第八話 二次試験 前編
翌日、俺はアトリテア国立公園に足を運んでいた。言わずもがな二次試験のためである。俺が着いた頃にはすでに俺以外の全員の33人が集まっていた。その中に1人が、
「おいおい、最後の1人はまさかの平民かよ。そかもこれだけの数の貴族を待たせといてまさか詫びの一つもないなんてことはないよなぁ?」
なんだこいつ。一次試験の時も絡んできたやつはいたが、ちょっと貴族は顔がでかすぎるんじゃないか?まあ無視でいいか。
「おーい、ラーザ君!ようやく来たんだ。ずっと待ってたんだよ。」
そう言いながらアテナがこちらへ駆けてくる。
「よお、待ってたて言ったて俺は時間5分前についてるけどな。」
そう、他の33人が異常なだけである。と言うかそう信じたい。
「あのねぇ、15分前にはついときなよ。心配したんだよ。昨日あんな会話してたのにバックれるんじゃないかって。」
「そんなことある訳ないだろ。だって」
「おい!そこの平民!」
誰かが俺たちの会話を邪魔するように叫んできた。さっと周りを見渡しても平民と言われるのはおそらくだが俺1人。仕方ないから俺は声のした方を向く。そこにいたのは先程俺を煽ってきた貴族であった。
「なんで平民なんかが、アテナ様とそんなに仲よさそうにしてるんだよ。本来そんな権利ないはずだろ。」
何を言っているんだこいつは。誰かが誰かと話すのに権利がいるのか?と、俺がそんなことを思っていると、
「あなたには関係ないでしょ!!私が話したくてラーザ君と話してるの!」
アテナが先に叫んでいた。それで怯んだのかその男はすげすげと後ろに下がって行った。しかしそれ以降も、俺に向けられる視線には冷たいものも多い。
「人気者なんだな。」
「そんなことないよ。ただみんな私の家柄がいいからだけって言う理由で。それにしても、ごめんね。私のせいでこんなことになっちゃって。」
お通夜ムード的なやつが流れていると、
「はい、皆さん静粛に。これから二次試験の概要を説明しますからね。」
昨日の試験官が話を始めた。昨日のアテナの話が本当なら、
「あれがお父さん?」
「うん、そうだよ。」
やはりそうか。
「それでは皆さん早く試験を受けたくてウズウズしてる頃でしょうから、簡単に説明させていただきます。今回の試験では戦闘についての技能を測らせてもらいます。少し詳しく言うと、これからあなた達には我々が準備したゴーレムと戦ってもらい、その時の戦闘をこちらの試験官方に採点してもらいます。家柄などは一切採点に関与しませんので大丈夫ですよ。」
ざわざわ ざわざわ
皆ざわついているな。それはそうか。実技試験というんだから、魔法の実演だと思ってたんだからな。ふむ、それにしてもゴーレムか。これは中々面白い。ゴーレムは元となるものに魔法や術式を込めることで動くようにしたものであり、低級なものは動くだけだが上級になると魔法まで使えるようになるものもある。さてどれくらいのものが出てくるのやら。
「では、早速始めるぞ。まずは番号1番。」
「はいっ」
そう言って前に出てきたのは先ほど俺たちに喧嘩を売ってきた男だった。
「それでは。、こちらへ。よし、いいぞ。出せ!」
そう言うと、周りから何やら聖力が集まってくる。そして、その聖力は国立公園の土に吸い込まれる。
「なるほど。」
つまり元々術式が土に込められており、後は聖力を流し込むだけと言うことか。そう考えているうちに土が盛り上がり、一つの人型になった。中低位と行ったところか。正直かなり弱いが10歳にしてみては随分と強敵になるはずだ。
「う、うわーー!」
1番と呼ばれていた男は完全に震え上がっているが、ゴーレムは立ち止まったままだ。おそらく起動コマンドが押されるのを待っている待機状態なんだろう。
「よし、動け!」
アテナの父親が命令する。男はまだ震えている様子だが、やがて意を決したように術式を唱え始めた。
「聖なる力よ 我に力を 今ここに解き放たんとするは業火 【フレイム ショット】!」
【フレイム ショット】炎属性の中位術式の一つである。正直威力は心許ないが10歳なら仕方がない。それを食らったゴーレムは右腕を失っているが、まだ前進してくる。
「う、うわーー、【フレイム ショット】!【フレイム ショット】!【フレイム ショット】!」
1番は【フレイム ショット】を連打している。これは、一度詠唱したあとなら、自分の聖力器官がどう言うふうに聖力を変化させれば良いかを一時的に記憶しているため連打できると言うことだ。そうしている間に五回目の術式でゴーレムが戦闘不能になった。
「よし、1番下がれ!次2番!」
これもまた似たような辛勝だった。しかし、10番あたりで1人すごいやつがいた。
「はっ!」
この一息でゴーレムの上半身を剣で吹き飛ばしているのだ。本当にすごいな。周りからも驚嘆の声が聞こえてくる。
「次っ22番!」
結構とんだが、こいつもすごかった。
「聖なる力よ 我に力を 流れるは濁流【ハイドロ ウェーブ】」
ストイックな声で詠唱をする女だった。今のは水属性の上位魔法の一つだろう。いい威力をしていた。
「次、33番。」
33番はアテナの番である。一体どう言う術式を見せてくるのだろうか。
「聖なる力よ 我に光を 煌めくは閃光【ラディアント アロー】」
こちらは光属性の上位魔法だろうか。光の矢が1本ゴーレムに向かっていく。それだけなら怖くなさそうだが、矢が触れた先からゴーレムが蒸発していく。これが光魔法の戦い方だ。
「次っ34番!」
さてさて、ついに俺の番が来た。どうやって倒そうか。そっと終わったばかりのアテナを見てみると、心配そうな目で俺を見ていた。
「始め!」
今日はここまで。また明日日曜に更新します〜