負けないから。だから…みんなを守ってあげて。ラーザと骨喰ならできる。だから早く!」


痛いだろうに、苦しいだろうに。それを体験しながらも皆のことを気に掛けるその決意をどうして無駄にできようか。俺は決断する。


「骨喰、繋げてくれ。」


【それがラーザの決断であるならば。】


俺が骨喰で空中に三角形を描くと、その空間が割れ現へとつながる。


「それじゃあ、行ってらっしゃい。楽しくなってきたね。」


炎恨の声を背に受けながら俺は空間の裂け目に飛び込んだ。

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