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第九十九話 化け犬

「えっ、犬が…喋った…」


シャーロットが面食らったようにつぶやく。そりゃあまあびっくりするだろう。俺も動物型の怨霊を見るのは初めてだ。と言っても怨霊自体溺結しか見たことがなかったが。


「まあそうだな。俺は呪力が見えるからな。と言ってもみんな見えるには見えるが。」


「現二呪力ノコトヲ知ッテイル者ハイナイトイワレタガ……ナニモノダ。」


「なあ、あいつってお前のこと見えてるの?」


「多分見えてると思うけど、普通の人間だと思ってる。今は地面に接地してるし、私は呪力が殆どないから。」


そういうことか。なら都合がいい。


「それ、誰に言われたんだ?」


「イエルワケガナイ。」


「じゃあ、お前の目的はなんだ?」


「イウワケガナイ。」


はあ、この調子だと何も引き出せそうにないな。


「じゃあ、とりあえず帰ってくんね?なんかお前危険そうだし。」


「ムリダ。ワレニモモクテキガ……アル。」


予想できる答えだ。


「そうか。帰ってほしい俺と帰りたくないお前。意見が対立したな。じゃあ、まあ仕方ないよな。」


「ナンダ?」


「お前が死んでも。」


おれはそこら辺に落ちてた木の棒を持って突撃する。大丈夫だきちんと聖力は込めてあるから硬い。


「フン…小童ガ……ワレニイドムカ…」


「ラーザ!危ない!」


溺結が叫ぶ。わかってる。あいつの呪力が膨れ上がっている。


「ヴァアアア!」


みるみるうちに膨れ上がっていき、大きさは4倍ほどになった。顔には禍々しい文様が刻まれている。


「正体を見せたな。」


溺結の話によれば、実体化された怨霊は物理的に殺せるらしい。あんなちょっとでかい犬程度なら……


「うわッ、びっくりした。」


その巨体からは信じらっれない速さで突撃された。いや、普通に危なかった。


「コレヲヨケルカ……」


犬……化け犬は牙をむき出しながら再度来る。うん、これ木の棒じゃだめだわ。


「はっ!」


俺は木の棒を捨てて肉弾戦に持ち込む。


「ラーザ、そいつの牙に噛まれないように。そしたら呪われる。」


怨霊が呪うには一定の条件を満たす必要があるらしい。こいつならば牙で噛むか。


「コシャクナ…」


段々とあの犬も苛立ってきたらしい。しかしまずいな。苛立ってくればあいつの動力源である呪力がさらに増えるではないか。


「シャーロット、手伝ってくれ。流石に分が悪い。魔法で後方支援を頼む!」


さっきから何も言葉を発してないシャーロットに声をかける。


「あっ、うん。でも…ラーザに当たっちゃうかも。」


「大丈夫だ!俺はお前を信頼してるし、万が一でも俺なら避けられる。」


まあ避ける自信あらあるが、周りに被害が出るかもしれない。それは黙っておこう。


「わかった。【雷神招来】」


コントロールがしやすい招来か。これなら俺も避けやすい。


「フン、ソンナモノアタラナイ。」


こいつもまあ魔法陣同士を結ぶ一直線の雷には当たらないだろう。


「もっとだ。こいつの行き場をなくすように頼む。」


「わかった。【雷神・炎神・風神・水神-招来】」


一気に基本属性すべての上位魔法を発動か。しかもそれぞれ2つずつはある。俺もあいつも相当行き場がなくなったな。


「ソレデハキサマモウゴケマイ……」


「今だ!【エクスプロード・アロー】」


俺は爆裂属性の術式を発動する。こいつは完全に俺のことを魔法や術式を使えないと思っている。これは刺さるだろう。


「! ナンダト…」


「もう遅い。俺の勝だ。」


矢が着弾し、爆発する。威力は抑えめにしておいたが、直撃ではまず助からまい。


「やった?」


溺結が来る。待って、それは完全にやれてないやつの定型文……


「ヤラレタナ……ココハイチジヒクトシヨウ。」


煙の中から声がする。やはりそうか。


「逃がすと思うか?」


「ニゲラレルノダ。マタイツカアオウゾ。ツヨキ現のモノヨ。」


煙が引いて姿が見えたのはボロボロになった化け犬だが、俺の想像と違うところは足元に黒く大きい影があるところだ。


「!!ラーザ、逃さないで!」


「ザンネンダッタナ……」


化け犬がそうつぶやくと黒い影が化け犬を包み始めた。


「なんだ?」


そして次の瞬間には、


「いない!?」


いなくなっていた。


「どういうことだ?」


「今のは呪層と現を行き来するための呪具を使ったのだと思う。これなら消耗しててもすぐに帰れるから。でも一回しか使えないし、すごく貴重なもの……あいつの上司はおそらく……」


そのまま黙ってしまう。まあいい。それより今はシャーロットだ。


「大丈夫か?」


「うん、それより今のは……」


不安そうにこちらを見上げてくる。


「ああ。後で説明する。まずは爆発で抉れた土を戻さないとな。」


先ほど化け犬がいた場所の土が抉れてしまっている。一応警戒しながら掃除するか。


「……そうだね。」


俺とシャーロットは共同で作業を始めた。  






「知らなかった……そんな事があるの?」


俺はいまシャーロットに怨霊についてと呪層についての簡単な話を済ませたところだ。


「ああ。俺も少し前までは疑ってたが、事実らしい。ただ、今回あったことは人間領の機密事項に触れる可能性があるから、口外禁止で頼む。」


「うん……わかった。」


よし、これで一件落着だな。


「っと、もうこんな時間だ。そろそろ帰るわ。ご両親にも伝えといてくれ。」


俺は玄関に向かう。


「わかった。見送りは?」


「玄関まで頼む。道順は覚えてるから。」


その後玄関について靴を履く。


「じゃ、また明日。」


「ああ、元気でな。」


俺はシャーロットの家を後にする。今思えば相当濃いものだったな。


「なあ溺結?あの犬の上司が云々言ってたけど、誰なんだ?」


ずっと考え事をしている横で聞く。


「……うん、あれの上司は間違いなく予想はついたよ。目的は知れないけど。」


「へえ、お前の知ってるやつ?」


「話したことはある。多分今も変わらないだろうね。あいつは。」


「で、結局誰なんだよ。」


「………」


それっきり溺結が喋ることはなかった。

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