第百二十七話 最難関ダンジョン
視界が青く染まった後、数秒で薄暗い空間に出る。少し広めの空間に先ほどの冒険者たちがくつろいでいる。
「ここがダンジョン…」
シャラルが呟く。初めてのダンジョンが人間領の中でも最難関といわれるものになるとは思ってもみなかっただろう。しかも大部屋の攻略だ。
「ひとまず扉の前まで移動するからラーザ、ついてきてくれ。」
デラニーが俺に声をかける。おそらくデラニーのパーティメンバーだろう。2人ほど後ろにいる。
「わかりました。じゃ、シャラル。また後でな。」
「うん、じゃあね。」
俺たちはそのまま野営地を抜けて進んでいく。
「なかなか珍しいですね。ミスリルが含まれた鉱石の壁ですか。」
壁は金属でできている。まあ691階層のダンジョンだ。摩訶不思議なことが起こるのもよくあることだ。
「おっ、あんた見る目があるな。一般人じゃ中々見抜けねえがこの壁にはミスリルが少量だが含まれてる。ミスリルなんてめったにお目にかかれない金属だ。ここで採掘出来たらぼろ儲けだろうな。」
一人の大男が言う。肩には斧を背負っている。
「ただこの壁は相当に硬くてな。採掘しようにも大きな音が鳴りまくるし、そもそも大規模な工夫隊を連れてこなきゃいけねえ。そんなことしたらあたりの魔獣の餌食だ。」
これは惜しいな。何とかして安全にミスリルを取り出せたら莫大な利益が見込めるというのに。まあないものねだりは仕方がない。
「っと、お前ら気をつけな。なんかいるぜ。」
先頭を歩いていたデラニーが俺たちを制する。気配を探れば確かに何かいるような感じがする。
「ラーザは聖力を温存しなくちゃだろ?私たちに任せな。」
「ええ、お願いします。」
そんな会話中に出てきたのは、一匹の蝙蝠だ。しかし蝙蝠といっても体は人より少し小さいくらいだ。頭に朱色の宝石が輝いている。
「っち、ルビーバットか。お前ら、仲間呼ばれないようにしろよ。」
ルビーバットはピンチになると超音波を出して近くにいる仲間を呼び寄せてくる。ちなみにそれに乗じてほかの魔獣も出てくることもあり、ダンジョン内でのパーティ壊滅の一つの要因だ。
「はい、狙いは頭の宝石ですよね。」
男の一人が確認する。そうだ。頭の宝石から魔力を操り魔法を使うのだが、これは魔核につながっている箇所でもあり、弱点となる。まあ弱点といってもこいつ自体が結構耐久力があるため、一撃あてたくらいじゃ倒せないが。ちなみにこれはルビーとは一切関係のないただの石だ。
「キィィ」
ルビーバットの鳴き声とともに戦闘が始まった。
「おりゃあ!【コレクト・ヘイト】」
先ほどの斧を持った大男が先陣を切る。
「「【クリア】」」
デラニーを含めたほかの2人が術式を行使する。ルビーバットは大男に釘付けだ。
「キィキィ」
額の宝石の前に魔法陣が展開される。あの魔法は炎属性中位魔法だろう。
「【プロテクト・シールド】」
一気に突っ込んだかと思いきや守りの態勢に切り替える。おそらく最初から狙いはこれだ。
ブォォン
赤い炎が照射されるが、簡単に防ぎきる。
「【ハイドロ・エンチャント】」
ルビーバットのすぐ横まで近づいていた片手剣使いが水属性をまとった剣で額に切りかかる。先ほどの俺のように継続して使うのではない。まあ本来そういう使い方が想定された術式なのだ。
「キィィ!」
傷ついたことに怒ったのかさらに大きい奇声を発する蝙蝠。これほかの魔獣まで寄ってくるんじゃないのか?
「うっせえんだよ!」
デラニーがいつの間にか行使していた身体強化をまとった拳でルビーバットを吹き飛ばした。うん、なんだか怖いな。あの人。あとその声で魔獣が寄ってきたらどうするんだ。
「お疲れ様です。」
俺は一応付近を警戒するが、幸いなことに今回はほかの魔獣が寄ってこなかったらしい。
「ああ、エルヴィスほどじゃあないが私たちも強いだろ。」
デラニーが言う。確かに精錬された連携だった。
「よし、この調子で進んでいくぞ。」
「おう!」
俺たちはさらに奥まで進んでいく。
「ここですか。」
俺は身長の3倍はありそうな大きな扉を見上げる。あの後も何度か魔獣に遭遇したが、危なげなく処理できている。
「ああ、中にくそでけえ空洞があることは確認済みだ。」
簡素な扉だが、なんとも重厚感がある。
「もう一度確認するぞ。今回の第一偵察は、向こうの外見、大きさ、攻撃方法などを見てもらいたい。その後も1週間ほどは偵察を重ねて、初めて本番だ。ピンチになったらすぐに出て来いよ。」
「はい、わかってます。」
「なんだ、ビビってんのか。大丈夫だ。あんたはめっちゃ強いんだからな。」
さっきの大男が笑いかける。まあビビってるってよりは、
「どちらかというとゾクゾクですかね。どんな強敵が待っているのだろうって。」
久々にこんな気持ちになった。最近はシャラルの訓練もかねて手ごろな魔獣しか相手にしてなかったしな。
「はは、頼もしいな。」
俺は扉を開ける。
「私たちもここで見とくから心配するするなよ。」
恐らくこれは腕試し兼ねているのだろう。冒険者としての戦闘面以外での実力。皆の信頼のために勝ちとりたい。
「では。」
俺は中に進んでいく。今のところは大きな反応もないし、静かだ。しかし怠慢はいけない。
「どういうことだ。」
俺の探知能力は大抵の隠蔽を看破できる。ここまで反応がないのは不気味以外のそのものではない。しかし俺は前方への警戒を怠らなかった。しかしだからこそ遅れたのだ。
「っラーザ、戻れ!」
デラニーの声が聞こえた時にはもう遅かった。俺が振り返れば先ほど開けたはずの扉が閉まりかけている。
「【プラズマ・ステップ】!!」
俺は術式を行使し、駆け抜けるが、
ガン
俺の目の前で扉は閉まってしまった。
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