第百七話 トーナメント
「トーナメント?」
俺は今ブライズの店にいる。
「はい。今年から開催されるもので、全国から挑戦者を募っているのことらしいですが。」
今は客も入っていないため店の後ろで話せる。
「そりゃあいいな。あんたは出るのか?」
「さあ、まあ招待選手の他に地区予選を通過したものに参加権が与えられるらしいので。自分は地区予選に出れたらですかね。」
まあといってもそんなめんどくさいものに参加はしないだろうが。もし本戦に直接参加させてもらえるなら参加するが。
「だろうな。ただ、毎年やってくれるならいい見せ物にはなりそうだ。」
「そうですね。参考にできる戦いもあるかもしれません。」
「そういえば日程的に夏祭りも始まる時期か。繁盛させるか。」
夏祭りね。去年は結局一回も行かなかったな。
「じゃ、楽しみにしときますかね。」
しかし、俺はまだ知らなかった。この大会が波乱を生むことになるとは。
その後は招待選手となるわけでもなく、地方予選に出る訳もなかった俺はゆっくりと日常を謳歌していた。そんな地方予選の翌日の出来事。
「おお!お前行けたんだ。」
俺たちのクラスで唯一地方予選に出場していたアンディが突破したとのことだった。
「いやぁ、でも3位だったからなぁ。危なかった。」
確かに危ないな。確か王都でアンディが住んでいるのは西地区だったろ。西地区の定員がピッタリ3人だった気がする。
「まあ大人も参加しているような大会だから仕方ない。本戦期待してるぜ!」
「おう、任せとけ。」
本戦は明日の安息日らしい。一応ブライズに許可は取ってあるので、見に行くとするか。
「ラーザも見に来てくれよな!」
タイミングよくアンディにそう声をかけられた。
翌日、俺は事前に予約しておいた席に座る。列の後ろから二列目というお世辞にも良いとは言えない席だが、それでもよく予約できたと自分でも思う。
「さあ、始まりました!第一回全国統一トーナメント。初代王者は誰になるのか。みなさんも期待していてください。」
そんなこんなで始まった。やはり出場選手の殆どは大人だが、ちらほら俺と同年代のものもいる。
「勝負あったー!」
解説は基本はじめと終わりしか声を出さない。それも邪魔じゃなくていいな。
「何人くらい出てるの?」
横にいる溺結が話しかけてくる。まあこの喧騒なら話しても大丈夫か。
「えーと確か、128人だったかな。といっても棄権とかもあったらしいしもっと少ないけど。」
合計で127戦ある計算になるな。ただ、ここだけじゃなくて他の7つ会場でも同時進行しているらしく一日で全部終わる予定らしい。ちなみにアンディは別会場だった。すまんな。
「ラーザ的には誰が勝ちそう?」
「うーん、別会場の奴らは知らないからなんとも言えないけど、この会場の一番はやっぱりあの人かな。」
俺は今戦っている魔術師のような人を指差す。右手には木製の杖だ。この会場の中で最も年季が入っている戦い方だ。
「そうだね、じゃあ私はあの人かな。」
溺結が指さしたのはステージの入り口で待機している槍使いだ。
「あの槍使いと魔術師が勝ち進んで戦うのは……決勝だな。まあふたりとも勝ち上がりはするだろ。」
「勝負ありー!」
そんな話をしていると魔術師が勝った。
「さあ、この会場での決勝戦です。両者前へ。では、はじめ!」
想定通り魔術師と槍使いの戦いが始まった。
「頑張れ、頑張れ。」
溺結もここで初めて応援をする。
「ん、いい感じかな。」
序盤は槍使いが一気に距離詰めて乱打をする。それに結界術式で対応しつつ距離を取ろうとする魔術師。
「このまま行けばあの人が勝つ。」
場内もやる使いの勝ちという雰囲気になってきたな。
「まあ見ておけ。もうそろそろだ。」
と同時に魔術師が持っていた杖の先端が紫に光りだす。そのまま術式が発動し、すぐそこまで迫っていた槍使いが消える。
「なにあれ。」
「あの杖の効果だ。これまでの戦いで巧妙に隠してあったけど、ここに来て発動か。」
俺が年季が入っているといったのはこのためだ。自分の最大の武器はずっと隠しておく。戦いの基本にして最も大事なことだ。
「概ね自分と距離が近いものを視界内のどこかに飛ばすってやつだろう。上を見てみろ。」
俺が上を指差し、溺結が見上げれば自由落下している槍使いが目に止まったことだろう。そこに魔術師の術式が襲いかかる。あれはもう回避不可だ。それこそ術式を使わなければな。
「勝負あったー!」
会場も大盛り上がりだ。
「ラーザ、わかってたの?」
「まあな。あの槍使いと魔術師が上がって来ることは読めてたし、そうしたらあの魔術師が勝つだろうってこともな。」
俺は自分でもわかるほど不敵な笑みを浮かべた。
「さあさあ、この戦いで初代王者が決定します。」
その後は何故か俺たちがいた会場に他の会場の勝者が集まってきてトーナメントを開始した。なぜかこの会場だけ値段が高かったのはこのためか。ちなみにアンディの姿はなかった。
「うおおお!やれぇ。」
「頑張ってー!」
あの魔術師も途中敗退してしまい、今は最終決戦だ。片方は魔法剣士と呼ばれる戦い方、もう片方は斧使いだ。驚きなのが魔法剣士の方は俺と同い年らしいということだ。
「強いな。」
両者一歩も引かない攻防をしている。しかし次第に魔法剣士の少年が優勢に立ち、そのまま試合が終わってしまった。
「初代王者はこの男だー!」
そのまま拳を振り上げる少年。表情は読み取れないが、どこか不気味だ。
「それではそのままエキシビションに移ります。」
ん、なんだそれは。
「会場の皆様の中で一名だけ、この王者と勝負をすることができます。どうですか?したいという方がいらしたら手を上げてください。」
いやそんなやついるか。そもそもなんの準備もしてないし立候補者なんて……
「いないようですね、それでは……席番号1753番の方にしてもらいましょう。」
ん、今なんて言った?してもらうっていうのは勝負をか?そんなことあるか?
「うおー、危ねえ、俺1754だったんだけど!」
俺の左の男が仲間内で盛り上がっている。
「え、待ってくれよ。もしかして……」
俺は恐る恐るチケットを確認する。そこには……
「なあ溺結、棄権していいか?」
「ダメでしょ。折角の機会だし。」
面白そうな目をしている溺結をみて、俺は諦めた。
今回から新章です。新章の名前の意味は今後わかります。