第百話 成果
その後は、つつがなく日々が過ぎていった。俺も着実にシャーロット匂いついていっているという印象を受ける。今日はもう夕方なので、解散ということになっている。
「もう2日だけだね……」
「ああ、そうだな。明日は自由う行動だったか。どうする?」
明日は各自自由に観光をしても良いとされている日だ。そしてその次の日がついに成果のお披露目会となる。
「うん……特にラーザに予定がないならいっしょに回る?私なら……多分案内できる。」
ここ最近はシャーロットの言葉の量も増えてきて、嬉しい限りだ。それに街を案内してもらえるならこちらとしても好都合だな。
「ああ、じゃあよろしく。そうだな、明日いつも場所でいつもの時間でいいな?」
「うん……それでいい。じゃあ、また明日。
「ああ。また明日な。」
俺たちはそこで別れる。
「……」
溺結がなにか言いたいことがあるようにこちらを見つめてくる。
「最近どうしたんだ?」
そう、これは今に始まったことではない。ここ最近ずっとなのだ。
「なんでもない。」
「そうか、ならいいんだが。」
まあ別に本人が言わないのであれば気にする必要はない。
「明日が楽しみだな。」
俺は期待で胸を膨らませながら歩いていく。
「はあ、どうしてこうなった……」
2日後、俺は盛大に溜息を付きながら溺結と一緒に机に座っている。
「さあ。」
しかも溺結はこの状況を楽しんでいるのがなおいけない。
「まあやるからには全力で行くけどさぁ。」
「シャア」
今俺達がいる場所は闘技場の控室だ。
-数時間前-
「みんな、今日までよく頑張ってきた。」
朝の時間にここに集められて、ルイス先生が話を始める。
「そして、今日この場所で鬼人領のみなさんが闘技の大会を開くらしい。そこでだ、エキシビションとして、人間からも一人でてもらい、鬼人の代表を戦ってもらいたい、ということらしい。みんなの成果を見ることはできないが、それは帰ってからでもできる。それ故にこの申し出を受けたいのだが、どうだろうか。」
まあ別に俺が出るわけでもなさそうだし、なんでもいいか。大方、アリアかウラノスあたりになるだろうし。
「では、だれか我こそはという人はいないか?」
それだと一生決まらないだろ。みんなそういうのは行きたくないだろうし。
「じゃあ仕方がない。こちらで予め決めていた人に行ってもらおうと思う。」
ふむ、きちんと決めていたか。まあアリアかウラノスだろう。
「ラーザくん、どうかな?」
ルイス先生がこちらを見る。
「は?」
俺は一瞬何が言われたのか理解できなかった。
-現在-
「はあ、いやムリだろ。相手は鬼だぞ。それに腕に相当の覚えがあるやつだって言ってたし。どうすんだ?」
俺がなにか呻いていると、
「ラーザ、大丈夫?」
シャーロットが入ってきた。急いでアルケニーを隠す。
「ま、まあ。不安かって聞かれたら不安だけど。」
「そうだよね……相手のことは知ってるの?」
「いや、知らないけど。シャーロットは知ってるのか?」
「うん…私のお姉ちゃん。」
え、あのちょっと前にシャーロットの家で見たあの傲慢そうな娘か?嘘だろ。
「それは本気?」
「本気。さっき聞いてきた。」
「じゃあ負けられないな。」
「うん、絶対勝って。」
「私ここには勝手に入って来てるからもう戻るね。」
「おう、じゃあな。」
シャーロットが出ていった後に、
「はあ。」
もう一度大きくため息をつく。
「私も勝ってほしい。なんかあいつ気に食わない。」
「シャア!」
アルケニーと溺結から激励の言葉?が来る。
「ああ!もうわかったよ。やるからには勝つわ!それでいいだろ?」
「いいけど。突然どうしたの?」
驚いた顔で見つめてくる。
「だってお前らにもシャーロットもにもそんなに言われたらやるしかないだろ。でもな、やるからには全力だぞ。」
先程にも言った言葉を、今度は本気の覚悟で紡ぐ。
「でも、私は手伝わないよ?」
「当然だろ。俺だけで行く。」
「でも武器は?まさか素手で行くの?」
う……それもそうだ。まあそれは頑張って決めよう。
「すみませんが、こちらいらっしゃるのはラーザさんで間違えないか?」
入り口から声が聞こえてきたどこか聞き覚えのあるやつだな。
「そうですけど……どなたですか?」
「覚えているか?私だよ。」
そう言って姿をあ表したのは、
「ああ!魔剣屋の。」
初日に訪れた魔剣屋の店主だ。手には一振りの魔剣が握られている。
「えと、どうしたんですか?」
「まあなんだ。聞くところによると、私の店を訪れた人間が鬼と戦うらしいじゃないか。そこでだ、あんた前言ってただろう。新しい武器がほしいって。だから持ってきてやったんだ。。あんたに最もお似合いのやつをね。」
渡されたのは、
「これは……」
鏡面剣エスケープ、白く半透明な剣だ。
「こいつは魔剣だから、人間のあんたには使えないかもしれないが、一回分は私の魔力を装填してある。その一回を見極めろ。」
そして、この場を去る店主。いや待ってくれ。まだ聞きたいことが山程……
「もういないし。」
仕方ないので、エスケープを見つめる。
「確かに魔力が一回分だけは装填されているな。これをうまく使うか。」
「そうだね…ますます勝たないといけないよ。」
「シャア!」
俺はもう一度心のなかで覚悟を決める。そしてその瞬間、
「さあ、次にお呼びするのはこの男!人間代表、ラーザ!」
「呼ばれたな。じゃ、行ってきます。」
アルケニーと溺結はここに残るらしい。
「頑張ってね。」
「シャア!」
俺は二人の声援を背中に、会場へと歩を進める。