第九十六話 親交
「もう終わり?まだまだ行けると思うけど。」
シャーロットが首を傾げて聞いてくる。
「まあな。こっちにも事情があるんだ。そんなに大層なものじゃないけど。」
俺たちは少し離れたところにあるベンチに腰掛ける。近くのものはすべてボロボロになってしまっているからな。
「どうして終わったの?あそこからが面白いところなのに。」
いや本当に思うけど、この子は相当な戦闘好きだな。こんなに内気そうな見た目なのに。
「それは……俺の聖力がなくなったからだな。」
「……?どういうこと?」
キョトンとした顔をするシャーロット。
「そのまんまだよ。聖力がなくなったから、戦闘ができなくなったんだ。」
「確かに私達鬼に比べて人間は聖力が少ないとは聞いていたけど、流石にそこまでとは思ってなかった。」
「いやいや、そういうことじゃないよ。」
なにか勘違いをしていそうなので、訂正しておく。
「俺が特別聖力が少ないってだけで、他の人は俺の何人分も持ってるから。」
「そう。……ごめん。」
「??どうして謝るんだ?」
「だって…その触れちゃいけないところに触れたかなって……。」
後半は殆ど声がかすれていてよく聞こえなかったが、まあ大体のニュアンスは伝わった。
「大丈夫だよ。俺はそれについて何にも気にしてないし。それにしても、シャーロットは強いな。全く敵わなかった。」
これ以上この話題で話すこともないので、新しい話題をふる。
「うん……私は……同年代のみんなと比べても強い自信、ある。」
そりゃあそうだろうな。他の人が屈強そうな鬼に見てもらってるなか、俺がこの子だからな。それ相応の実力の持ち主なんだろう。
「でも、ラーザすごく強い。人間なのに魔法ともきちんと戦えてたし、不意をつく動きが上手で、一本取られた。」
やはり戦闘のことになると饒舌になるな。
「君のそう言わせただけマシかな。それで、どうだった?俺と戦闘して。」
「そう……基本的な動きはすごくしっかりしていると思う。それに、術式の聖力効率もすごい。ラーザが鬼だって言われても違和感ない。」
随分と俺のことを高く評価してくれるな。嬉しい限りだ。それに術式の聖力効率について言及されるとは意外だった。中々効率なんて気づかないからな。
「それはありがとうな。正直俺も自分の聖力量以外の事は殆ど完璧に近いんじゃないかなと思っているんだよな。」
「うん、多分大丈夫。私…教えられそうなこと…ない。」
「じゃあさ、シャーロットのいろんなこと教えてくれよ。どんな生活なのかとか、趣味とかさ。」
今日はそんなに急がなくてもいいだろう。お互いのことをよく知ればそれだけ色々なところにも気付けるからな。
「うん……その代わり、ラーザのことも教えて?」
こちらを見上げてくるシャーロット。どうやら向こうもこちらのことを悪く思ってはいないらしい。それは良かった。
「じゃあ、まずはシャーロットの話を聞こうかな。」
「わかった。じゃあまずは……」
シャーロットが話を始めた。
あれから色々な話を聞いた。家族のこと、周りの鬼人のこと。どれも楽しそうに話してくれた。しかし、ある一つの話題に時に少し顔に陰が落ちる。
「兄弟とかはいるのか?」
「兄弟……お姉ちゃんが一人。」
なんだか雰囲気が暗くなったな。話題に出したくないのか。
「お姉ちゃんね。やっぱりシャーロットみたいに強いのか?」
「お姉ちゃんは……強い。私より2個上なんだけど、私以上に強い。魔力の量も、身体能力もすごい。」
シャーロットがべた褒めするなんてそんなに強いのだろうか。それにしてもシャーロットの二歳上か。シャーロットは先程9歳と言っていたから、だいたい俺と同じ年齢か。
「お姉ちゃんは今回の人間のやつには参加してないのか?」
「うん……お姉ちゃんは参加しないって。多分、今家で遊んでる。」
「じゃあ今日は一緒に遊べてないのか。早く帰って一緒に遊びたいな。」
姉妹なのだ。それに今は一緒に遊びたい年頃だろう。
「ううん、別にいいよ。一緒には遊ばないから。」
「え?どういうことだ。仲が悪いのか?」
8歳と11歳の姉妹が一緒に遊ばないってそれは珍しいな。
「昔は仲が良かった。いつも一緒に遊んでたのに……」
途中からかすれてよく聞き取れなくなる。
「まあなんだ、言いたくなければ言わなくてもいいよ。」
なんだかこの話題を続けるのはいけない気がする。
「そうだな、じゃあ、シャーロットの好きな食べ物を教えてくれよ。」
俺は強引にでも話題を展開する。
「う、うん。ええとね。リンゴのケーキとかかな?」
少女の顔に笑みが浮かぶ。自分が好きなものを考えるのは楽しいことだからな。
「そっか、俺も好きだぜ。リンゴ。」
「ねえラーザ、戻らなくてもいいの?」
俺の隣で浮いていた溺結が話しかけてくる。ふと時計を確認すればもう帰りの時間が迫ってきている。
「シャーロット、もう時間だ。今日はここで解散だな。」
闘技場に帰るのではなく、直接公民館に帰ってくるように言われている。ここでお別れだ。
「うん、帰り道、わかる?」
「一階通った道は覚えてるんだ。大丈夫。ありがとな。」
俺たちは一緒に広場を出る。管理人さんはもう帰っていた。
「じゃあ、また明日もよろしくな!」
「うん、ラーザも。」
俺が帰路についても、見えなくなる直前まで小さな手を振っていた。
「可愛かったね、あの子。」
「そうだな。そしてめちゃくちゃ強かった。」
「お姉ちゃんのことは気になるけど、初日としてはいい感じじゃない?」
「そうだな。まあ悪い感じはしなかった。」
俺と溺結は並んで歩き続けた。
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