第八話 二次試験 後編
俺は、起動コマンドが押されこちらへ近づいてくるゴーレムをじっと見つめる。さて、一体どうすればいいものか。もちろん転生前の俺であればこんなやつ瞬きしている間に塵と化しているのだが、人間に転生してしまい、魔力も聖力どちらもうまく使えない俺では結構手こずる。そうこうしていると、俺にすぐ前までゴーレムがやってきていて、
「ウガアアア!」
と言いながら殴りかかってきた。ゴーレムから感じれる聖力からあまり力は強くないと判断した俺は両手でその拳を受け止めた。
幸い見立て通りあまり強くなかったため、俺は受け止めることができたが力関係は5分5分ぐらいと言ったところか。
「アアアアア!」
そう言ってもう片方の手を出してくるゴーレム。あれ?これまずいか。危険だと判断した俺はゴーレムの手の動きから経路を予測し、その経路上に俺が押さえている手を重ねた。そうすれば、ゴーレムは自分で自分の手を殴ることになる。
「ガアアアア!」
「痛いだろうが少しの間我慢してくれ。」
そう言うと俺はゴーレムを構成している土の一部を握りしめ、ゴーレムを突き飛ばし離脱した。
「ガガガガガ」
そう言ってすぐにこちらへ迫ってくるゴーレムを視界に捕らえながら、俺は思考を3つに分割する。1つ1つには【思考加速】を5倍でかけている。2つは握っている土塊からこのゴーレムにかけられている術式の解析。もう一つはゴーレムから身を守ることに専念させる。
「さあ、早く解析終わらせてくれよ。」
俺は解析をしている2つの思考に念じながら、回避行動を取り続ける。
どれぐらい時間が経っただろうか。加速している思考の中で正確に時間を把握することは至難の業である。少なくとも、すでにゴーレムを9回ほど突き飛ばして時間を稼いでいる。そんなことしていると、
「おいおい、そんなんじゃそいつは倒れねぇぞぉ。やっぱ平民はダメだなぁ。」
そんなことを言ってくるやつがいた。さっと確認をすると、1番のやつである。なんだあいつ、さっきあんなにビビり散らかしていたのに。うるさいやつだなぁ。しかしまあ、あいつ以外にも数人俺のことを見くびるような目をしているやつがいる。そんな中、違う目をしているやつが3人ほど。1人はアテナである。彼女は心配そうな表情である。もう1人は10番の剣士。表情は掴めない。最後は22番の魔術師、彼女の表情は何か期待をしているようであった。
「残り30秒!」
試験官がそういった。ふむ、制限時間とかあったのか。それともあまりに時間がかかりすぎるから?
「いやいや、もうこいつダメですから。終わりにしましょうよ。」
1番が抗議している。何がなんでも俺の邪魔をしたいらしい。
「はあ、」
俺は11回目の突き飛ばしを終えた後にため息をついた。
「おい、あの平民ため息とかついてますよ。だからこんなやつは」
「すみません、あと10秒だけ延長をもらえませんか?」
俺は1番の言葉を遮るように言葉を発した。
「たった10秒でいいのか?」
「はい、10秒でいいです。」
俺が答える。その結果、試験官は
「よろしい、あと10秒延長して残り16秒だ。」
「フハハハハ!たった16秒で何ができる言うんだよ。無駄な足掻きだ。」
1番はそう笑っている。俺は思考の加速度を高め、8倍にした。そしてその瞬間
「解析、完了。」
そう短い言葉が脳内に響いた後、俺の思考の中に大量の情報が流れ込んでくる。3つの思考が統合したことにより、記憶などを共有したのだ。
「その目見開いてよく見ておけ。」
俺は笑っている1番にそういうと聖力器官を通じ、聖力を指先に集める。聖力を纏った指先は淡く発光する。
その後、
「【ショット】」
俺は最低限の詠唱だけで術式を発動する。俺のありったけの聖力を出しても、とてつもなく少ない聖力が俺の指先から波のようにして放たれる。【ショット】は無属性の聖力をただ単に放出するだけの術式だが、放出する向きや量、時間などを複雑変えている複数の【ショット】を同時に発動している。それにより、波のようになっているのである。
「フハハは、なんだよそれ。【ショット】って、超基本魔法じゃねえか。しかも威力も超しょぼいし、何が良く見ておけ…だ…」
なぜやつの勢いが急に弱まったか。それは目の前でゴーレムが崩れ、土の塊になったからである。まるで術式による補助を失ったかのような具合に。それにしても、残り2秒、ギリギリだったな。
気づけば周りの奴らが全員静かだ。まるで信じられないものを見たかのように。
「ええと、これでいいんですよね?」
俺はそう尋ねる。そういうと、試験官であり、アテナの父親である男性は、
「あ、ああ。これにて、二次試験を終了とする。結果は後ほど伝達するため、全員帰宅するように。」
我に帰ったかのようにそう言った。ふう、これで帰れるな。相当疲れた。帰ったらとりあえず寝よう。そう思っていると、
「ふざけるな!なんであんな魔法でゴーレムがやられるんだよ!。インチキだろ。!」
相当怒りの感情がこもった1番の声が聞こえてくる。その声を聞いてか、
「確かに、おかしいよな。」
「不正があったんじゃないか?」
などの声がチラチラ聞こえてくる。アテナの方を見てみると、「私もわからない。」みたいな顔をしている。そうこうしていると、試験官がやってきて、
「彼らの意見はもっともなところだ。君の【ショット】だけであのゴーレムが崩れたように見えたが、その原理を説明してもらわねばこちらとしても採点が難しい。簡単でいいから、説明しなさい。」
えっめんどくさ
心の中でつい言ってしまうほどには面倒くさい事だった。