第百十四話 新天地を求めて
俺たちはその後王都の近くにある茂みに移動した。
「今からの流れを説明するから、よく聞いておいてくれよ。」
俺の前にはシャラルとアルケニー、溺結がいる。いつの間にか仲良くなったのか、シャラルはアルケニーに乗ったままだ。
「俺たちが今どのような状況に置かれているかを説明すれば、政府から追われる身になりました、って感じだな。」
この言葉を聞いて結構絶望的な顔をする2人?と1匹。そりゃあこれを聞いた限りではもう逃げ場なんてなさそうに思えるな。
「そこでだ。俺たちは逃げる必要があるわけなんだが、どこに言ったら良いと思う?」
「えっと……中立域とか?」
シャラルが答える。
「ああ、たしかにそういう考えもあるだろう。でもな、中立域への無許可での立ち入りは厳しく制限されているから難しい。だから、俺は思いついたんだ。」
「シャア?」
「知ってるか?この人間領に唯一人間の王族や貴族の権力が著しく弱く、ほぼ完全な自治を行っているいわば国のような場所あるってこと。」
実はこの話結構知られてない。なぜなら見かけ上は人間領の政府機関と仲の良さそうな感じに思われるからだ。
「そこは、ここだ!」
俺は地図を広げて指差す。そこには、
「自由都市ルフト?」
「ああそうだ。ここなら俺たちは大っぴらに活動しても大丈夫なはずだ。」
「ここって……冒険者協会が治めてる街ってこと?」
溺結が質問する。良い着眼点だ。そう、この街から円上に約150キロメールに渡っては冒険者協会自治区と呼ばれる地域が広がっている。その他の通り冒険者協会がその地域の頭領的立ち位置なのだが、ここでは独自の法律が制定されていたり、人間領で働いた悪事はその地域において相当軽く扱われたりするといった特殊な場所だ。ちなみに決して無法地帯というわけではなく、ちゃんと街として機能しているらしい。
「ここに行けば俺たちも安全だと思う。聞いた話では、ここには他の地域で犯罪を犯した人も結構な割合でいるという話だ。俺たちでも差別などはないと思う。
「じゃあ、ここが一番だね。」
「そうだ、ただ一つ心配なのは……」
俺はここで口をつぐむ。これを言うべきが迷うな。これは別に必須というわけではないのだが…
「どうしたの?」
「ん、ああ。まあいい。気にしないでくれ。さ、早く出発しようぜ。」
俺は急かす。まあこれを今言うと行きたくなくなってしまう可能性も捨てきれない。
「わかった。じゃあ気にしないけど、何かあったらちゃんと言ってね。」
俺たちはアルケニーの上に乗る。
「アルケニー、任せたぞ。」
「シャア!」
「それじゃあ、地図の方向にしゅっぱーつ!」
シャラルが元気良く声を上げる。周囲に聞こえたらどうするんだとも思ったが、今は夜だし大丈夫だろう。
「どんなところなのかなぁ。」
目を輝かせているシャラル。
「まあ結構時間かかるし、寝とけよ。疲れも溜まってるだろ。」
子供は睡眠が一番だ。しかし、不服そうに頬をふくらませる。なんだ、なにか悪いことでも言ったか。
「ラーザは寝ないの?」
「まあな、一日二日寝なくても大丈夫だ。」
実際には思考を2つに分けて半々で寝ているのだが、それを話すわけにはいかない。
「そう…じゃあ私も起きとく!」
何が、『私も起きとく!』だ。だめに決まっているだろう。
「だめだ。ちゃんと寝とけ。向こうについたらすることがたくさんあるんだから。」
「はーい。」
やはりまだ不服そうだが、きちんと寝始めた。そりゃあそうだ。こんなに疲れることをしたのだから。
「そうだよな、こんな事になっちまったんだよな…」
俺は後ろを振り返る。始めた来たときは輝いて見えた王城が今は不気味に鎮座していた。
「おーい、シャラルー。起きろー。」
俺はシャラルを揺り起こす。
「ん、んん。どうしたの?」
まだ眠たそうに目をこすりながら起き上がる。
「飯の時間だ。と言ってもそこらへんで取ってきた肉を焼いて塩振っただけだけどな。」
俺は差し出す。食器はないから木を削って作った。ちなみに塩は俺が家から出したものだ。流石に旅の必需品だからな。
「これ……いいの?」
「ん?どういうことだ…もしかして嫌いだったか?」
「い、いや。いただきます。」
そう言って一口かぶりつく。そして、
「お、美味しい…」
夢中で食べ始めた。最終的に、涙まで流しながら。
「な、なんで泣くんだ。」
「だって…こんなに美味しいの、久しぶりで。」
そういうことか。たしかにあの独房の中で提供された不味い料理とも言えるか怪しいものを食べ続けてきたのだ。このような雑な料理でもとてつもなく美味しく感じるだろう。実際期間がかなり短かった俺でもこれは普通に美味しく感じる。
「これからはこういうの食べ放題…とまでは行かなくてもたくさん食べれるぞ。」
そう。彼女は自由の身なのだ。と言ってもまあ追われの身になったのだが。
「よし、もうそろそろ出発するか。」
「そういえば今どれくらいのところにいるの?」
ふむ、たしかにそうだな。俺はあと何日でつくかをざっと計算する。
「あと3日もあればつくんじゃないか?」
「わかった。じゃあこれからも少しの間はアルケニーちゃんの上だね。」
そう言ってアルケニーの上に飛び乗る。そういえばアルケニーってオスだったかメスだったか知らないな。
「これはどんなに遅くともだから普通にもっと早くつく可能性もあるぞ。」
「シャアーー!」
このようにして俺たちの旅は始まった。