第百三十五話 世界の理
「神の介入?」
俺は言葉の意味がよく分からなかった。神ってあの神のことか?よく御伽噺に出てくる世界の管理者みたいな。
『ああ。最後まで滅びを避け続けた文明の終着点が神による崩壊だ。』
「それはどういう…超常的なことが起こるとか?」
例えば未曽有の自然災害とか。しかしそれは神の介入かどうかは判別がつかないだろう。こいつが神を明言しているのだ。本当に神の力が働くとしたらいったいどんな感じなのだろう。
『簡単な話だ。神が直々にやってきて壊す。』
神が直々にやってくるとは一体どういうことだ。俺たちは神の存在自体あまり意識したことがないが。
『この世界の文明が必ず崩壊に向かう理由…それは神の意思決定だ。さっき話した文明が和解に合意した時のことだった。晴れ渡っていた空が一瞬で暗黒に染まった。そして轟音の後、俺様たちがいた部屋に若い女がいたんだよ。』
若い女?それが神だということか。しかし俺の中での神のイメージとはあまりにもかけ離れた姿だな。
『そいつはこういったのさ。「あなたたちは世界の理に反した。よって唯一神である我が滅ぼす」ってな。笑えるだろ。突然出てきて、滅ぼすとかなんだの。実際そこにいた奴らは全員鼻で笑ったさ。どうやって入ったか知らないが俺たちを滅ぼすだと?ってな。』
実際にまあそういう反応をするだろう。おそらくそこにいたのはその文明の最高戦力だ。一人の女になど負けるはずがない。
『でもな、もうそこからは記憶がねえんだ。俺様たちが次に見たのは、血の海になった部屋だ。未だ意識があったのはそこに揃っていた神器のみでな。本当に一瞬の出来事だった。よく見てみれば何かに傷つけられたというより、体の部位が消滅したかのような死に方だったんだ。』
一瞬でそんなことを成しえる存在。確かにそれは神を言っても差し支えないものだろう。
『で、そのこういったのさ。「あなたたちは残しておく。頑張ってね。」あんなに嬉しくない頑張ってもなかなかないぜ?その後主を失った俺様たちはただ、そいつが世界中を蹂躙するのを見るしかできなかった。』
なんとも悲しいストーリーだろうか。和解を結んだのにもかかわらず、世界の理だという理由で滅ぼされる。俺たちも同じような末路を辿るのだろうか。
『だから俺様たち神器はあきらめた。崩壊に向かっていく文明を見守ることだけをしようってな。』
「そうか…溺結もアルケニーも今の話を聞いてどう思った?」
「シャー」
「うん…なんだかとっても悲しい。」
両者暗い顔向きだ。そりゃあそうだ。このまま行けば俺たちは滅びるらしいのだから。
『ん?今貴様溺結と呼んだか?この怨霊のこと。』
骨喰が尋ねてくる。
「ん?ああ。呼んだけど、どうしたんだ?」
『いや、溺結…白い姿。もしかして、当代の神級怨霊ではないか?』
それを聞いた瞬間溺結の顔がこわばる。え?なにそれ。神級怨霊ってなんかかっこいいな。
「どうして?」
『いや、俺様は呪いの神器だからな。同じの呪いのことはわかんのさ。殊更、俺様と同じ理を変える神級はな。』
え、そうなの?溺結ってなんかそんな偉い怨霊なの?まあ強い呪いってことは知ってたけど。
「…うん。私は神級怨霊。だから私も姿かたちがはっきりしていない伝承しかなかったあなたを骨喰だと分かった。」
「お前って…え?理を変えれるの?マジ?」
俺はまだ疑問符が抜けない。どうしても普段のこいつからはそんな気配はしないが。
「そりゃあ今は力のほとんどを失ってるけど、全盛期はね。」
『ほう、神級怨霊が力を失うとはどういうことだ?』
「それは…」
俺と溺結で百鬼夜行のことを話した。
『はっはっは。つまり貴様はその争いに負けて、力の大部分を失い封印されたと。それにしてもよかったなぁ。溺結が命張ってなかったら今文明恐らく滅んでたぞ。』
なんだ、つまりその百鬼夜行も世界の理によるものだったのか。なんとなく合点がいく。
「それで、その崩壊を防ぐにはどうしたらいいんだ?」
俺は聞きたかったことを問う。それがあるのであれば、全力で試すしかない。
『おっと、いい質問だな。それこそ俺様たちの出番だ。』
「うん、そうだね。」
二人…課は怪しいが顔を見合わせるように笑う。なんだ、いったいどうした。
「私たちはこの世界で唯一の神に抗う力を持ってる。つまり人間と魔族の和解は大前提として超万全の状態で神と対峙できればもしかしたらってところ。」
「神に抗う力?神は最強だから神なんじゃないのか?」
『まあ確かに単体ならそうだ。しかし数ではどうだろうか。この世界に散らばっているすべての神器とそのほか最強の名を冠するものを完璧に使いこなせれば、勝機はある。』
世界に散らばる神器…いくつかは想像がつくがそれ以外はわからない。それに最強の名を冠するものというのはこの神器と神級怨霊、あとは神獣くらいか?でも神器はまだしも溺結以外の神級怨霊なんて知らないし、神獣を従えるとか普通に無理なんだが。
『まあ善は急げだ。最初は神級怨霊がやりやすい。溺結のためにも呪層に行こう。』
「は?」
こうして俺たちの呪層行きが決定した。