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百十一話 遂行のとき

「はあ、つまり何もわからないから出たとこ勝負ってことね。最初からそう言ってくれればよかったのに。」


ようやく俺の説明に納得してくれた。たしかにさっきのは俺の説明が甘かったというのはある。


「まあそんな感じだ。ああ、あと言い忘れたことがあったな。」


「言い忘れたこと?」


子は最重要案件だ。肝に銘じてもらいたい。


「この作戦は任意参加だ。別にこんな危険を犯してまで君が参加する必要はない。」


シャラルに関しては別に死刑が決まっているわけではない。俺が無理に連れ出すなんてことないのだ。


「どうして……そんな事言うの?」


「へ?なんだ?」


なんか雰囲気が違う。これまでのどれのとも違う。


「私、そんなに迷惑かな。ラーザは私に来てほしくないの?」


「いやいや、そんな訳ないだろ。なんでそんな事言うんだ?」


シャラルの言っている意味がわからない。来てほしくないなんて思ってないんだが。


「だって、来てほしかったらそんな事言わないでしょ。あのまま強制参加みたいな雰囲気出しとけば絶対に私は行ってたよ。そんなこと考えてないわけないよね。なのに言ったってことは……」


「……」


「ほら、反論できないんでしょ。」


俺は黙ってしまう。そりゃあそうだ。俺はそんなこと一瞬たりとも考えていなかった。しかし今言われてみればそうだ。来てほしかったら言わないのが一番だ。そんなことにを考えつかなかった自分が恥ずかしい。


「はぁ。」


しかし俺はため息をする他なかった。


「何がおかしいの?」


「じゃあ撤回するよ。シャラルは俺から一回たりとも離れるな。これを守ってくれ。」


正直言うと俺はシャラルがついてきても来なくてもどっちでもいいと思っていた。確かにここまで仲良くなったシャラルとの別れは悲しいものがあるかもしれないが、2000年生きてきた俺には特段心には響かない。冷たいようだが。そして俺はシャラルがいてもいなくてもこの作戦を成功させる自身がある。根拠はないが。


「ほ、本当?ついて行ってもいいの?」


パァと顔が明るくなる。うん、この笑顔がいいんだわ。


「よし、じゃあ色々と話を詰めていこうか。」


といっても、わからないことが多すぎて詰める話も少ないんだけどな!!






「もうそろそろ来るぞ。」


俺たちは身構える。もちろんできる限りのことはした。まあできることと言えば大まかな流れの説明くらいだ。


「一旦隠れていてくれ。俺が仕留める。」


「うん、わかった。」


いつもどおりの人が飯を置いてくる。俺はその背後に忍び寄った。


ゴンッ


「ウッ……」


俺は素早く意識を刈り取る。


「よし、この調子ならしばらくは起きないだろう。」


俺は男のポケットから鍵を取り出す。


「これで…出れる。」


シャラルが感極まった声で言う。


「ああ。でも、気を抜くなよ。ここを抜け出すまでが勝負だ。」


そう言いながら俺たちはそのまま階段を上がって通路へ出る。あの男が帰ってこないと怪しまれない内に出たほうが良い。


「ここが……外。」


シャラルはここまで来るのも初めてなのだろう。


「急ぐぞ。」


しかし、それで感傷に浸っている余裕はない。見回りの衛兵に見つかってしまえばだいぶ面倒くさい。まあここに来るまでの道順は連れてこられたときに覚えているから大丈夫だ。


「このまま真っ直ぐだ。」


しかし、随分と複雑な構造をしている。あと10回ほど曲がってようやく上へと続く階段だ。


「た、助けてくれー。」


俺が側面に目をやると、牢から手を伸ばしてくる男がいた。おそらく俺たちの服装から脱獄してきたと察したのだろう。まあ助ける気なんて毛頭ないが。


「大声を出すな。看守や衛兵に見つかる。」


俺は注意をする。見つかるのだけは勘弁なのだ。


「でも…この人もなにか事情があって……」


心優しいシャラルは自分たちのことよりも助けを求めている人のことのほうが大事なのだろう。


「やめろ、こんなやつ助けたところで作戦の成功率が下がるだけでなんの旨味もない。」


俺は手を引っ張る。こんなところで道草を食うのはよろしくない。


「くそっ。いいじゃねえか。こうなったら、お前らもろとも道連れだ!」


おいおい、こいつマジかよ。性根が腐ってやがる。


「おーーい!誰かーー!ここに脱獄してるやつがいるぞー!」


大声で喚き始めた。こいつやってくれたな。


「黙れ。」


俺は手を牢の中に入れて頭を殴る。そのまま気絶してしまった。


「ッチ、でもまずいな。先を急ぐぞ。」


周りのやつもそれに便乗して騒ぎ出した。全員を黙らせることはできないため、このまま急ぐ。どうせ声を上げることしかできない。


「おい!なんの騒ぎだ!」


しかし最悪なことに騒ぎを聞きつけた衛兵がこちらに駆け寄ってくる声がしてきた。後ろからだ。


「あそこに!脱獄者が。」


本当に犯罪者というのは救えないな。そこまでして人を蹴落としたいのか。


「何をしている!」


なんと前からも衛兵たちが来てしまった。いわゆる絶体絶命。俺たちは衛兵に挟まれる形になる。


「大人しくしろ。どのように逃げ出してきたのかは知らないが、戻ってもらうぞ。」


「嫌だ、と言ったら?」


「その時は、貴様らに死んでもらうしかあるまい。」


そう言って衛兵の一人が突撃してきた。

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