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第百十五話 世間の厳しさ

俺たちが草原を駆けていると遠くの道沿いに看板が見えた。


「この先冒険者協会自治区。」


アルケニーから降りて確認してみればたしかにそう書いてある。つまりすでに冒険者協会自治区は目の前ということだろう。


「ついたね。」


シャラルが感慨深そうに呟く。俺もこの看板を見て少し思うところがある。こんなに遠くまで来てしまったといった感じだ。


「よぉ!そこの君たち。こんなところで何してるんだ?」


後ろから声をかけられる。シャラルはビクッとした様子だったが、俺は気づいていた。後ろを振り返れば男が二人と馬車が待機している。


「いえ、別に。ほら。シャラル、行くよ。」


俺はシャラルをこの男二人組が来た方向に引っ張る。流石に道を出ていくのは怪しまれるからなるべくこの男たちと距離を取りたかったら逆方向に行くのが正解だ。


「えっ、ちょ。」


シャラルはまだ了解を得ていないようだ。まあ仕方がない。彼女はまだこの世界を生き抜く術を殆ど持っていないのだから。


「お兄さんたち、どこに行くの。」


「あっええと、ルフトに。」


まずい。俺が止める前にシャラルが答えてしまった。


「そうなのか。それならそっちじゃなくてこっちだぞ。」


「……ああ。そうでしたか。すみません。道を間違えました。」


俺はそそくさと男たちの前を通り過ぎる。しかし、


「ちょっと待ってくれよ。俺たちもルフトに行くんだ。良かったらこの馬車に乗っていかない?」


ニヤニヤとしながら男たちが肩を掴んできた。さあ、なんとか丁重にお断りする方法はないだろうか。


「どうするの?」


「流石にだめに決まってるだろう。」


「でも、せっかくだし。楽しない?」


シャラルはすでにあの馬車に乗る気満々のようだ。うーん、これは骨が折れるな。


「ラーザ、なにか理由があるの?」


溺結が聞いてくる。おそらく彼女も何故だめなのか気づいていないのだろう。


「説明は……もういいか。わかった。乗ろう。」


俺はあまり乗り気ではないのだが、シャラルも溺結も乗りたいと思っているなら乗ろう。てか溺結は関係ないだろうに。それにこれは今後の社会勉強にもなるしな。


「では、よろしくおねがいします。」


俺は深々と礼をする。これも一種の通過儀礼だ。


「よしきた。さあ乗って乗って。飛ばすよ。」


俺たちは馬車に乗り込む。窓もない簡素な馬車だ。普通に考えれば何かしらの商品を外に届けたあとの馬車だろうか。


「どうも、まあゆっくりしていってくれ。これ、もてなしの品だ。」


男のうち一人が入ってきて、俺たちにクッキーをくれた。


「わあ!ありがとうございます。」


シャラルは嬉しそうにそれをもらい早速頬張る。


「うん!美味しい。」


男はニコニコしながらこちらを見る。はあ、まあ食うしかないな。


「いただきます。」


俺も一口ずつ丁寧に口に入れる。うん、素朴だがこの味が好きという人が多そうな良いクッキーだ。


「じゃあ、出発するから揺れに注意してくれ。」


そう言って男は外に出る。


「いい人たちだね。ルフトもこういう人たちばっかりなのかな?」


仮にこの人達が良い人だとしてルフトもこうは行かないだろう。なにせ冒険者の街だからな。


「うう。なんだか眠くなっちゃった。おやすみ。」


シャラルが突然眠りだす。


「そんなに疲れてたのかな。」


溺結が手をあてながら呟く。うん、ここまで来て気づかないのは流石すぎるだろ。


「はあ、【デフィカション】」


俺は解毒術式を行使する。結構強い毒だったからな。聖力も相当持っていかれる。


「どうしたの?」


「いや、さっきのクッキーに睡眠薬が入ってたんだよ。結構強めの。」


「え、それってどういうこと?」


困惑した様子で溺結が聞き返してくる。


「まあまあ一回外であいつらの会話を聞いてみたらどうだ?」


壁を通り抜けて人にも見えない溺結はこういうのがうってつけだ。まあ俺の魂の中に入っているため俺からはあまり離れられないが。


「うん。」


そう言って壁の外にでる。俺もそろりと前の方に移動して聞き耳を立てる。


「へへ。あいつら今頃おねんねですよ。ちゃんと食べましたからね。」


「そうか。それは安心だ。あの男の方はなかなかに警戒心が強そうだったからな。」


「ええそうでしょう。ですが最後は女の方に根負け。」


その後ハッハッハという笑い声が聞こえてくる。


「しっかしこんなところで何をしていたんだ。」


「わかりません。でも男の方は珍しい髪と目でしたね。どっちも純白。これは高く売れそうだ。」


「それに女も目が水色だったな。」


やはりか。想像通りこいつらは奴隷商かその類だろう。たまたま通りかかったところに俺たちがいたものだから高く売ってやろうと。


「それにしても白眼白髪か…最近どっかで聞いた覚えがあるんだよなぁ。」


「気のせいだろ。なかなかいねえよ。」


「もうそろそろ着きますよ。へへ。女の方は俺たちが飼育して頃合いを見て売ってやりましょう。」


またしても笑い声。本当に下衆だな。


「ど、どうしよう!ラーザ。」


慌てた様子で溺結が入ってくる。今更危機に気づいたか。


「こ、このままじゃ。」


「まあそう慌てるな。俺が無策なわけがないだろう。」


俺は考えの最終確認をする。うん、これならなんとかなるだろう。


「姉貴、今帰りました。」


「よお、きちんと売れたか?」


「はい、それはもう高値で買い取っていただきました。」


こいつら商売のあとだったのか。まあなんの商売かは大体察しがつくが。少なくとも明るいものではあるまい。


「それとですね、道中でいいのを拾ってきたんですよ。」


「どういうことだ?」


そういう声が聞こえてきて馬車の扉が開かれた。

3週間ほど行方不明でしたが投稿再開しますのでよろしくお願いします。

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