第百一話 小憎たらしいやつ
前回諸事情あって投稿できなかったので、今回2話投稿させていただきます。
「うおおお!」
結構デカい声援に後押しされる形で俺は舞台の中央まで進んでいく。
「この観客はどこから湧いてきたんだ……」
俺の同窓の皆さんや先生は俺から見て右のところに集団で座っている。アテナやウラノス、アリアも見える。そしてそこから少し開けたところから見えるのは鬼の皆様だ。子供も大人も老人もいる。一体どこから聞きつけてきたのやら。
「やあ、まさか君が対戦相手とは知らなかったよ。」
なるべく無視を決め込んでいたが、それもここまでのようだ。俺の目の前にいるのが俺が戦う鬼だろう。
「どうも。」
俺は一礼する。まあなんだ、これから戦う相手かもだけど礼儀って大事だからな。
「本当に、私は強いやつと戦えるって聞いたんだけどな。まさか君が人間の中で一番強いのか?」
妙にがっかりしたようにするシャーロットの姉。ピンクの髪は同じだが、髪は腰まで伸びているしどこか大人びたものがある。
「まずは名乗ってくれないか。名前も知らないんだ。」
「そうかそうか、私の名前はクラリス。まあ君の名前は知ってるし、別に言わなくてもいいよ。さ、こんなにめんどくさいことは終わらせてしまおう。」
そう言って自分だけ開始の位置に移動するクラリス。今この時点で俺のこいつへの印象は定まった。-小生意気なやつ-
「わかった、じゃあ始めよう。」
俺も自分の開始地点へ歩を進める。
「さあ、両者準備はできたようです。まもなく決戦の火蓋が落とされます。」
俺は自分の位置についてそっと目を閉じる。
「さあ、5秒のカウントダウンの後始まります。皆様、ご一緒に!」
俺は魂に呼びかける。魂はそれに反応するようにとある魔法を行使し始める。これは魔力器官を必要としないものだ。
「5、4、3」
俺の魔力は魔法に導かれるまま目に移動し、目に『刻んである』魔法陣に吸い込まれる。そして魔法陣の魔法が発動する。
「2、1」
この魔法は発動までに少し時間がかかるからな。まだ目を開けることはできない。
「開始です!」
その声と同時に俺は目を開ける。そして目の前に広がっていたのは……
「何目を閉じてんだー!」
クラリスが魔法で作り出した5つの青炎の龍だただった。。魔法の名前を叫ばずに、魔法陣のみでの行使。つまり始まる前から準備していたのだろう。
「でもな……知ってんだよ。」
俺は一見すれば逃げ場のないような攻撃。しかし、俺はこの龍の動き方や威力などをすべて『知っている』。
「おおお!」
俺は自動追尾してくる5体の龍がちょうど一点で交わるように動くことですべてを相殺する。クラリスの操作により、追尾性能も速さも違った龍を一点で交わらせるという迎撃手段を取った俺に会場も大盛りあがりだ。
「ぐ、偶然だ!今度はそうは行かない。【水神招来】」
今度は18本の水の柱か。それにしても本当にとんでもない奴だな。同時に18も魔法を使えるなんで。
「でも、当たらなきゃなぁ。」
俺は魔法陣が見え始める前から、すでに動いている。18本の水柱をすべて避けられる位置に。
「どういうことだ!なんで分かる……普通中距離の魔法の打ち合いは、相手の魔法をガードしながら魔法を打ち合うのが定石だ。なのに……どうやって。」
あいつも相当に苛ついているな。自分が思ったように事が進まなければ苛つくのは人間も鬼も一緒か。
「まあまあ。シャーロットから聞いていただろう。俺は聖力が少ないのだと。だから中距離戦なら打ち合いに勝てると踏んだのだろうが、お前の魔法が見当違いのところに飛んでるせいで俺はまだ無傷だぜ。」
戦闘中はこういう言葉が結構効いたりする。
「な、な……私を侮辱したな!人間のくせに…弱いくせに……」
何だあいつ、煽り耐性皆無かよ。
「人間だから弱いってわけじゃないと思うぜ。ほら、悔しかったらこっちに来たらどうだ?攻撃が当てやすい近距離に。」
「く、望み通り近づいてやるよ!覚悟しろよ。」
クラリスは【身体強化】を体にまといこちらに近づいてくる。いや、普通に速すぎだろ。気付いたらすぐそこまでいるのだが……
「【エンハンス】」
俺も身体強化術式で対抗する。と言ってもまだ発動はせず、適切なときに発動するのだが。
「おりゃあ!」
まずは一発、その他の魔法を発動させずに来る。俺もその手を弾くように拳を合わせる。
バチィィン
とんでもない衝撃だ。なんか強い魔法でも起こったかのような爆音だが。ただ拳を合わせただけだ。俺の手弾かれ大きくのけぞってしまうが、それはクラリスも一緒だ。
「って、判断もすごいな。」
おそらくあいつはまだ冷静だ。力が拮抗しているわかった瞬間に素早く場所を移動させている。周りで起こっている砂煙でよく判断がしにくい。
「でも……わかるぜ。」
あいつの身体強化はきちんと隠匿魔法もかけられている。おそらくこの砂煙を利用すること思いついてのものだろう。
「俺が見えないと思うなよ。」
俺は隠匿魔法がかけられていることを『知っている』ので、その魔法の魔力を追うことであいつの位置は正確につかめる。
「来るな。」
俺が向いている正面からクラリスが出てくる。今度は一撃の重みではなく、数で勝負してくるようだ。
「す、すげぇ!」
観客からそんな声が聞こえてくる。まあそうだろう。今繰り広げられているのは、様々な属性が近距離で乱れ合う大合戦だ。各々拳に属性を乗せることで相手の属性が乗った拳を受け続ける。
ガキィィン
とても殴り合いとは思えない音が出た後、一旦距離を取る。結構激しい殴り合いだったが、両者息は上がっていない。
「まさか、君がここまで強いとは。思いもしなかったよ。」
「ああ、そうだろう。」
俺たちはそれを交わした後、もう一度距離を詰め始める。