第百二十四話 大規模パーティ
呪力の発表中は冒険者は大盛り上がりだった。人間に隠された新しい力、しかもそれが戦闘にも十分役立つものだと分かれば強くなる機会があると思うのだろう。実際これで一発逆転を狙っているものもいる。
「呪力…私にも使えるかな?」
「いやぁ、それはどうかな。」
実際にシャラルの魂を少し見てみるが、呪力を感じることはできない。残念ながら呪いの才能はないだろう。今日のことで肉体戦も厳しことが分かった。じゃあ術式くらいしか冒険者としての道はないがその才能は良くも悪くも未知数だ。
「ん…これは…」
俺はシャラルの魂に違和感を感じた。何が違和感かはわからないが、何か大きく違うところがある気がする。
「どうしたの?」
俺が見つめていることに気づいたのかシャラルが問う。
「いや。何でもない。」
俺は思考を放棄した。わからないことは考えても仕方がないしな。
「まあ今日は夜遅いし帰ろうぜ。」
「うん、そうだね。」
俺たちはいまだ活気の冷めない建物を出る。今後は呪いについての造詣を深めるのも大切になりそうだ。
「頼むぜ。」
俺は溺結にボソッと呟く。
「任せて。」
「何か言った?」
「気のせいじゃないか?」
あれから少し経った後も冒険者の間では呪いが最も熱い話題だった。やはり一定層呪力を使うことができる者がいたらしく、呪術師(いつの間にかそのような名称がついていた)入りのパーティも現れ始めている。
「今日は初めての大規模な攻略だな。」
俺たちは今冒険者協会自治区最大級のダンジョンの入り口にいる。周りには歴戦の戦士と思しき者も40人ほどいる。
「よし、みな集まったな。」
拡声術式による大声が聞こえてきた。今回のパーティのリーダーだ。女性だが、実力者であることはその燃えるように赤い目と筋肉質な体つきを見ればわかる。
「今回は私たちのパーティの呼びかけに応じてくれてありがとう。私はリーダーのデラニーだ。みなも知っていると思うが、今回の目的はこのダンジョンの第691層の大部屋攻略だ。つい一週間前私たちのパーティがこのダンジョンの第691層で大部屋を発見した。」
「おお!」
周りから感嘆の声が漏れる。このダンジョンは人間領の中でトップクラスの規模だ。未だ底は見えない。しかし魔力量の測定値的に750層位までではないかといわれている。
「前回の大部屋攻略は半年ほど前だ。あの時の傷を忘れたわけではないだろう。今度こそ死者0名を目指すぞ!」
前回の大部屋攻略戦は文字通りの死闘だったらしい。冒険者の中でも腕利きのみが参加したという戦闘だったが、死者10名、負傷者24名という結果だった。そのうち復帰不可能者が5名という悲惨なものだ。
「あの時は対策不足だった。前々回の攻略戦がうまく行き過ぎたのだ。私たちは奢っていた。今回はそのようなことはなしで行くぞ。」
「おお!」
またもや冒険者が声を上げる。それだけ皆の期待は十分なのだろう。
「私たちこの輪の中にいてもいのかな。」
シャラルが不安そうに聞いてくる。
「俺たちも最近は結構みんなに認知されてきたし、大丈夫だ。シャラルも強くなったし、足手まといにはならないはずだ。」
ダンジョンにも潜って最低限戦えるくらいには仕上がってる。依頼もこなしてるし魔獣の素材も色々売っている。シャラルが狩ったものもある。
「今回の偵察役を決めたいと思う。この段階が最も死人が出やすい。事実前回の偵察では2名の死者が出た。」
空気が意気に重くなる。冒険者の暗黙の了解として偵察役は多くの配当がもらうことができる。しかし、それ相応の危険もあるのだ。前回の教訓も踏まえて誰も行きたがらない。それに今回の最初の偵察は最も危険が大きいということで、負傷者を最小限にするために一人で行くことになっているらしい。そのまま30秒ほど重々しい雰囲気が流れていく。
「俺が行きます。」
そのままでは埒が明かないと判断した俺は声を上げる。その瞬間に皆の注目が集まる。
「君は…。」
向こうも新参者の自分を見て反応に困っているようだ。
「ラーザ、大丈夫なの?」
周りからどよめきにも似た話し声が聞こえてくる。
「君は大丈夫なのか。別に君の実力を疑っているわけではないのだが。」
確かに偵察役というのは重要で、実力者が必要だ。ふむ、これは俺では任命されないだろうか、とか考えていると
「彼の実力は確かなものです。」
後ろから聞き覚えのある声がしてきた。声のほうを向いてみるとそこには赤髪の少女の姿がある。
「君も参加するのか?」
赤髪の少女-エルヴィス-のほうを向く。このような催しには参加しない気がしていたので意外だ。
「ええ。ドレーク様から指示がありました。」
「エルヴィスさんがいるなら安心できるな。」
周りの冒険者から喜びの声が聞こえてくる。やはり彼女は相当のやり手なのだろう。
「エルヴィスがいうなら実力は確かなものだろう。」
なんだ、この二人は知り合いなのか。俺がそんな表情をしてエルヴィスを見つめると、
「以前、ドレークに引き抜かれる前は私たちは同じパーティだったんだ。」
後ろから答えが返ってきた。へえ、全然性格とか違いそうだけど意外と気が合う仲なのかな。
「私はこいつを偵察役にするのは賛成だ。どうだ?ほかのもので意見がる奴はいるか?」
まあこの二人が賛成しているのだ。だれも反対をいう奴はいないだろう。そう思っていると、
「ちょっと待てや!」
野太い声が聞こえてきた。
あらすじを変更しました。なお物語の進行には影響はありません。
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