第百三十四話 過去の話
「どういうことだ?」
こいつが冗談で言っているのかマジなのかが判断がつかない。いや、冗談であってほしいというのが本音だ。崩壊するだと。そんな兆しは一つも感じないが。
「いや、違うな。」
俺はここである一つの考えに至る。もしかすると、そういうことなのかもしれない。
『なんだ、思い当たる節があるのか。』
思い当たる節というかなんというか。心当たりしかない。
「まあこの話はあとだ。なんで俺たちは滅びるんだ?」
『ふん、まあよい。話してやろう。心して聞け。』
そこから骨喰の話が始まった。
『まず貴様らは貴様らが世界で初の文明だとは思ってないだろうな。』
いきなり俺の予想になかった質問が飛んでくる。世界で最初の文明…ね。そんなこと言われてもどうとも言えないな。
「俺たちが世界初かどうかなんて検証できない。証拠も何もないからな。」
それに文明が存在していたかとかいう事実は俺たちには無用なものだ。何せ何も残っていないからな。
『何を言う。ここに証拠があるじゃないか。』
骨喰は言う。うん、どこに何があるって?
『俺様たち神器のみがこの世界の始まりから存在しているものだ。』
神器のみがこの世界の始まりから存在するもの…つまりこいつらが持っている記憶が証拠だといいたいのか。
「それは無理があるだろう。第一、お前が嘘を言っている可能性もある。」
『まあそれもそうか。俺様がこうも優しく教えてやってるのに信じられないか。まあ良い。それじゃあ、一つ話をしよう。貴様は俺をどこから取り出した?』
骨喰は俺に再度質問をする。どこから取り出したかって言われても…
「よくわからんゴーレムから。」
これ位しか言いようがない。しかしそれを声に出した瞬間俺はそのことに気が付いた。
「そういうことか!つまりあのゴーレムは自然発生的なものではない。前文明が残した遺産だったのか。あの摩訶不思議な力も性能もすべてそれなら説明がつく。」
つまりこいつの言っていることが現実味を帯びてきたということか。
『はは、そうだ。あの自律機械…貴様らの言うところのゴーレムは今の前の文明の秘密兵器だった。その動力源として俺様を入れたということだな。まあ不本意ではあったが。』
うん、何万、何億年と待ち続けたのだろう。解放される日を。
「寂しかったか?」
『面白い質問をする。俺様はなんとも感じなかったが。』
本来武器だからかそのような感情は抜けているのだろうか。
『ただ、』
「ただ?」
『久々に俺様は血に濡れたくなった。どこかで何か斬らせろ。』
おいおい、やっぱだめだわ。狂気だよ狂気。恐ろしすぎるだろ。
「まあそれはあとでな。まだ話の途中だ。」
俺は流されないように方向転換をする。まだ以前に文明があったくらいまでしか話してもらっていない。
『ああ、そうだったな。では少し急ぎ足で説明しよう。俺が見てきたすべての文明は2種以上の知的生物種により構成されていた。最初はどれも仲睦まじいものだったのだがな。』
2種以上の知的生物種か。これは俺たちにも当てはまる。人間と魔族だ。一応それ以外にも鬼人やドワーフ、エルフといった種族もいるが、大部分を人間と魔族で占めている。そして俺はこの後の展開が読めてしまった。
『この種族たちは次第に仲が悪くなる。最初は些細なことだ。どっちかの少年がもう片方を殴ったとかな。しかし争いの火種は次第に大きくなっていく。そして爆発してしまえば…』
「文明は崩壊する…か。」
なんとも悲劇的な話だ。些細な出来事が原因で文明は滅びる。
『貴様らの文明でもそういうのがあるんじゃないか?』
俺には思い当たることがある。でもその前に俺たちの文明構造を説明しなければならない。現在どのような情勢なのか。
『ほう、それはまた難しいな。二大種族が国交を断絶している。これが崩壊を遠ざけているわけか。』
俺は人間領の者たちが魔族領に進行をしようとしていること以外の情報を包み隠さず伝えた。
『すごく平和そうじゃないか。崩壊の兆しなど見えない。しかし貴様には思い当たる節がある。違うか?』
「ああ。ありまくる。」
そして俺は俺の本当に身分と、人間領の計画についてを話す。
『ははは。それは難儀だな。人間は魔族のことを信用していないと。それが今回の崩壊の要因か。』
そんな笑いごとではないのだがな。まあしかしこいつの年季から言えば笑いものなのかもしれない。
「それを防ぐ手段はないのか?」
俺は質問する。この状況を打破できた文明は存在しないのか。いや、それを成しえた文明が存在しないからこそ俺たちがいるというわけだが。
『一つ、成し遂げそうなものたちがいた。』
骨喰が口を開く。といっても口なんてどこにも見当たらないが。
『あの者たちは俺様たち神器の仲介のもと、和解に達していた。』
「なんだ、じゃあなんでそれは崩壊したんだ?また誰か殴ったのか?」
そこまでいてもなお崩壊してしまったというのか。なんとも無常なものだ。
『その経験が俺様たち神器に一種の諦めを生んだのだ。崩壊はどうしても防げない。』
「な、なんでだ?」
『神が介入してくるからだ。』