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第百十二話 脱獄

狙いはシャラルだ。おそらくこの衛兵どもは俺のことは一度は耳にしたことがあるのだろう。類まれな戦闘力を有していると。


「シャラル!今回の絶対ルールは?」


「ラーザから絶対に…離れない!」


俺はシャラルを抱えて戦闘体制に入る。この子はだいぶ軽い。確かに戦闘はしにくいだろう。しかし、これが最善の手である。シャラルには戦闘能力がない。2人で生きて出るというのが今回の目標だ。


「ふん、娘を庇うか。貴様は自分の能力を過信しすぎたな。」


この狭い通路では相手も複数人での戦闘はできない。それゆえに俺は一対一の連戦形式を強いられる。本当は一気に片付けるのが手っ取り早くていいのだが。


「あまり舐めるなよ。」


俺はシャラルを抱えたまま衛兵に突撃する。あいつはもう勝ちを確信をしている。剣を大きく振りかぶり、こちらを笑いながら見ている。そりゃまあ体格的にもそうだし装備的にも。


「な!?」


あの衛兵から驚愕の声が聞こえてくる。そりゃそうだ。このまま無鉄砲に突っ込んで行くのかと思いきや、斜め方向にジャンプしたのだから。


「とう!」


俺はそのガラ空きの頭に蹴りをぶち込む。


「グアッ」


そうして気絶してしまった。俺はそいつから剣をヒョイっと持ち上げる。


「さあ、武器も手に入ったことだし誰から来る?死にたいやつから来い。」


「ラーザ…」


シャラルが心配そうにこちらを見上げてくる。おそらくこの後に起こり得る惨劇を憂いているのだろう。シャラルは俺が負けるなど万に一つも考えていない。ただ、剣を持ったということに対してその後の未来を憂いているだけなのだ。


「じゃあ、行くぞ。」


俺は正面に見える集団に突っ込んでいった。





「これは……すごい。」


シャラルが感嘆の声を漏らす。俺の目の前には死体の山。と言っても全員外傷はあまりないように見える。まあそれは俺がほぼ一撃で沈めたからなんだが。


「こういうのは見て平気なのか?」


普通これくらいの女の子がこんな惨劇を見ていたら泣くなり気絶するなりするものだが。


「うん、本当は怖いよ。でも、今私は泣いたりしたらラーザに迷惑がかかるでしょ。だから、ここを出るまでは絶対に泣かないって決めてるんだ。」


心強い言葉を言っている反面声は少し震えている。やはり怖いのだ。怖くないわけがない。それでも無理してついてきてくれる。これはありがたい。


「強いな。シャラルは。」


俺は抱えているシャラルの頭を撫でる。


「ううん、私何にも役立ってなくて。そればかりか迷惑ばかりかけて…私がいない方が良かったんじゃないかって…」


「そんなわけないだろ。シャラルがいてくれた方が守らないとなって思ってやる気になるんだ。」


「嘘ばっかり。」


しかしその顔には少しの笑顔が見える。


「よし、じゃあ行くか。」


俺は目の前に見える階段を登る。戦闘してたらここまできていた。


「この扉が地上への出口だ。外は多分夜だから、隠密行動でいこう。」


「うん。」


ギィ


俺は扉を開ける。案の定外は暗い。遠くの方で何か音が聞こえてくる。


「よし、じゃあ逃げよう。」


そう言って俺が歩き出そうとした瞬間、


「止まれ!」


女の声がした。振り返ればローブに身を包んだ集団が見える。おそらくは、


「王国魔術団か。なんのようですか?」


「それはこちらが聞きたい。何故に地下牢の入口から出てきた。」


リーダー格の女は俺のことを疑ってかかっている。厄介だ。


「それにその少女はなんだ?」


俺の後ろに隠れているシャラルを指差す。


「ん?なんだ?」


女が後ろの男に話しかけられる。こちらでは聞き取れないくらいの小さな声だ。一瞬驚いた顔をしたのを俺は見逃さなかった。幾分か話をしたのち、


「まあいい。一度話をゆっくりと聞かなくてはならない。ついてこい。」


いや待ってくれ。この状況でついていけばまた牢屋に逆戻りだ。そんなことはできない。


「できない…と言ったら?」


「決まっている強制的に連れて行く。」


相手の数はざっと五名。伏兵の可能性もあるため、油断はできない。それに俺は今戦闘用の装備ではない。地下を出たことで【フィールド・ディスペル】の範囲からは逃れて指輪の効果も復活しているものの、勝機はほぼない。


「かくなる上は……」


俺は意を固める。この状況の最善手。


「こいつは見逃してやってください。」


俺はシャラルのことを見る。


「え…」


「この子は何も悪いことはしてません。」


「ほう、ではお前はどうするんだ?」


魔術団が全員戦闘体制に入る。


「まさか。僕だけであなた達に勝てると思いですか?」


俺は笑う。もう少しだ。もう少し。


「だめ、2人で一緒に。」


シャラルがこちらに抱きつく。いいぞ。その調子だ。


「おっと、そのお嬢さんはお前と離れたくないらしい。どうするんだ?」


「さあ?僕の知ったこっちゃありません。」


俺はシャラルを無理やり引き剥がす。


「あっ。」


「逃げろ。俺が時間を稼ぐから。」


「で、でも…」


そして俺は勝利を確信する。


「はっはっは。」


思わず大きな笑いが込み上げてくる。


「どうした?緊張で頭がおかしくなったか。」


「いえいえ、あなた達の愚かさに笑いが堪えきれなかったんですよ。」


「何?どういうことだ。」


「あなた達はさっさと俺たちを拘束しておくべきだった。だったらこんなことにならずに済んだのに。」


パンっ


俺は指パッチンで合図を出す。その瞬間、


「シャアー!」


目の前に巨大な白い蜘蛛が現れる。


「な、なんだ…こいつ。」


魔術団の方々も慌てているな。シャラルも怯えているが。


「シャラル、掴まって。」


俺はシャラルを抱えてアルケニーの上に乗る。


「じゃ、さようなら。」


アルケニーはそのまま木に糸を巻きつけ高く飛び上がる。


「きゃああ!?」


シャラルが絶叫している。確かに初めては怖いかもな。


「安心しろ。俺がいる。」


ぎゅっと抱きしめてやれば落ち着いてくれる。


「…!アルケニー防御姿勢を取れ。」


「シャ?」


そう言いながらもきちんと姿勢をとってくれる。ちゃんとしてる。


バアアアアン


アルケニーの足元が爆発する。流石は王国魔術団だ。腕の良い術師がいる。。結構高い位置にいたのにさらに吹き飛ぶ。


「だ、大丈夫なの?」


「シャア!」


うん、やはり耐久の高さもいいな。


「ちょっと、待っててくれよ。」


そういて俺は飛び出す。


「ちょ、ちょっとどこ行くの!」


「アルケニーの上にいてくれればいいから。」


そう言って俺は下を向く。今まさに第二発を打とうとしているところだ。


「聖なる力よ、我に力を。生み出すは紫電【プラズマ・フォール】」


俺は空中で雷属性上位術式を発動する。そして俺の目の前に紫色の雷が生み出され……


ドガァァン


あいつらの元に降り注ぐ。まあ死にはしないだろう…多分。


「【シャンプ】」


俺はアルケニーの上まで移動する。


「だ、大丈夫?」


シャラルが聞いてきた。


「ああ。さ、急ごうぜ。」


俺たちは妙に賑わいの音が聞こえてくる王城の外まで急いだ。

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