百十話 死刑!?
その後はなんの変哲のない日々を送っていった。といっても投獄生活には変哲しかないが。
「今日で5日目か。」
俺はそう呟く。
「5日目?なにがですか?」
「ああ、俺が投獄されてからだよ。」
一瞬の沈黙の後、
「ええと、それは正確な数字ですか?」
そう控えめに聞いてきた。
「まあな。ずっと数えてたから間違いはないはずだ。」
俺はもう一度計算をし直すが、間違いない。きっちり120時間弱経っている。
「すごいですね……私には到底できませんよ。」
「いやいや、これくらいだったら一週間もすればできるようになる。」
俺がそう言ってもなかなか信じてもらえなさそうだ。
「まあいけどさ。っと、もうそろそろ飯の時間じゃないか?」
飯は毎回決まった時間にやってくる。ここにいる中で唯一と言ってもいい外部との接触だ。と言ってもたいてい無言で置いて帰っていくが。
ガチャン
「……本当だ。」
俺たちは部屋の入口を見る。そこにはいつもと同じ人が二人分の食事を置いている。
「ありがとうございます。」
俺は毎回お礼を言っているが反応してくれたことは一度もない。
「じゃあいただくとするか。」
と、飯を手に取ろうとすると、
「ん?なんだこれ。」
飯の下に紙がおいてある。何かしらのお知らせだろう。
「どうしたの?」
「ああ、お知らせ的なのがおいてあってな。」
俺がそういった瞬間だった。シャラルの顔が真っ青に染まる。
「どうした、具合でも悪いのか?」
「嫌だ…」
「ん、なんて?」
「また一人は……嫌なの。」
「どういうことだ?また一人って……」
しかし、その後の反応はない。
「って、おい!大丈夫か!?」
そのまま倒れ込むシャラル。
「ラーザ、これは……」
先に内容を覗いた溺結も少し……物凄く険しい顔をしている。しかしそんなことよりもシャラルだ。一旦楽な体勢にする。
「ラーザ、あれ見て。」
溺結が指さしたのはあのお知らせだ。落としていたらしい。
「なになに……」
俺はその内容に驚きを隠すことができなかった。
「ん、んー」
そういう声で起きたシャラルは顔色も良くなった。
「おはよう。」
俺はなるべく穏やかな声で接する。シャラルの頭は今俺の膝の上に乗っている。ちょうど覗き込む形だ。
「いやぁ、びっくりしたぜ。突然倒れるんだから。」
俺は軽い冗談を言う。
「あの紙…見た?」
「ああ、見たよ。」
「なんて書いてあった?」
本当は聞きたくないのだろう。しかし、勇気を振り絞って問うてきた。
「端的に言うと死刑宣告だな。3日後、俺の機密死刑を実行するんだと。はぁ、俺そんなに悪い事したのかな?」
そう言って微笑みかけるが、反応が薄い。
「なんで……ラーザは怖くないの?」
「怖いよ。怖くないわけがない。」
そりゃあ自分の死刑が言い渡されたのだ。いくら俺でも怖くはなる。
「じゃあなんでそんなに余裕そうなの?」
「ビビってても仕方ないだろ。解決策を考えてるんだ。」
俺は今頭を振るで回しながら、どうしたらこの絶望的状況で生き残れるかを模索している。
「そうなんだ…強いね。私なんか自分のことでもないのに取り乱しちゃって。」
「いや、別に気にする必要はない。」
おそらくシャラルには俺に言えないようなつらい経験があるのだろう。それをわざわざ詮索する必要もない。
「どうするの?」
「そうだな……それで、シャラル寝てた間に考えてたことがあるんだ。」
俺は先程からずっと考えていたことを口にする。
「諦め……」
そういったタイミングでシャラルの顔が蒼白になる。
「るのはありえないとして、」
うん、下手に冗談を言うのはよしておこう。
「ここから脱走しよう。」
俺はついにそのことを口に出す。実を言うとこの計画自体はここに入れられてからずっと考えていたことだ。どうせここにいても未来はないし、なら一縷の望みに懸けてここを抜け出すのがいいだろう。
「脱走するって……なにか策はあるの?」
不安そうな顔で見上げてくる。
「安心しろ。俺は頭がいいからな。綿密な計画を立ててある。」
「どんなの?」
期待に満ちた表情だ。もしかしたら自由になれるかもしれない計画だからな。
「ずばり……いきあたりばったり作戦だ!」
俺が練りに練った作戦だ。きっと気に入ってもらえる。
「……」
「どうした?素晴らしすぎて声出ないか。」
まあ無理もない。この作戦はすべての自体に対応可能なものだからな。
「な、何が綿密な計画よ!そんなの危険すぎる。無理だよ。」
え、何が?これほど完璧な作戦はなかなか無いだろ。
「だって何も決まってないんでしょ?そんなの絶対ダメ!!」
なんか今度は我儘な子供をあやすような口調になったぞ。
「ええと、何が悪かったんだ?なにか改善点があれば直すが……」
「何もかもが改善点だったでしょ。」
そんなに冷たい事言われたら俺だって自信なくなるぞ。
「わかった。じゃあなんで俺がこの作戦を敢行しようとしているのか説明するから、まずは聞いてくれ。」
「う、うん。」
今な怪訝な顔をしているシャラルであった。