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第百九話 投獄

俺は目を覚ます。その瞬間にお出迎えしてくれる冷ややかな石の質感と仄かな炎の光が俺の現状を物語っている。


「はぁ、本当に……」


俺は鉄格子を眺めながら言う。


「どうしてこうなったー!!」


しかし無常にもその叫びは暗闇に吸い込まれて行くだけだった。





「それはまぁ、仕方ないでしょ。」


俺が独房の中に放り込まれて丸2日が経った。この2日の間外のことは何もわからない。でもきちんと三食出てくるので飢えはしのげる。まあお世辞にも美味いとは言えないが。


「だって意味不明だろ。いきなり家に押しかけてきて、そのまま有無も言わさず連行、からの放置って…」


あれは本当にびっくりした。朝出発の準備をしていたら突然大勢で家まで来て連行されるのだ。その時にアルケニーとも離れてしまった。今は何をしているのだろうか。


ガチャン


「ん?」


扉の鍵が開けられる。いつの間にか看守が来ていたらしい。


「なんすか。」


「移動だ。立て。」


はあ、ちょっとぐらい以上を説明してほしいところだが。


「どこに行くんですか?」


俺は移動中も話しかけるが反応してくれない。もう諦めよう。


「この下に行く。」


看守は特殊な鍵をガチャガチャと鳴らして扉を開ける。下へ続く階段があった。


「この先ですか……」


「この先に入ったものは一人として出てきたものはいない。」


なんか恐ろしいこと言っているが聞かなかったことにしよう。


「速く進め。私からはこれで終わりだ。」


「は、はい。」


俺は逆らう気にもなれなかったので、下っていく。まあ気配とかはしてないし、いきなり死ぬてことはないだろう。……多分。


「自分の罪を後悔することだな。」


捨て台詞のように言い放ってから鍵が閉められる。


「ちっ、罪ってなんだよ。」


一応確認してみるが、中からは開けられないし相当頑丈な扉だ。それにこの牢獄内全体に【フィールド・ディスペル】がかなり強くかけられているため、術式も使用不可だ。できても超しょぼい威力にしかならない。そして俺の指輪の効果もなくなってしまっている。


「進みますか。」


俺は意を決して進む。まあ大丈夫だ。横には溺結がいる。


「怖い?」


「さあな。ただ、死ぬのは避けないとな。」


俺たちは奥へ奥へと進んでいく。


「ん……誰かいるな。」


奥に気配がする。一人、少し広めの空間があるな。


「さあて敵か味方か、どっちだろうな。」


俺は足音を殺して進む。


部屋が見えてきた。


「……泣いてるのか。」


少女の泣き声が聞こえてくる。罠かもしれないが、これは放ってはおけない。


「大丈夫か?」


俺が声をかけると少女の体がビクッとなる。後ろを向いていてよくわからないが相当華奢だ。


「だれですか?」


相当か細い声で問うてくる。


「まだご飯ならいりません。帰ってください。」


おう、相当攻撃的だな。でも、おそらくはここに捕らえられている人だろう。


「いや、俺も君と同じなんだ。ここに連れてこられて。」


これを言ったあとにもし違ったら恥ずかしいなと思ったが、まあ大丈夫だろう。


「私と同じ…?」


「ああ、まあ訳もわからずって感じだけどな。君は?」


こういうときは相手の話を聞いてあげることが大切だ。自分は君の仲間だよという意識を向けさせて話を聞き出す。ここがどこかすら俺は知らんからな。


「私は……もうわからない。全部忘れた……なんでここにいるの?」


「どういうこと?」


溺結が聞いてくる。


「おそらく過度のストレスによる記憶障害だろう。……名前はわかるか?」


「……わからない。」


名前まで忘れているとは驚きだ。これじゃあ手の施しようがないな。俺はそういう方面には明るくない。


「じゃあ何か覚えていることは……」


ダメ元で聞いてみる。何かあれば儲けものだ。


「目の前で……人が燃えてる……それで、黒い人達に……」


「って、おい!大丈夫か?」


そのまま意識を失ってしまった。ただ呼吸は安定しているためこのままでも大丈夫のはずだ。


「この子は一体どうしたのかな?」


「人が燃えるか。術式による燃焼?それで犯人扱いされてここに入れられたのか?」


「でもそれじゃあ無理があるよ。まだ子供だし。どう見ても10歳くらいだし。罪が重すぎる気もする。」


そうなのだ。先程の看守の言葉から想像するにここには重い罪を犯した人が入るのだろう。


「でもわかるのはこんなの絶対おかしいってこと。そもそもラーザがここに入れられた理由もまだわかんないし。」


「そうだな。わからないことだらけか。……よし、一旦考えることはやめようぜ。」


そういって俺は気を失った少女を壁にかけてあげる。


「俺も寝るわ。することないし。」


「うん、じゃあお休み。」


俺をまぶたをそっと下ろした。





「起きてください。」


控えめな少女の声が聞こえてくる。俺が目を開けると、不安そうにこちらの顔を覗いている少女の姿があった。きれいな水色の目をしている。


「ああ、おはよう。起きたんだ。よかった。」


このまま起きないという可能性も無きにしもあらずだったのでとりあえず一安心だ。


「はい…先程は見苦しい姿を見せてしまい申し訳ございません。」


頭を下げてくるので、


「いやいや、大丈夫だよ。君が気負うことじゃない。」


随分と冷静になったな。これならもっと建設的な会話ができるかもしれない。


「じゃあまずは君の……今思ったけど名前が思い出せないんだったよな。」


「はい、そうです。」


「じゃあ名前を決めよう。どんな名前がいい?」


そう聞くと困ったように首を傾げる。まあ突然どんな名前がいいかと聞かれたら困るか。


「じゃあ俺がつけてもいいか?」


「…はい!お願いします。」


「じゃあそうだな……シャラルでどうだ?」


「シャラル?」


「ああそうだ。今なんとなく浮かんできたんだけど、どうかな?嫌だったら変えるが。」


「うん!すごく嬉しい。私はシャラル。」


なんだか嬉しいらしい。自己を言い表す事ができるようになるということは自分のイメージをしっかり持つことに繋がる。いいことだ。


「俺の名前はラーザだ。これからよろしくな、シャラル。」


「うん、よろしく。ラーザ。」


よしよし、最初のつかみは順調そのものだな。

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