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第九十七話 シャーロットの家

「今日も、私の勝ち。」


誇らしげな表情で俺の目の前に立っているシャーロット。俺は自分が使える聖力を使い果たし両手を上げている。


「今日は惜しかったと思うんだけどなぁ。」


実際今日のシャーロットは前回よりも息が上がっている。


「ん、成長できてる。」


そう行って俺と自身に治癒魔法をかけるシャーロット。体の痛みが引いていく。


「ありがとな。今日は何する?」


今日もこれから何をするかを決めなくてはならない。


「………家に来る?」


「ん、どういうことだ?」


家って、誰の家だろうか。


「私の家……お母さんとかお父さんもいるけど。来てほしい。」


なんと、シャーロットの家に招待されているのか。


「いいのか?」


「うん……昨日家に帰ってお母さんとかとも話した……ラーザに是非来て欲しいって。」


家で俺の話題が出たのか。一体どういう風に紹介したのだろうか。


「わかった。じゃあ行こう。ここから遠いのか?」


「ううん、近い。ついてきて。」


そう言って歩き出すシャーロット。広場を出て、少し言った先の建物の前で停止した。


「ここ。ちょっと待ってて。」


そう行って中に入っていくシャーロット。建物は古民家風と言った雰囲気だ。木造で、庭には松の木が植えられている。鬼人特有の建築様式である『和』というものらしい。ちらりと覗くと、藺草を原料とした畳や紙でできた大きな扉で部屋を仕切る襖というのが見える。最近では鬼の中でもこの建築様式を使うことは少ないらしいが、シャーロットの家は使っているらしい。



「……」


「どうした、溺結?」


溺結がなにか奥をを気にするように見ている。どうしたのだろう。


「いや、なんでもない。」


まあなんでもないなら別にいいか。緊急のことでもないようだしな。


「ラーザ、入って。」


そう言って中に通される。玄関の床は土になっており、そこで靴を脱いで上がる。


「お邪魔します。」


木で出来た床をの上をシャーロットを追いかけながら進んでいくと、客間のようなところに通された。


「いらっしゃい。」


中にいたのはおそらくシャーロットのお父さんとお母さんだろう。白髪混じりの頭と着ている服が内装とよく合っている。


「……座って。」


そう言ってシャーロットに指さされたのは平べったいこんもりとした何かだ。


「あの……ああ。そういうことか。」


確かこれは中に綿などを詰めて座りやすくした座布団というものだったか。よく見ればお父さんやお母さんの尻にも敷かれている。


「では、お邪魔して。」


俺は座ってみる。意外と座り心地がいい。


「娘から聞いているよ。人間の学生さんだよね。」


「ええ、まあ。それにしてもその節はお世話になっております。」


魂をよく観察してみればこの男、強い。流石に全盛期は過ぎて衰えているが、それでも魔力量は多い。


「そんなに謙遜しなくてもいい。君はシャーロットお墨付きの実力の持ち主だそうじゃないか。」


笑いながら話してくるお父さん。家で俺のことを褒めてくれているのか。なんだか嬉しいな。


「いえいえ、僕はまだまだですから。」


「いや、君の所作一つ一つに自信があるように見える。わかるよ。」


このような実力者から言われるとお世辞であっても嬉しく感じてしまう。


「そうだな、まあ茶でも飲んでゆっくりしようじゃないか。おい、茶を淹れてくれるか?」


「わかりました。では、行ってきますね。」


「ああ、俺には酒でいいぞ。」


出ていった後に大声でそう付け足す。お母さんの方とは一度も話さないままになっってしまった。


「それで、人間領というのはここに比べてどうだい?やはり噂に聞くように都会なのかい?」


どうやら人間領のことに興味津々のようだ。まあ隠すことでもないし話してもいいか。


「それはまあ、そうですね。僕が住んでる王都はすごく都会ですよ。人間領中から物と人が集まりますから。」


「そうだよなあ。人間領に入ったことがないからなぁ。おいシャーロット、お前は他の人間も見てきたんだろう?どうだ、みんなこの子みたいにしっかりしてたか?」


「…わかんない。私は話してないし……余り見えなかったから。」


そのまま口籠るが、


「でも……ラーザの他に3人いた。強そうな人。」


「へえ、3人ねえ。心当たりはあるかい?」


ここで俺に振ってくるのか。


「はい、まあ。すごい奴らは一定数いますよ。」


「そうか。まあこれからも娘と仲良くしてやってくれ。」


カッカッカと笑うお父さん。いい笑いっぷりだ。


「お茶ができました。それと、お酒も。」


お母さんが入ってくる。盆の上には4つの器と急須という茶が入っている器、後酒の瓶が乗っている。


「どうぞ。」


そう言われて俺の目の前に薄緑の液体が注がれる。湯気が白い。


「ありがとうございます。では、いただきます。」


俺は器を持って飲んでみる。


「おお。美味しい。」


今までには飲んだことのないものだが、苦味がいい味を出している。


「そうだろう。人間領にはないものだからな。」


お荷揚げを持ち帰るとすればこれがいいだろうか。と、そんな事を考えていると


バンッ


俺の後ろの障子が開いた。しかも結構勢いよく。


「お父さん。だれ、これ?」


振り向けばシャーロットとよく似た少女が立っている。髪も身長も長めだが。


「お客様に向かって失礼だろう。」


お父さんが反応する。まあたしかにそうだ。


「はあ?なんで私がこんな弱っちいやつに気を使わなきゃいけないわけ?」


おいおい、今の発言は良くないだろう。流石に許容範囲外だと思うが。


「お前、少しは……」


「何?礼儀って訳解んない。」


「おい!いい加減にしろ!」


ついに怒り出したぞ。大丈夫か?


「はあ、もういい。」


そう言ってそそくさと出ていくおそらく姉であろう人物。


「……」


沈黙がその場を支配している。


「…ごめん。」


それを破ったのはシャーロットだ。


「いや、シャーロットが謝ることじゃない。今のはお姉さんだろ?」


「うん、そうだけど…」


「こちらからも謝らせてもらう。申し訳ない。娘が。」


深々と頭を下げられる。


「いえいえ、別に大丈夫です。まあそんな事はいいじゃないですか。もっと聞きたいことがたくさんなります。」


俺は話題を転換する。


「ああ、そうだな。気を取り直そう。」


なんとか場の雰囲気は回復したと思われる。

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