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第百四話 発見

「おじゃましまーす。」


俺はシャーロットの家の戸を叩く。誰かが出てくるまでの間に溺結がスルスルと中にはいていく。実体がないっていうのは便利だな。


「はーい。って、ラーザくん!?元気になったの?さあさあ、上がって。」


出てきたのはシャーロットのお母さんだ。おそらくシャーロットは中にいるだろう。


「アテナも入っていいんじゃないか?」


「そ、そう?じゃあお邪魔します。」


そう言って頭を下げながら入ってくるアテナ。


「それじゃあ私は少し用事があるので、後は自由にしててもらって大丈夫よ。」


「はい、わかりました。」


俺達は中に進んでいく。


「ラーザ、良かった。」


前に昼食を頂いたところの襖からシャーロットが顔を出している。


「心配かけてごめんな。」


そう言いながら中に入っていく。中には溺結もいた。


「友達?」


シャーロットは後ろにいるアテナの方を見ながら尋ねる。


「まあそうだな。お互い初めてなわけだし自己紹介するか。」


座布団を出してもらいながら話す。


「わかった。じゃあ私から。」


全員が座ったところでシャーロットの自己紹介が始まる。


「名前はシャーロット、魔力を使う……ラーザの師匠役だった。」


それ以降言い淀んでしまう。そういえばシャーロットは口下手なところがあったんだったな。


「で、俺が戦ったクラリスの妹なんだ。」


俺は補足説明をする。


「そういえば今クラリスはどこにいるんだ?」


家に姿がないということはどこかに出かけているのだろうか。


「さあ、最近夜遅くまでなにかしてるみたいだけど……」


まあ今は外にいるということか。それは良かった。今あいつと会うのは気まずい。


「じゃあ次は私だね。私の名前はアテナ・メーティスです。人間領から来ました。ラーザくんとは同じ学園に通ってて、友達って言う関係です。」


こちらも最低限の話だけだ。


「まあふたりとも仲良くやっておいてくれ。俺はちょっと用事が……」


俺は立ち上がる。


「…?もう帰るの?」


「いや、ちょっとこの家に用事っいうか。まあ何か悪いことするわけじゃないから安心してくれ。」


俺はそのまま家の庭に出る。後ろから「ちょっとまって、聞きたいことが……」という声が聞こえてくる。少々強引だとは思うが、何やら喫緊の問題らしい。


「で、どうしたんだ?」


俺は外に出て少し進んだ先で溺結に話しかける。先程からずっと俺に険しい顔をして何かをアピールしてきていた。


「こっちにきて。」


そう言われてついていった先は先日に化け犬と戦った場所の横にある蔵の前だ。


「この中、入って。」


「え?なんでだ。」


「それは入ったらわかる。大丈夫。危険はない……はず。」


最後に自信なくなっただろ。


「どうしてそれがわかる?」


「一度中に入って確かめた。」


そういえばここに入る前に早めに家に入ってたっけ。


「わかった、ちょっとまってくれよ。それと誰か来ないか見張っといてくれ。」


俺は蔵の鍵を見つめる。厳重そうな鉄鍵だ。


「【エコー】」


俺は音属性術式を使う。これは音波を飛ばして周囲の状況を把握するという便利なものだ。しかし、状況を正確には把握するにはそれなりの技量が必要なため余り使われていない。


「【クリエイト・キー】」


俺は鍵穴の形を完全に分析した後に、それに合うような鍵を作り出す。ここまで正確な創造術式もこれまた難しい。


「よし、開けるぞ。」


「うん。」


俺は重々しい扉を押す。


ギィィィィ


「…何も見えん。」


が、しかしなんだこの存在感は。見るものを釘付けにするような圧倒的な何かがそこにはあった。


「なんだ、これ。」


俺は恐る恐る中に足を踏み入れる。中にあったのは木箱一つだけ。その木箱を慎重に開けていく。中にあったのは……


「鞭?」


白い鞭だ。素材はぱっと見では不明。ただ大体6メートルくらいの射程があるだろう。


「これは…」


それ以外にものは見当たらない。本当にこれからあの存在感が出ているらしい。俺はその鞭を手に取る。


「!!!」


鞭を握った瞬間に押しつぶされるかのような重力のようなものが襲ってくる。俺はとっさに【エンハンス】を使うが、それでも耐えられずに膝をつく。


「静まりなさい。」


俺の後ろで声が響く。その瞬間にまるで親にしつけられた子供のように静かになる。


「これは一体何なんだ?」


俺は声の主である溺結に問う。


「それは私の体の一部。」


ふむ、何を言っているのだ。


「正確に言えば、私の呪力を使って作り出された呪具。だから私の声で止まった。」


まだ何を言っているのか余り理解できない。


「お前の呪力で作ったっていうのはどういうことだ?」


「怨霊にはそれぞれ固有の呪いがある。その呪いは怨霊に付き一つというわけでもなく、私くらいになると数十、数百という呪いを持ってるの。そのうちの一つを呪具という形に変換して他者でも使えるようにしてあるということ。ちなみにこれは私が8000年くらい前に作った。」


うん、なんだか情報量が多いな。とりあえずこれは溺結の体ってことはわかった。


「なんでそんなものがここにあるんだ?」


「さあ、わからない。でもこれは仲が良かったルカの子供が遠くに引っ越すときに私の分身だよって渡したものだから、ここにあっても不思議じゃない。」


なるほど、そういうことか。それにしてもこの鞭には一体どんな力があるのだろうか。


「これの力はまだ見せるときじゃない。然るべきときに。」


まるで心を読んだかの如く言う溺結。


「じゃあ用事も終わったことだし、二人のところに帰ろう。」


俺たちは蔵の外に出て、鍵をかける。


「そういえばこの鞭はどうしたらいいんだ?」


「これは……こう。」


溺結が胸に当てるポーズをする。


「ん?どういう…ってうわ!」


鞭が俺の体に吸い込まれていく。


「私から作られてるから、私の魂の中で保管ができる。いつでも取り出せるし便利。」


「今思ったけど、それをもう一回溺結の中に取り込めば呪力が回復するのでは?」


それなら今溺結が抱えている問題も解決する。


「いや、一度呪具になればもう他の形には変化しないからそれは無理。」


なんだ、期待して損したぜ。


「ただいまー。」


そうこうしている内に二人がいる部屋に戻ってきた。


「そうなんだよねー、だからこれがこうで……」


「うんうん、よくわかる。」


二人が仲が良さそうに話していた。

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