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第百四十二話 最強の片鱗

その後、俺たちは次々と島を渡っていった。最初のほうに比べてそこの住まう怨霊の強さも上がっていっている気がする。5つ目の島に到着した時のことだった。


「ここ…怨霊が少ないな。」


周りを見渡すが、どう見てもこれまでの島に比べて反応が薄い、いや、それどころか反応があるのはいわゆる雑魚怨霊のみだ。こちらの存在を感知すらできないほどの。


「どうなってるんだ…」


「ラーザ、気を付けて、前。」


溺結が少し開けた場所を指さした。そこに明らかにでかい怨霊が座っている。背を向けているので詳しくは見えないが、筋肉がムキムキで肌が赤い人間に見える。唯一違うのは、頭に二本の黄金の角を持っているところか。


【ラーザよ、あの怨霊…すさまじいな。】


ああ、そうだ。あのデカブツ今は何かを食って言うのだろう。バリバリという音が聞こえてくる。そして食っているのは…


「ここに怨霊がいない理由はそういうことか。」


恐らくあいつに食い殺されているのだろう。そしてあいつが見向きもしなかった雑魚のみが残った。


「…!!」


そんなことを考えていたら、俺の真横を太刀のようなものが通り過ぎる。明らかに俺を狙ってあいつが投げてきたのだろう。


「できればここを通してほしいんだけどな。」


「それはできん。お前を狩れというのがあのお方の命令。我はその命に従う。」


はあ、なんとも根回しが早いことだ。すでに先方には知られているわけか。


「じゃあ無理やり通るしかないな。」


「ラーザ、気を付けてね。あいつ、いろんな怨霊を食って相当強くなってる。」


怨霊は立ち上がりこちらに顔を向ける。高さは優に5mほどはあろうか。筋肉質の体に獣のような顔がついる。金色の角が威圧感を出している。


「我が名は牛鬼。小さき現の者よ。墓は立ててやらんぞ。」


そういって地面に落ちている太刀を拾う。一見隙だらけに見えるその動作にも威厳がある。


「行くぞ、骨喰。」


【わかっている。】


骨喰が紫のオーラを纏う。さらに【エンハンス】を有効化する。


「俺から行かせてもらうぞ。」


俺はダッシュで距離を詰める。このまま行けば骨喰の一撃があいつの首にクリーンヒットかというところで、


「なっ!」


何の事前動作なしに牛鬼が飛びあがる。そのスピードと高さで一瞬だが姿を見失う。


「隙あり!」


俺が上を向き牛鬼の姿を捉えた瞬間、牛鬼はまるで”空中を蹴る”かのように下向きに加速し、俺に接近する。


「呪力斬!」


俺は骨喰の呪いを発動する。呪力斬というのは呪力を消費することで、現在の位置から骨喰の刀身が届く距離に斬撃を発生させるというものだ。とても便利なものだが、少し威力が低いのが欠点だ。ましてや未だこいつの扱いに慣れていない俺では。


牛鬼の太刀が呪力斬により少しだけ、減速した。見た目に違わない威力を秘めているのだろう。まるで小枝を折るかのように貫通してくる。しかし、俺はその減速のおかげでギリギリ骨喰でのガードが間に合う。


ドガァァァン


俺は地面に強く打ち付けられる。【エンハンス】に使う聖力を増やし、骨喰に呪力を込め何とか対応する。仕方ない。本当は炎恨までとってきたかったんだが…


「【エクスプロード・ボール】」


俺と牛鬼の間に爆裂弾を生成し、爆ぜさせる。一面灰色の呪層には見合わない鮮やかな赤が巻き上がる。


「ふむ、実に素晴らしいな。」


少し距離をとった牛鬼はそう呟く。超至近距離で俺の術式を食らったとは思えないほど落ち着いている。その体を見ても致命傷にはなっていないだろう。


「お前も強いな。これまで出会ったどんな怨霊よりも。」


「そりゃあそうだ。お前が今通ってきた場所ではな。だが惜しいな。我のことを知っていればこのようなことにならなかったのだが。」


「何を言っている?まだ勝負は決してないぜ。」


牛鬼はそれには答えず太刀を持ち直す。そして手を前に突き出し、何かをつかむように握る。何をしているんだ…と、俺が訝しんでいると、


「なっ、が」


突然体が宙に浮き、身動きが取れなくなる。まるで何者かに首をつかまれているかのように。ついでに息も苦しくなる。


「お前は勝負は決していない、といったな。残念ながら我に接近された時点で決していたのだよ。お前の影に我が触れた時点でな。」


帝の魔眼を通じて確認すると、巨大な呪詛が牛鬼の手から俺の影に向かって伸びている。


【これは…対象者の影に触れることで、発動する呪いか。】


牛鬼は手をかざしたまま俺にゆっくり近づいてくる。その目はすでに勝ちを確信している。


「その刀も、溺結も我があの方に届けよう。さすれば我はさらなる力を…」


このままではマズイ。俺が【思考加速】と【思考分割】を併用し、解決策を探っていると、


「させない!」


突然鈴を転がしたような声が響く。そして俺の後ろからきれいな白い呪力が牛鬼へと纏わりつく。


「こ、これは…しかし、なぜ!?」


動転した牛鬼は一瞬拘束を緩めてしまった。


「【ヘル・ジャベリン】」


俺はその隙をつき、炎属性術式を行使する。四方八方から蒼炎の槍が牛鬼へと突き刺さる。


「ぐわぁぁ」


牛鬼はその場に倒れこむ。牛鬼の呪いはそこで途切れ、俺は自由の身になる。呪層といっても空気はおいしいな。


「な、なぜ。今の溺結にこのようなことが…」


俺の後ろから小さな足音を立てながら、溺結が歩いてくる。俺にも詳しくはわからないが、今はその原因究明よりもすることがある。


「じゃあ、牛鬼。俺の勝ちってことで。」


骨喰が紫のオーラを出す。牛鬼は俺の術式でボロボロだ。首に刀身をあて、力を込めて、引く。


牛鬼の体が崩れていき、骨喰へと取り込まれる。


「我を倒したところで、あのお方にには勝てぬ。地獄の苦しみを味わって死ぬがよい。」


あのお方…炎恨のことだろう。地獄の苦しみね、さて、どんなものだろうか。


「終わったか。っと、どうした?」


俺が牛鬼の亡骸が完全に吸収されていくのを見ていると、背後に緩い拘束感を感じる。

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