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第百十三話 さらば王都

「これからどうするの?」


シャラルが聞いてくる。確かに脱獄を果たしてからのことを何一つ説明してなかったな。


「まあまあ、そう急がずに。考えはちゃんとあるから。」


俺はそう言ってアルケニーに声をかける。


「一旦俺たちが泊まっていた宿に連れて行ってくれ。回収したいものがいくつかある。」


「シャア!」


お安い御用だと言わんばかりだ。そんな会話をしていたら城壁が目の前に迫ってきた。


「この音は……そうか。そういうことだったか。」


俺は一人で合点が行く。


「どうしたの?」


「いや、そう言えば王都は今日夏祭りの日だったなって。」


鐘の音が聞こえてきたり、屋台の客寄せの声もしてきている。うん、妙に騒がしい夜なのはこのためか。


「夏祭り?私達も行ける?」


シャラルが目を輝かせて言う。


「流石に無理かな。俺たちは追われてる身だからな。」


そう言うとしょんぼりという表情になるシャラル。


「いや、でもいつか胸を張って参加できる日が来るさ。」


「本当!?約束だよ。」


「そうだな。頑張ろう。」


俺たちは王都にある建物の屋上をアルケニーに乗って移動していく。上を通るたびに下にいる人達が目を丸めているのが見ていて面白い。俺がそんな余興を楽しんでいると、


「ん?あれは。」


遠くの方でこちらを見つめる少女を発見した。周りには同年代と思しき男子女子の混合集団。


「アテナか。」


私服姿だが遠目でもわかる。そして彼女は他の俺の同窓とは違い唯一アルケニーの上に乗った俺の存在に気づいているらしかった。その目は驚きと戸惑いが入り混じっている。


「はあ、仕方ない。こんなことはしたくなかったんだけどな。」


俺はありったけの聖力を集めて、


「【ホール】」


小さな窓を作る。その対の窓にはアテナがいる。向こうは驚いたらしく仰け反ったが、俺の方に出ている窓を確認して安心した様子だ。


「これをお前に預ける。持っておいてくれ。」


そう言って俺は自分のはめていた指輪を外して窓に投げ込む。


「えっ、それってどういう…」


窓の奥からアテナの声が聞こえてくる。俺は遠目でアテナが指輪を拾ったのを確認すると窓を閉じる。アテナの周りには彼女の同級生が集まって何やら話している。


「なんであの指輪をあげたの?」


シャラルが聞いてくる。横を見れば溺結も聞きたそうにしている。


「アテナに…さっきの少女はアテナって言うんだけど、彼女に覚えていてほしいからかな。俺のことを。」


実際には彼女は指輪を売るかもしれないし、捨てるかもしれない。しかし、それはどうでも良いことだ。


「どういうこと?」


溺結が再度質問をする。しかし、俺はそれに答えない。答える必要性が無いと判断したからだ。


「ラーザ、少し風邪でも引いた?顔が少し赤いよ。」


シャラルが指摘する。


「……」


俺はその質問にも答えない。唯一の味方はアルケニーかもしれない。


「アルケニー、少し急いでくれ。」


「シャア!」


アルケニーは全てわかっているというように答えた。




「着いた。」


貴族街から相当離れた場所にある俺の宿周辺は夏祭りでも人通りが少ない。


「じゃあ、お邪魔して。」


俺は自分の部屋がある場所の壁を殴る。


カァァン


「痛ってぇ!」


そう言えばそうだった。先程指輪をアテナに上げたから筋力は一般人より少し強い程度だ。そんなんで石壁が壊せるわけがない。


「おいそこ、笑うな。」


後ろでシャラルも溺結もあろうことかアルケニーまで笑っている。


「だって。ラーザでもこんなミスるんだって思って。」


一番笑っているのは溺結だ。


「はあ、まあ良い。シャラル、手を貸してくれ。」


「…?良いけど。」


シャラルの手からシャラルの聖力を借りる。そして、


「【エンハンス】」


身体強化をできる限りかける。まだ未発達のシャラルであればこれくらいが限界値だ。


ドガァァン


今度こそ壊れた。砂埃を避けて入ったのは懐かしの我が家だ。うん、まだ荒らされはいないな。


「あれを取りに来たんだよね?」


溺結が俺の横に立つ。


「まあな。あれが見つかったら大惨事だ。」


俺は棚の中からノートを三冊取り出す。これは俺の極秘研究の成果だ。国にバレたらそれこそ死刑になるであろう。


「アルケニーもう一度頼む。」


先程から結構でかい音を立ててしまっているため、最低限これさえあればいいというものだけを持って外に出る。待っていたシャラルとアルケニーにも迷惑だしな。


「シャア!」


「じゃあ、一旦王都の外まで。」


アルケニーが発進する。


「誰だ、君たちは!」


後ろで声が聞こえてっきたので振り返ってみると、衛兵が三、四人立っていた。来るのが早いな。


「しがない盗賊ですよ。それでは。」


「ま、待てー。」


そうは言っても待ったらダメだろう。無視する。


「なんで盗賊なの?」


シャラルが首を傾げる。


「だって盗賊って言ったほうが疑いが少しでも緩くなるかもだろ?脱獄犯が王城の外に逃げたってよりは、盗賊のほうが何倍も楽だ。」


といっても焼け石に水だろう。それでも何もしないよりはマシだ。


「アルケニー、急げ!」


「シャア!」


俺たちは王都の外まで全力(頑張るのはアルケニーだけだが)で逃げ出した。

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