第七話 一次試験の突破から二次試験に向けて
王都のホテルの安宿で一晩を明かした後、朝飯を食べに1階の食堂に降りたら、宿屋の主人が近づいてきた。
「あんちゃん、これ。たった今、渡されてあんたに届けてだとよ。」
見れば手紙のようであった。宛先はラーザとなっておりそれ以外は何も書いていない。
「ああ、ありがとう。」
そう言って俺は食堂へ向かう。
朝からシチューを食べながら、その手紙を開けてみることにした。何やら術式が込められているらしく、目的の人物にしか開封できないようになっているようだ。その手紙には
『おめでとうございます!!あなたは王立アレス・アカデミアの入学試験、一次・筆記に見事合格いたしました。二次試験についての詳細を書いているのでよく読んでおくように。
日程 明日 場所 アトリテア国立公園 時 午前8時 持参物 自分が普段戦闘に使うもの
一次試験の突破者は34人でした。これらの中から、二次試験と一次試験の結果を足し合わせた成績で上位30位までが、来年から王立アレス・アカデミアに通う権利を有します。』
一応一次試験は突破したか。それにしてもあの会場には2000人ほど受験者がいたはずだが、一次試験の突破者は34人か。あの試験は本当に難しかったのだな。それにしても、俺に随分都合の良い条件だ。二次試験と一次試験療法の結果を足し合わせたものか。これなら二次試験は頑張らなくていいな。どうせ一次試験は満点だ。
「おじさん、ごちそうさま。おいしかったよ。」
俺は宿を出た。
さて、明日まで暇だが一体何をしようか。いや当然ここは実技試験に向けて、術式の練習に勤しむところだろうが、残念ながら俺の平均を大きく下回っている聖力だと、いくら術式の発動練習をしたところであまり変わらないだろう。つまり、真に練習すべきは【聖力変換】の魔法であり、それは【思考分割】と【思考加速】をしている状態の俺のもう一つの思考に任せておけばいい。ということでぶらぶらと貴族街をお散歩中ということである。貴族街で前回の旅行の時に俺が密かに見つけていた小さな公園で昼寝でもするか、と思いベンチで寝転がる。ちなみに寝るのは俺の1つの思考であり、もう一つの思考は今でも【聖力変換】の練習中である。
「おーーい、ラーザ君。」
と、そんな時に俺を呼ぶ声がする。なんだよせっかく人がまどろみに中でゆっくりしてたのに。てゆうか子の声どこかで聞いたことがある気がする。さてどこだったかな……
「おーい、聞こえてる?私だよ!アテナ。」
そうだった。アテナだった。俺に意識が唐突に覚醒を始める。
「やあ、こんなところで会うなんて奇遇だね。」
とりあえずこう言っておく。
「本当にそうだね〜。何やってるの?こんなところで、ここ貴族街だよ。」
「いやぁ、明日まで暇だから昼寝をしようとね。てゆうかあんたは明日の試験に向けて魔法の練習をしなくてもいいのか?」
と言ってもこの少女はおそらくそんなことしなくても上位30人には簡単に入れるだろう。
「いや私はいつも練習してるから、特別しなくてもいいんだよ。でも問題は君だよ?君はみたところあまり魔法に慣れてないんじゃないの?これは私の勝手な予測だけど。」
この少女は観察眼まであるというのか。すごいな。確かに人間領でいう魔法(魔族の中では術式)はあまり得意ではない、というかとてつもなく下手な部類だろう。
「まあ、俺は練習しとたころで変わらないからさ。だったら昼寝をする方が有意義だよ。」
「本当に自信家なんだね。」
「まあそうだな。」
「それ自分で言うことじゃないよ。」
そう言ってから2人で笑い合う。そういえば、こういうふうにして誰か同年代の人と笑い合うということはしてこなかった。ミトウワ村では1人で仕事をして、勉強をしていただけだからな。そんなことを考えていると、声が聞こえてきた。
「あれ、メーティス家の御令嬢じゃない?」
「え?、本当だ。やっぱり可愛いなぁ。」
「てゆうか、あの親しげに話してるあの人誰?」
「あんな子供貴族の中にいたかなぁ。」
「てゆうか、あの服って貴族が着るようなやつじゃないでしょ。それに本来胸ポケットにあるはずの貴族の家紋も見当たらないし。」
「えっ、つまりあの男は庶民のやつってこと?」
「そうなるね、それにしても許せないわ。アテナ様にあんなに無礼な真似働いて。」
だいたいこんな感じである。
「アテナってさ、有名人なんだ。」
俺が聞いてみる。
「うん、私がって言うよりお父さんとお母さんがね。」
さっきまでの明るい笑顔が嘘のように暗い顔をしなが答えてくれた。
「どんな仕事をしているんだ?」
「お父さんは政治家で、お母さんは学者なんだ。王直属の研究機関で、厳しい試験を突破しないと入れないんだって。所長らしいってことは聞いたことあるけど。」
なんと、ものすごいキャリアの家庭ではないか。
「へえ、すごいじゃん。俺の父さんなんて、ミトウワ村っていう田舎の木こりだぜ。どっちが爵位をもらったんだ?」
「え?」
いや、え?じゃないが。そんなことも知らないのか。
「だから、アテナには姓があるだろ。つまり爵位持ちってことだ。どっちがもらったんだ?」
「うーん、知らないなぁ。私そうゆうのには詳しくなくて。ごめんね。」
「ううん、俺が聞きたかっただけだから。」
「あっそういえばもうそろそろ魔法の練習の時間だわ。じゃあね。」
そう言って駆けていく。遠くなったところで、
「ラーザ君、私達って友達だよね?」
そう聞いてきた。いやまだ出会って2日目なんだがな。
「ああ、そうだなアテナ。」
そういうと、アテナの顔が一気に明るくなった。さて、なぜだかさっぱりだが。
「また明日、国立公園で!」
俺は叫んだ。
今日はあと一話ぐらいですねぇ