第百二十一話 即席ハウジング
「どうしよう。」
俺たちは人気の少ない公園のベンチで一休みをしている。
「まさかどこも一杯って言われるなんてね。」
そもそもこの街は宿泊などを受け入れているわけではないのだ。宿屋は少ないし、あったとしても通りすがりの旅人で満室だった。飯にはすぐありつけたのだがな。
「ふむ、これはキャンプコース待ったなしといった状況だが、なにか案はあるか?」
「でもどこも空いてないんでしょ。どうするもなくない?」
「そうだな…これは今後の長期的な問題だから先延ばしにするのは良くない……」
俺は思案する。そして一つの結論を導いた。
「よし、家を作ろう。」
「え、今なんて言った?」
「シャア?」
この場にいる全員から「?」が飛んできた。しかし、これがこの問題を根本的に解決する手段だろう。
「まずは土地を探すぞ。なるべく安いのがいいな。」
俺は駆け出す。
「ちょっとまってよ!」
そう言いながらもついてきてくれるシャラル。
「まあ任せとけって。」
この街にいくつかの売地があることは確認済みだ。中にはボロボロ家もセットで。あれなら費用もそこそこで済むはずだ。
「ここだな。」
俺はある程度目星をつけていた場所へと向かう。中心街から少し離れていて、少し手狭だが、2人+1匹なら問題ない。
「すみませーん、ここを売って欲しいんですけど。」
俺はここを売っている建物へと向かう。営業時間終了ギリギリでなんとか駆け込めた。
「はい?ええと……金貨110枚と銀貨500枚となりますが。一括でしょうか?」
「それなんですけど…金貨を20枚ほど負けてもらえませんか。」
俺がこれまで後生大事にためてきた金を一気に使いきることをしても流石に一括購入はできない。ここは交渉の常套手段、単刀直入だ。
「あのですねぇ、流石にそんなに大きな減額はできません。」
まあ無理だろうな。大丈夫だ。これも計算済み。
「ど、どうするの?」
ようやく追いついてきたシャラルが聞いてくる。まあ安心しておいてくれ。
「わかりました、では現時点で金貨10枚負けてくれませんか。そして残りの10枚を今後返済するというのは。」
本来俺が通したかったお願いはこれだ。実際これから払うのは全財産にも匹敵するものなのだが、大丈夫だ。
「そうですね…もともと売れるかもわからない土地でしたし、その条件なら飲みましょう。」
やったぜ、内心でガッツポーズする。
「こちらが地権です。そして借金の証明書がこちらで契約内容が…」
俺は一通り目を通し適当かどうかを判断する。
「ありがとうございます。契約成立ですね。」
俺はそそくさと建物を出て、買った土地へと向かう。
「大丈夫だったの?まずあの空き家を撤去して、新築するにはお金が足りないんじゃ…」
「そうだな。ということでシャラル、ちょっと離れててくれないか?10分くらい。」
「え、どういうこと?」
「それは教えられない。アルケニーもついていくんだ。」
俺はアルケニーをシャラルの肩に乗せる。
「わかった。じゃあ行こう。」
俺はシャラルが路地に入って奥の方まで行ったことを確認した。一応気配を読んでみるが、何かしらの細工でこちらを覗くということもしてないな。
「ラーザ、あれをするの?」
「まあな、これならゴミも出ないし。それに実験にもなる。溺結、誰か来ないか見ておいてくれるか?」
「うん。」
まあこんな夜に郊外までくるやつなんて滅多にはいないだろうが。
「うん?」
俺は何かを感じる。どこかから見られているような…
「そこか。」
俺は空を見上げる。上空には鷹が旋回している。恐らくだれかの使い魔だろう。聖力をかすかに感じる。隠蔽も上手いな。
「【シャドウ・アロー】」
俺は鷹を撃ち落とす。影の矢にしたのは闇夜でも目立たないようにするためだ。鷹は空中で消滅してしまった。しかし、聖力の残滓から誰のものかは大体見当がつく。
「邪魔もなくなったし、早速しますか。」
俺は術式の準備を開始した。
「すごいね…大成功じゃん。」
溺結が更地になった土地を見てつぶやく。うん、予想以上だ。
「よし、シャラルたちも呼ぶか。おーい、出てきてもいいぞー。」
「うん、終わった…って、ええ!あの家は?」
めちゃくちゃ驚いている。まあ音も光もほとんど無くあのボロ屋が跡形もなくなくなっているのだ。そりゃあビビる。
「まあこんなところだ。あと、ちょっと手を貸してくれ。」
俺はシャラルの手を取る。先程のことで聖力を使い切ってしまった。まだまだ実戦投入は厳しいな。
「【ビルド・ハウス】」
俺は小規模な建築属性の術式を行使する。シャラルはまだまだ発達途上だから聖力量は少ないがこれくらいの家だったら建てられる。
「おお、すごい!」
目の前に建ったのは土地のサイズに合ったログハウスだ。うんうん、我ながらいい出来だ。
「これがこれからの我が家だ。ゆっくり休めるな。」
「ありがとう!ラーザはすごいね。」
まあこれくらいだったら誰でも修行を積めばできるようになる。
「まあ今日はつかれただろう。ゆっくり休もうぜ。」
俺たちはログハウスの扉の前に立つ。
「帰ってきたらこう言うんだぞ。」
扉を開けて、
「ただいま!」
きれいに片付けられた部屋が出てくる。