第百二十九話 切り札
「【ヘル・ブレード】」
俺は蒼炎の刃を作り出す。ミスリルは加工前の場合、熱に弱い。まずこの温度は耐えられないだろう。
「【エンハンス】」
その後一気に距離を詰める。近距離戦が弱いとみての判断だ。
「はぁぁ!」
ブオォォン
先ほどの紫電の矢よりも高威力の斬撃だ。これでダメージが通ってると嬉しいのだがな。
「はあ、だよな。」
奴の外装には少し焦げ目がつくだけで全然傷ついた風には感じられない。
「דה סר」
先ほどと同じように全然聖力も魔力も感じないが、またもや奴の拳に炎がまとった。本当にどうなってるんだ。
ドガァァン ドガァァン
俺に向かってめちゃくちゃ攻撃が飛んでくるが、すべてをぎりぎりで回避しながら蒼炎の刃で反撃を繰り返すが一向にダメージは通らない。
「【ストーム・バレット】」
風属性の術式を使ってみるが、これもはじかれてしまう。
「これも効かないか…溺結、あの鞭は使えるか?」
俺の魂に保管されている鞭であればあいつに有効打を与えられるだろうか。
「無理だと思う。あれは生物には有効だけどゴーレムみたいな無生物にはただの鞭だよ。」
だろうな。さてさて、どうしたものか。
「シャー!」
アルケニーが奴の後ろからとびかかる。
「דַפנָה」
驚いたような声を出し、もがきはじめる。
「ナイス!行くぜ、【プラズマ・エンチャント】!」
先ほどエルヴィスと戦った時とは逆に、炎に雷を付与する。これでも同じ効果を狙うことができる。
「おら!」
俺は高く飛び上がり、奴の赤い目を狙う。大体のゴーレムは目が弱点だと相場が決まっている。
バチィィィ
ひときわ大きな音を立てながら、目に斬撃が当たる。ゴーレムはそれでも動きを止めない。なんだ、ここが弱点ではないのか。と、俺が考えていると、
「シャー」
ついにアルケニーが振り払われた。それにあのアルケニーの巨体を吹き飛ばして壁に大きく打ち付けられる。
「大丈夫か?」
「シャー!」
アルケニーはとても頑丈だが、あれは相当にいたそうだ。
「【セイクリッド・ヒール】」
治癒属性の上位術式で癒す。しかしまずいな。このままだと俺の聖力が切れて、ゲームオーバーだ。しかしこの状況を打破する、有効な手段は見つかっていない。
「ラーザさん、大丈夫ですか!?」
突然入り口があったほうから声がしてきた。この声は、
「エルヴィスか、ああ。大丈夫だ。」
恐らく俺の事態を聞きつけてきてくれたのだろう。
「ラーザ!!」
シャラルの声もする。まさか危険なダンジョンを二人で来たのか。
「現在この結界を解除する方法を模索中です。もうしばらくお願いします。」
ふむ、俺でも解除できないこれを解除できる人間がいるのであればあの冒険者の中ではエルヴィスくらいだろうと思っていたところなので、うれしい報告だ。
「どれくらいかかりそうだ?」
「そうですね…初めてみるものなので何とも…」
そりゃあそうか。しかしこのままの調子でいけばあと8分後くらいには俺の聖力が尽きる。仕方がないので俺は相手の攻撃を受け流すという方針で行くことにした。
「アルケニー、無理に攻めずに、時間稼ぎで行こう。きっと解除してくれるはずだ。」
「シャー」
この空間にどれくらいの防音性があるかはわからないので、なるべく小さな声で指示を出す。アルケニーもそれをわかってくれたらしく、小声での返事だ。
「גפי אסאזה」
奴が動き出す。今度は背中が大きく空き、中から金属の触手のようなものが出てきた。あれには聖力のようなものがつかわれているらしく、動きが予測しやすい。
「איגוקין」
触手が一気にこちらに攻めてきた。よく見ると先端は鋭くとがっており、殺傷能力は高めだ。
「っておいおい、お前も来るんかい。」
触手と一緒に本体まで攻めてきやがった。じゃあさっきもそれやっとけよ感があったが、何か都合があるのだろう。
「【ガーディアン・シールド】」
結界術式の上位を展開する。これを駆使して防ぎきるしかない。
「シャー!」
シャラルは小さくなってよけきる作戦らしい。うん、頭いいな。
「一発一発威力おかしいだろ。」
あの触手手数のわりに威力が高く、結界をすべてに合わせていたらすぐに壊れそうだ。なるべく使うのは最小限で行こう。
ブオォォン
触手を払ったタイミングで、【ヘル・ブレード】が壊れてしまった。このままではまずい。
「おい!まだ解除は終わらないのか?」
俺は外で解除しているであろう奴らに聞いてみる。
「はい、すみません。まだ機構すらつかみ切れておらず…」
おいおい、大丈夫なのか。このままだと俺の聖力が切れるぞ。
バリィィン
ついに結界の一枚目が壊れてしまった。俺はすぐに張りなおす。
「あと3枚くらいか。」
自分に残っている聖力量と一枚張るのにかかる量、そして思考加速にかかる魔力量を考慮し計算した結果だ。時間にして約15分。現状では時間が圧倒的に足りないだろう。どうすればいい?俺は自問自答する。この状況を打破できる会心の一手。
「…!!あれを使えば…しかし、失敗すれば…」
俺はとある一手を思いつくが、それはあまりにも危険すぎる。だがそれ以外に方法がないのもそうなのだ。
「あれを使うんだね。」
溺結が呟く。こいつも俺が何を使おうとしているのかが分かったのだろう。
「アルケニー!頼む、20秒だけ時間を稼いでくれ!」
俺は一気に飛びのく。
「シャー!」
俺の呼びかけに応じて、アルケニーが巨大化して姿をあらわす。一か八かだ、
「【エンハンス】」
アルケニーに身体強化をかけて、俺は術式の準備に取り掛かる。
「בסיס סודגי」
奴はこちらに来るが、アルケニーが必死に守ってくれている。
「聖なる力よ、我に力を。滅ぼすは眼前」
俺の目の前に、小さな黒い球が生成される。
「【ディザスター・ショット】」
崩壊の小球がゴーレムに飛来した。
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