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第百十九話 冒険者協会入会

俺はさっとあたりを見渡す。一応他の誰かに見られていないかということを確認するが、あたりには誰もいないようだ。


「ふぉっふぉっふぉ。そんなに警戒するな。安心せい。」


これは驚いたな。一応気づかれないように見渡したのだが気づかれるとは。なかなかやる。この老人。


「女の子の方も緊張を解しなさい。」


「あっ、はい。」


ふむ、なんというか独特な威圧感があるな。熟年の戦士のような。本気出したら強そうだ。


「まあ君たちは現在政府のお尋ね者になっているわけだが、それは特段珍しいものではない。」


まあそれは俺も知っている。この街には訳ありで住んでいるというものは少なくない。


「そしてもう一つ、君は我々の希望である可能性が高い。」


「希望?」


一体どういうことだ。話の全容がつかめない。


「ああ、現在冒険者協会と人間の政府との関係がどうなっっているかは知っているかね?」


「それは……ずばり圧力に苦しんでいるということですか?」


「そうじゃ。そこまで言ったなら話は早い。」


「えっと、どういう事?」


シャラルはまだわからないか。


「つまり、政府と戦争しようってことですよね。」


「飲み込みが早くて助かるのう。現在水面下で兵を集めておる。お主のような戦闘能力のものが加われば心強い。それに…都合がいい。」


「ええ、そうですね。これは都合がいい。」


俺は下唇を噛む。つまりは俺は利用される立場にあるということだ。誰かに利用されるなんて嫌だが、これは仕方がないか。


「何が都合がいいの?」


「そうだな、教えてやろう。つまり、俺のような大犯罪者を政府が逃しておくわけがない。しかし俺を匿っているのが冒険者協会なら人間政府のほうが戦争を仕掛けてくる可能性があるってことだ。」


「それは……大丈夫なの?」


「大丈夫だと思うか?逆に。」


「お主らには身の危険があるじゃろう。しかしこの件を断ってしまえば…」


「俺達は突き返されるってことだ。」


俺の言葉のタイミングでシャラルの顔が青ざめる。流石にこの状況を理解できたか。


「まあ断ることもできないし、その取引で行くしか無い。俺たちを突き返さない代わりに計画への完全協力を義務付けられる。これは出来レースだったんだよ。」


「わかってもらえてよかった。では、早速手続きじゃ。」


老人が手をたたくと、奥から赤い髪をした少女が出てきた。ふむ、年はよくわからんな。


「書類はすべて書き終えておきました。後ここに本人のサインを書くだけです。」


そう言われて手渡された書類には俺の情報がびっしりと書かれている。おそらく王都からの指名手配の情報を元にしたのだろう。ペンを手渡されたのでそのまま書く。


「シャラルの方は…」


「すみません、お連れの方についての情報は殆どなく。」


「まあよい。その前に適性検査を受けなければならん。」


何だそれは、これで入会ではないのか。


「では、私はラーザ様を案内しますので会長はシャラル様の対応をお願いします。」


ん、今なんて言った?


「えと…会長?」


「そうじゃ、儂こそが冒険者協会現会長、ドレークじゃ。ちなみに彼女は儂専属の秘書エルヴィスじゃよ。」


な、なんだと。そんな聞いてない。このおっさんそんなに偉い人だったんかい。


「そんなことはどうでも良い。とりあえずエルヴィスについて生きなさい。シャラルちゃんの方は儂が手続きをしておく。」


「お、お願いします。」


シャラルがお辞儀をする。うん、まあ悪意はなさそうだし大丈夫か。


「では、こちらへ。」


俺はエルヴィスについていく。協会の本部の裏口から外に出て人気のない道を進んでいき、地下へを続く階段を下る。


「あの、ここは…」


「こちらは適性検査と呼ばれる検査を受ける会場です。適性検査とは冒険者協会入会時に本人に実力があれば検査を受けてもらいはじめから冒険者ポイントが高い状態で始められるというものです。」


ああ、そういうやつね。でも、なんかここ結構危なそうじゃないか?


「お気づきですね。この検査では魔獣と戦ってもらいます。私が例を見せるので、ここで待っておいてください。」


そう言って少し開けた場所に出る。俺は端を指さされたので寄っておく。


「では、行きますよ。」


すると、ガシャンという音がして奥から巨大な気配がしてくる。


「あれは……」


奥から出てきたのはクマ型の魔獣だ。おそらくアルカスという魔獣だ。人間領で独自の進化を遂げていて魔族領にいたときものものとはあまり似てないが。記憶が正しければ危険度5に相当する。


「【エンハンス】」


彼女はいわゆる魔法戦士というやつだろうか。特別な装備を持たずに中近距離で術式を使う、俺のような戦闘スタイルだ。


「はっ、やぁぁ!」


一気に距離を詰める。俺の記憶が正しければアルカスはその毛皮により高い物理に対する耐性を持っていたはずだ。


「ははっ、ヤバすぎだろ。」


思わず苦笑いが出てしまう。そりゃあそうだ。彼女は一気に飛び出したかと思えば手刀でアルカスを貫いて奥に着地している。恐ろしい練度だ。そのうえでハンカチで血がついた手を拭いている。いや全身に血がついているが。


「彼女、すごいね。」


「ああ、めちゃくちゃ強い。」


「それにあの会長も只者じゃない。」


「ん?どういうことだ。」


「私の存在に気づいていた可能性がある。」


どういうことだ。そのような素振りはなかったが。それに溺結の存在に気づくだと。


「私は今ラーザの魂の中に入っているから他者に気づかれることはまず無いと思う。でも明らかに私の方をチラチラ見てきた。」


「っと、このように倒してください。審査は私が行います。」


会話が中断される。それは気づかなかった。これからは気をつけていこう。


「では、早速しましょう。ここに来てください。」


「はーい、わかりました。」


俺は部屋の中央へと歩く。


「なるべく強いので頼むぜ。そのほうがよく分かるだろ。」


「はぁ、真の実力者かただの道化か。判断させてもらいます。」


そう言われた瞬間にガシャン、と音がした。

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