第百三十三話 世界の理に触れるもの
『神器とは簡単に言えば強い武器だ。』
ということで神器そのものからの講釈が始まった。俺はこいつを鞘に戻しつつ話を聞く。
「強いってどれくらい強いの?」
シャラルから早速疑問が飛ばされる。というかこの娘は環境への適応が早いな。俺はまだこいつがしゃべってるということを完全には信じ切れていないのだが。
『どれくらいか、ね。難しい質問をしてくるな。神器に並び立つ武器は神器のみだといえばわかるか?』
世界最強の武器群、これが俺の神器に対する評価だが、神器本人からそれを明言するのか。
「ふ~ん。強いんだ。でもそれって人間がそれと同じのを作ればそれは越えられるんでしょ?」
鋭い質問だな。確かに一見すれば、知的な文明を築いているものが神器を発見したとしてそれを模倣すればそれと同等のものは作れそうな気もする。
「シャラル、それは不可能に近い。過去神器の再現を試みた人間は何人もいるが、全員が失敗に終わっている。神器はそれ自体が持つ能力として、理解不能なものがたくさんあるんだ。」
ちなみに魔帝である俺も過去に四大魔族全員で別の神器の再現を研究したことがあったが、その能力の100分の1も再現できなかった。
『こいつが言うとおりだ。俺様たちの再現はどのような叡智を集めたとしても、不可能だ。なぜなら俺様たちは世界の理を改変するんだからな。』
おいちょっと待て。今さらっと重要なこと言ってなかったか。なんだ、世界の理を改変するって。
「なにそれ!なんだかすごくわくわくする。」
シャラルが目を輝かせる。確かにこれは俺もすごく興味がある。
『世界の理を一部改変することで俺様たちはほかでは実現不可なことをできる。これは再現できない。なぜならそれが世界の理だからだ。』
つまり再現が不可能なことが世界の理として決められているわけか。このことはこいつが神器だから知っているのだろうか。
『さて、まあこの話はこれくらいにしておくか。』
なんだ、これで終わりなのか。せっかくいろいろ知るチャンスがあると思ったのに。まあこいつが話したくないというならそれは仕方がない。
「シャラル、今日は疲れただろう。俺は少し夜風に当たってくるから、早く寝ておくんだ。」
そういって俺は外出の準備をする。
「う、うん。ラーザもゆっくり休んでね。おやすみ。」
「ああ、おやすみ。」
俺は骨喰を持って外に出る。なぜ外に出たかというとこいつと一対一で話がしたかったからだ。まあ一対一といっても溺結もいるのだがな。
「シャー?」
アルケニーが扉の隙間から出てくる。ついてきたいらしい。
「ああ、いいぞ。」
俺がそう答えるとアルケニーが元気そうに俺の肩に糸を伸ばして乗る。
『それで、俺様に聞きたいことがあるのだろう。』
骨喰が問うてくる。外はすでに人影はなく、いつもは喧騒に満ちているこの街全体が寝静まっているようだ。
「ああ、まず一つ目。お前は神器だからしゃべれるといっていたが、俺の知る限りほかの神器がしゃべるということはないはずだ。」
魔族領、人間領にある神器であってもしゃべるということはなかった。
『ふむ、奴らがしゃべっていないということは…”覚醒”をしたのは俺様が初めてということか。』
何やら聞きなれない言葉が出てきたな。”覚醒”とはいったいなんだ。
『神器が持つ特性のことだ。使用者が一定条件を満たすと武器としての性能が上がり、知能を持つ。いや、どちらかといえば世界に意思表示をしだすというべきか。知能自体はずっと持っているし、周囲の認識もしているからな。』
「つまり根源的に神器は知能があるのか。覚醒をすることでそれが表に出る。ちなみに聞くとおまえの覚醒条件はなんなんだ?」
俺はこいつに認められただけで覚醒条件を満たした覚えは一切ないのだがな。
『簡単だ、俺様が使用者を認める。』
「…そんなに簡単なことでいのか?それならほかの神器も覚醒してそうなものだが…」
俺が知る限りの神器はあと8本ある。そいつらがしゃべりだしたという話は聞いたことがない。
『神器にはそれぞれの覚醒条件がある。俺様のがそれだっただけだ。その代わりに俺様が認めない奴はが触れた場合、死ぬ可能性もあるのだからな。』
確かに。ほかの神器は触れただけで殺すなどということはなかったか。そう考えれば危なかったな。
『しかし俺様があんなに地下深くに閉じ込められてからずいぶんと時間がたっているが、この文明はいったい何をしているのだ。』
なにやら理解が難しいことをぼそぼそ呟いている。なんだ?この文明って。まるでほかの文明があるかのような。
「その文明がどうとかってどういうことだ?」
『まあ確かにそうだな。貴様らが知らないからって無理はない。』
本当にわからないことばかりだ。本当にもったいぶらずに教えてくれればいいのに。
『ふむ、では教えよう。』
この後、衝撃的な告白が俺を待っていた。
『この世界、いやこの文明は崩壊を迎えることになっている。』
俺はとっさに言葉が出なかった。上を見れば星のない夜が静かに俺たちを見下ろしていた。