第百三十話 勝利の凱旋
崩壊の小球は、まっすぐゴーレムのほうに飛んでいく。
「アルケニー、縮め!」
「シャー!」
俺の突然の指示にもきちんと答えてくれる。ゴーレムは少しびっくりした様子を見せたのち、前方に迫る小球を確認する。
「סזורידה」
ここに来て初めて焦ったような音を出すゴーレム。なんだ、これが何かわかるのか。しかしもう遅い。俺のありったけの聖力が注ぎ込まれたこの術式は後0.1秒後には着弾する。
「סזורידה」
あいつは既に完全にあきらめたらしい。動きが止まる。そして、
ポン
という可愛い音を立てて着弾だ。
「さあ、面白いのが見れるぞ。」
バリバリバリバリ
まるで何かが割れていくような音がしだす。その音源はあいつの着弾地点である胸部。そこにまるで黒いシミのようなものができる。そして、
「ははっ、やっぱえぐいだろ、これ。」
黒いシミが広がっていくと同時にゴーレムの体がそこから崩壊していく。まるでごしごし掃除してきれいになっていく汚れのように。ごっそり行ったら気持ちいいあれな。
「הֱיה שלום」
ゴーレムの断末魔が聞こえてきた。おそらく大事な部分が崩壊したのだろう。
「あっ。」
溺結が呟く。周りを見てみると赤い結界が消え失せていた。やはりあのゴーレムの仕業だったか。
「シャー!」
アルケニーが糸を使って俺の肩に飛び乗る。
「よく頑張ってくれたな。今は聖力がないから治療できないけど、また後でしてやる。」
いくら俺が身体強化をしてやっていても、あのゴーレムと正面切って戦っていたのだ。ずいぶんと傷ついている。
「ああ!開いたぞ!」
デラニーの声が聞こえてくる。結界が無くなったことで開いたのだろう。
「私はまだ何もしていません。ということはつまり、ラーザさんが…」
「ラーザ!」
おお。立て続けに声が聞こえてくるな。奥からシャラルが駆けてくる。目には涙が浮かんでいる。
「心配したんだよ。一緒に出て行った男の人たちが返ってきて…ラーザが閉じ込められたって…だから急いで。」
俺に抱きついて泣きじゃくる。この娘には悪いことをしたな。
「大丈夫だ。俺は死なないし、お前の前からいなくなりもしない。だから安心しろ。それに今生きてるじゃないか。」
そういって俺はシャラルの頭をそっとなでる。
「ラーザさん、良かったです。」
ほっと一息ついた様子のエルヴィスとデラニーがこちらに来る。
「それにしてもまさかあの…ゴーレムだったか?を一人で倒しきるなんて驚きだぜ。マジで強いんだな。」
「いやいや、本当にギリギリだったよ。死ぬかと思った。」
今の俺の一言でシャラルがバッと顔を上げるが、俺はそれを抑え込むように頭を強くなでる。
「ん、ん~」
不満そうな声がしてきて、デラニーとエルヴィスが笑う。
「じゃ、さっそく報酬と行きたいところだが、正直今回はラーザしか戦ってないんだし、お前だけでとっていっていいぜ。」
まあさすがにそれくらいは欲しい。
「はい、ありがとうございます。」
「私からも皆さんにそう伝えておきます。」
そういってエルヴィスが部屋を出る。本当に仕事ができるやつだ。エルヴィスの人望を考えれば、反論も出ないだろう。
「どうする、手伝おうか?」
ゴーレムの残骸を指さして問うてくる。ちなみに崩壊自体は4割ほどで終わってしまっていて、結構残っている。
「いえいえ、自分で処理します。」
「そうか。じゃあ私も戻るから、切りのいいところで戻って来いよ。また明日とかでもいいんだから。」
デラニーはそう言い残すと部屋を出ていく。部屋には俺たちしか残っていない。
「そのー、シャラルさん。俺こいつの処理したいんで、どけてくれませんかね?」
こいつ、結構力が強いぞ。流石に強引にすればほどけるが、それはよくない。
「うん、わかった。」
案外聞き分けよく自由にしてくれた。俺が意外に思っていると、
「私、もう子供じゃないから。」
プイっとそっぽを向く。
「は、ははっ」
俺は思わず笑いがこみあげてくる。隣を見れば溺結も笑っている。アルケニーも楽しそうだ。
「何が面白いのよ!こんなに元気なんて。心配して損した。」
「いや、ごめんごめん。そうだよな。心配してくれて、ありがとな。」
もう一度頭を撫でた後に残骸に向かい合う。
「これ、やっぱりミスリルだよな。これだけあれば…利益莫大だ。」
考えただけで震えが止まらないが、早くしてしまおう。
「シャラル、ちょっと手を貸してくれ。」
「ん?わかった。」
既に聖力が残っていないので、シャラルのを借りて行使する。
「【フォーグ・ミスリル】」
俺は鍛冶属性であるミスリルの精錬術式を行使する。
「おお。」
まだまだ精錬の精度は低いが、これだけ別のものと分けられたら十分だ。
「マジでめっちゃあるな。」
俺は目の前にある銀色の金属塊を見上げる。分けられた残りはその横に転がっている。
「これは…ただの石か。珍しいのものは…」
俺が仕分けをしていると、
「ああ?なんだこれ。」
中からシンプルな黒い鞘に入った剣が出てきた。なんでゴーレムにこんなものがあるんだ。
「何それ?」
シャラルがのぞき込む。
「いや、俺にもわからん。」
と、俺が剣を抜こうとすると
「やめて!」
溺結が叫ぶ。
「おわっと!?」
危うく落としそうになったじゃないか。一体どうしたんだ。
「それは今は抜かないで。」
理由はわからないが、今は抜いてほしくないらしい。なら仕方がない。
「これは帰ってから確認しようぜ。」
俺はそういって横に置いておく。
「うん、わかった。」
溺結も安心したようだ。俺はさらに作業を続ける。その他にもよくわからんものが封印されている箱も見つかったが、後で検証することにした。
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