第百三十七話 切れ味抜群
俺たちは外に出て森の中の少し開けた場所に出る。
「あの、私たちはいったい何をすれば…それに危険はないと伺っていたのですが。」
呪術師の女が話しかけてくる。
「まあちょっと待っててください。すぐに危険を除去するので。」
そういって俺はポケットからマンドレイクの花を10本取り出す。なるべく効果が強い個体を持ってきた。これを一気に握りつぶす。
「ちょっと、何やってるんですか?」
奥の男が慌てた様子で叫ぶ。そりゃあ突然マンドレイクを一気に潰されたら困るだろう。普通の人間なら。
「【ガーディアン・シールド】そこから離れないでくださいね。」
流石に危険はないと言ってしまっている手前、この人たちを巻き込むわけにはいかない。
「ら、ラーザ?これ、大丈夫?」
シャラルも心配そうに見上げてくる。
「うーん、シャラルは結界内で俺のサポートしておいてくれないか?危険な魔獣も来るだろうし。」
「う、うん。わかった。」
シャラルが結界内に入ったことを確認して、俺はアルケニーに指示を出す。
「俺と二手に分かれて魔獣を撃退するぞ。」
「シャー!」
アルケニーは元気よく飛び出し、大きくなる。アルケニーを始めてみたのだろう。呪術師が驚いた表情を見せる。
「骨喰、ご期待の戦闘だぞ。」
俺は黒い刀を抜く。こうやって刀身をまじまじと見るのは初めてだ。模様の類は一切なく、漆黒の刃である。
「でもまあこいつヤバイよなぁ。」
もうそれはとんでもない呪いを放っている。呪いに詳しくない俺であってもその強さはわかる。
『ふん、ようやくか。どうする?俺様の呪い使うか?』
「いや、今は単純な切れ味を見せてほしい。」
『わかった。切れ味も世界最高だぞ、俺様は。』
ギャオーーン
遠くから魔獣の雄たけびが聞こえてくる。よしよし、この辺の魔獣は大体集まってきているだろう。こいつらを全員倒し終われば危険はなしだな。
「じゃあ、行くか!」
俺は最初に現れたゴブリンに狙いを定める。群れのようで、大体17,8匹いるか。まあそんなこと関係ない。ゴブリン程度に負けるほど俺の剣術は衰えてはいないからな。
「せや!」
先頭のゴブリンの首をめがけて剣をふるう。
「はあ!?」
俺は思わず声を出してしまう。なぜか、それはほとんど何の抵抗もなくゴブリンの首を通過してしまったからだ。切られたゴブリンの首は宙を舞っているが、俺は何かを切ったという感覚は一切しなかった。まるで素振りをしたかのような。
『俺様のことを甘く見ていたようだな。』
笑いながら骨喰が言う。本当に心臓に悪い。一瞬からぶったと思って身じろぎしてしまった。
「まあいい。じゃあどんどん行くぞ。」
奥から魔獣がぞろぞろ来ている。術式を使えば相当に早く終わるだろうが、今は純粋な剣術だけでどこまでやれるかが気になる。
グルルルル
上空にはワイバーンが飛んでいる。いや、流石にワイバーンは無理か。剣が届かない。
「【エンハンス】」
流石に身体強化系なら使ってもいいか。しかし強化する前からこいつの切れ味は抜群のため、下半身に強化を集中する。そして俺は高く飛び上がり、
「ほいっ」
ゴブリンに比べて多少手ごたえがあった気がしなくもないが、頭から一刀両断だ。
「よし、まだまだ行くぞ。」
着地した俺は周囲を確認する。ゴブリンやオークといった小物から、トレントといった植物系、バイベアなどの猛獣系など様々だ。昆虫系や飛行系などもいる。
「サクッと行きますか。」
俺は魔獣の群れに突っ込んだ。
「いやぁ、結構時間かかったな。」
俺はみんなの場所に戻り座り込む。日は少し傾いているが大体1時間半くらいの戦闘だっただろうか。
「ら、ラーザ。無茶しないでよ。すっごく心配したんだからね!」
シャラルが文句を言いに来た。
「心配ってなんだよ。俺を誰だと心得てるんだ?」
「そうだとしても危険でしょ。」
そういってプイっとそっぽを向いてしまう。ふむ、何か悪いことでもしただろうか。
「それで、私たちは何をしたらよいのでしょうか。」
やばい、戦闘に集中しすぎてすっかり忘れていた。俺は振り返り、集まってくれた呪術師を一瞥する。
「まあなんだ。いったん自己紹介と行こうか。俺は依頼主のラーザだ。よろしく。」
一礼する。
「呪術師のビスケスです。よろしく。」
先ほどの女が自己紹介をする。ふむ、魂を見たところそこそこの呪力量がある。
「ああ、よろしく。」
その後も自己紹介は順調に進んだ。全員が終わったところで、俺は本題を切り出す。
「今日みんなに来てもらったのは俺の呪いに対する訓練のためだ。みんな、俺のことをどんどん呪ってくれ。」
「は、はあ。呪いの訓練ですか。でもどうして今それを?」
一人の呪術師が質問する。そりゃあそうだ。呪いの発表から結構時間が経ってるので、不思議に思って当然だ。
「詳し話は言えないけど、ちょっと用事があってな。だから頼んだ。」
呪層がどうのこうのなんて理解ができるわけがない。
「わかりました。ですが私たちはこの街でも随一の呪術師です。それでも大丈夫ですか?」
ビスケスが問うてくる。
「もちろん、むしろ好都合だ。」
そうして俺の訓練は始まった。