第九十五話 特訓開始
次の日俺たちは鬼人領にある闘技場に来ていた。
「みんなにはこれから特訓をしてもらう。鬼人の中でも腕すぐりの強者達に来てもらっている。」
ルイス先生が説明していると、奥から鬼人のみなさんが出てきた。30人ほどだろう。
「一対一の個人指導だ。じゃあみんな、相手を見つけて始めてくれ。」
正直俺は誰に教えられてもいいから余ったのでいいか。そう思って見ていると、みんなすぐに相手を見つけたらしい。
「お願いします!」
そんな声がたくさん聞こえてくる。さてさて俺は一体誰なんだろうな。
「あ、あのっ!」
声がしたため振り返ればそこにはピンク色の髪をした1人の女の子が立っていた。何やら恥ずかしそうに俯いているがどうしたのだろうか。
「えっと、君が俺の特訓相手ってことでいいんだよな?」
まさかとは思うが、この女の子がそうなのか?
「えっと、そう……です。」
もう本当に聞き取りづらい。今にも消え入りそうな声で話してくる。
「わかった。じゃあ、まずは自己紹介だな。俺はラーザだ。よろしく。」
「えっ……あの…シャーロット・サンチェスです。よろしくお願いします。」
うむ、おそらく今シャーロットと言ったのだろう。
「よろしくな、シャーロット。じゃあまずは何をするんだ?」
この闘技場は広いが、それでも30組いたら場所も限られてくる。できることも少ないだろう。
「まずは……ここを出ます。狭い…です。」
まあそれが得策だろう。別に出てはいけないと言われている訳ではないからな。
「じゃあ行こうぜ。」
俺はシャーロットを連れて出る。いやはやどんな屈強な鬼に特訓させられると思っていたが、まさかこんな内気な少女だとは思いもよらなかった。
「ここ……いい。」
闘技場を出た後はシャーロットに連れられて大きな広場に着いた。柵に囲まれている。
「おお!シャーロットちゃん。どうしたんだい?」
管理人だろう。門の前にいたおじさんが話しかける。
「今日から人間の特訓。貸して欲しい。」
なんだ。ちゃんと話せるじゃないか。ちょっと口下手なところはあるが。
「そういえば今日だったか。わかった。約束通り貸してあげよう。」
事前に借り受けるように頼んでおいたのか。準備がいいな。
「別に日々利用者がいる訳じゃない。中が荒れても一向に構わんからね。」
「ん……ありがとうございます。」
お辞儀をして中に入るシャーロット。
「…こっちきて。」
手招きをされたので俺の中に入る。
「お邪魔します。」
管理人さんに挨拶はしておこう。これから貸していただくのだからな。
「まあ、頑張りなさいな。」
優しい笑顔で送り出してくれる。
「ここでいい。」
さらに奥、広場の中央あたりだな。
「まずは何をするんだ?」
「本気で……戦う。そうすればお互いのことが…よくわかる。」
そう言って右手に小柄な杖を握るシャーロット。相当強い魔法が込められている。
「魔力か。久々だな。」
シャーロットは魔力を使う鬼だ。久々に魔力との戦闘だ。
「準備はいい?」
随分と好戦的な顔をする。戦闘が好きなのか?
「いいぜ。」
「じゃあ、始め。」
そう言った瞬間だった。
「!!」
俺は地面から魔力の流れを感じて、咄嗟に後ろへ飛び退く。その直後、
ドガーーン
俺がいた場所に雷が降り注ぐ。いや、殺す気かよ。
「すごい、絶対に避けられないと思った。」
上を見上げれば先の雷の魔法陣が消えていくところだった。ちなみにこの魔法はおそらく【雷神招来】。地面と上空に二つの魔法陣を描き、それをつなぐように雷が出てくる、というものだ。
「【水神龍突】」
シャーロットの前に魔法陣が描かれる。おいちょっと待て。龍突は聞いていない。
ゴゴゴゴゴ……グリャアア!
魔法陣から水の龍が出てくる。龍と言っても爆氷龍ニブルヘイムのような龍ではなく、伝説上の細長い龍だ。
「うおっ」
俺は間一髪のところでかわすが、龍突は一度かわしても使用者が魔力を注ぎ続ける限り延々と追ってくる。
「かわすだけじゃダメだよ。」
「わかってるよ!」
しかし今後のことを考えれば今ここで聖力を大量消費して打ち消すの勿体無い。
「【フレイム・フィスト】」
俺は炎尾属性中位の術式を発動する。炎が俺の右手を包み込む。
「うおりゃああああ!」
俺はそのまま龍に突っ込む。大丈夫のはず。水と炎は相反する属性だ。それに龍突の威力って見た目の割に大したことない。それでも避けても無限に追ってくるというのは危険なものだが。
「うおおおお!」
俺の右手の炎と水龍が激突する。同時に右手にとんでもない圧力がかかるが、銀の指輪の効果でなんとかまだ耐えられる。
ブオォオン
水龍が消えた。俺の右手の炎も消えている。なんとか相殺できたのだろう。
「すごい。確かに龍突は威力が低くなりがちだから、中位でも相殺できるかもしれないけど、それをその身を持ってするなんて。」
やはり戦闘の事になると口が動くな。そういう性格なんだろう。
「ありがとな。じゃあ、反撃だ!【ヘル・フィスト】【エンハンス】!」
俺は身体強化と青い炎を作り出す。そして、
「受け止めろー!」
シャーロットを全力で殴りにいく。なんだ、別に女の子を殴りたいのではなく、これは勝負だからな。大丈夫だ。
「【超結界-炎・撃-】」
シャーロットは結界を作り出す。炎と物理に強い結界だ。
「【ストーム・キャノン】!」
この拳は完全にブラフだ。結界は一方に強くすれば、他方に弱くなる。つまり、炎に強くした結界なら、他属性をぶつければいい。実際殆ど身体は強化れてなかったし、青い炎も見かけだけだ。
「!!」
感情が少ないシャーロットも流石に驚いたらしい。しかし、もう間に合わない。俺の残りに全聖力を注ぎ込んだ暴風は、結界を破りシャーロットに襲い掛かる。
「……よく見えねえな。」
砂埃が舞っている。上位術式を食らったのだ。流石に戦闘の続行は不可能な傷は入ったと思うが。
「!!」
しかし、俺の読みは甘かった。煙の奥に立っていたのはシャーロットだ。服は所々破れていたり、汚れていたりしているし。腕からは血も流れているが、戦闘は続けられそうだ。
「すごい。」
そう一言呟く。まあ彼女にそれを言わせただけいいとするか。
「降参だよ。流石に無理だ。」
俺は両手を上げた。
前回はすみません。色々と用事が重なっておりました。今週からは投稿しますので、今後とも宜しくお願いします。