第九十四話 夕餉、戦いの記憶
「いただきます!」
俺たちは宿として使っている公民館で夕飯を食べていた。大きな鍋だ。肉も野菜もスープの量も桁違いで、最初は少し引いてしまったが、食べ始めればスイスイ食べられる。育ち盛りだからな。
「おいしいね。」
「ああ、塩味がいい加減だ。」
俺たちはみんなで鍋を囲みながら自由に具材を取っていく。
「おいしそう。」
溺結が恨めしそうにつぶやく。実体がないその体では飯は食べられない。実体を出せば食べられるらしいが。
「ご飯、おかわりお願いします。」
俺はボランティアとして来てもらっている地域の鬼人の皆さんのところに行ってご飯をよそってもらう。
「はいはい、たくさん食べてくださいね。」
俺がご飯をもらって元の席に戻ろうとすると、
「あなたのその髪の色とか目の色って、もともとそうなの?」
質問が飛んできた。
「は、はい。そうですけど。」
まあそう答えるしかない。
「ふふふ、なんだかその姿って、おじいちゃんから聞いた魔族の魔帝みたいだなって思うの。」
俺はぎくりとした。なんだ、魔帝のことを知っているのか。
「なんてね。さあ、楽しんできて。」
そう言われるとその場を去るしかない。俺は冷や汗をかきながら元の場所に戻る。
「何を話してきたの?」
「いや、ちょっとな。」
考えられるのは、鬼人と人間の寿命の差だろうか。鬼人は平均寿命だけでも300年ほどある。当然もっと長寿のやつもいるだろう。人間と違い、四大魔族という名前だけが受け継がれたのではなく、その姿までもがいまだ受け継がれているのということなのだろう。
「まあ気にすることじゃない。まだまだあるんだから、食べようぜ。」
俺は鍋に手を伸ばした。
その夜、俺は一人で夜風に当たっていた。周りに自然がいっぱいあって、人間領の王都とは大違いだ。
「ねえねえ、なんで今日の昼のお店であの剣を売ったのが魔将だってわかったの?」
嘘、一人ではなく溺結も一緒だ。
「それはな、あの剣はもともと俺の剣だったんだよ。」
俺は昔話を始める。
『いやー、着いたな。』
俺と魔将は今大きな扉の前に立っている。ここはダンジョン『夢幻迷宮』の最下層だ。ここに来るまでに1200の大部屋をくぐり抜けてきた。約2週間の旅にも終止符を打つことになる。
『そう思うと寂しくなるかな。』
『そうだな。久々にお前と戦えて楽しかったぜ。』
俺たちは扉をちょこんと押す。それだけで大扉は開き、中が見えるようになる。
『よっしゃー、いくぞー!」
勢いよく飛び出したのは魔将だ。少しは注意してくれ。
『はあ、』
仕方なく俺も飛び出す。どんな魔獣でも負ける気はしないが、それでも少しは気を引き締めておかなくては。
『グジャアア!』
部屋の奥にいたのは巨大なバジリスクだった。いや、通常のバジリスクでも十分蛇の中では大きい種なのだが、それを大きく上回る。体長は500mくらいか。そりゃあこんだけ大きいダンジョンのダンジョンボスはこれくらいは大きいか。気をつけるべきは目から出る薄紫の光線だ。通常当たれば体の先から石化してしまう。
『うりゃあ!』
しかし魔将は猪突猛進だ。手に握られているのは強い魔剣……ではなく石を削って作った石の剣だ。当然何の魔法効果も備わっていない。
『グジャア!』
でた、石化光線。魔将一点狙いだ。
『グシャ!?』
しかしバジリスクは間抜けな声を出す。なぜか、魔将が全く石化しないからである。そう、通常なら石化する。しかし、通常ではないものは石化しない。それは例えば、石化した先から石化を解いていくやつとかは。
『はあっ』
魔将がついにバジリスクの頭部にたどり着き、石の剣を一振りした、通常硬い鱗に守られあんな剣は弾いてしまうのが蛇系の魔獣なのだが、
『グギャアア!』
悲痛な叫びを上げている。見てみると極細の傷がバジリスクの頭部を縦に割っている。先程まではなかったものだ。
『いっちょ上がり!』
魔将は今度はこちらに駆けてくる。まさかあのデカさのバシリスクを縦に割るとはすごいな。もう動かないと確信しているのか、後は無警戒だ。
『まあいいか。』
実は後でバジリスクが再生を終えて睨みつけているのだが、気にしない。とゆうか傷が深すぎて未だ半分くらいしか終わっていないがな。
『まかせた!』
おいあいつ、ふざけてるだろ。自分で残した仕事は自分で終わらせろよ。
『わかった。』
俺は無造作に手を挙げる。
『【迅雷弾】』
雷属性魔法中位程度のものだ。それを手の中に収め、バジリスクに投げつける。
ビュン
素の力で投げたが、だいたい時速160kmくらいか?少し衰えたな。鍛え直しだ。
『グシャアアア!』
今度こそ倒れて起き上がらない。まあ再生機能を発動してもそこに帯電してる雷で無限に痺れるだけだから関係ないが。
『ナイス!』
魔将がハイタッチを要求してくるため、俺もそれに答える。
『で、どうする?地上に帰るか、オーブ持って帰るか。』
『そうだな〜、俺的にはダンジョン潰したいわけじゃないし、そのままにしとこうぜ。』
この探検を提案したのは魔将のため、決定権は魔将にある。
『そうだ、あの蛇の腹の中に多分魔剣があるぜ。』
俺は提案する。高い魔力を感じる。あれはバジリスクの魔核ではあるまい。
『そうか、でもめんどくさいな〜。』
それはそうである。わざわざ腹開いてまで出すものじゃなさそうだし無視でいいか。
モゾモゾ‥モゾモゾ
『なんだ、まだ生きてたのか?』
俺が魔法を準備すると、
『違うぜ、こりゃあ例の魔剣だ。』
蛇の腹の中心部あたりが一気に割れて、中から魔剣が飛び出してきた。余り見かけるような光景ではないが、高位の魔剣はこうやって認めた者のところに飛んでくるものもある。どうせ魔将だろうと思っていると、
『うおっ、俺かよ。』
俺の方にすっ飛んできた。いや、いらないんだが。
『これ、もらってくれる?』
俺が聞くと、
『まあいいけど、金は払わんぞ。』
なんとかもらってくれるらしい。渡そうとすると魔剣が抵抗してきたが、俺が無理やり渡したら大人しくなった。
『鏡面剣エスペース。まあいい剣だな。』
「おーい、行くぞー。』
剣を観察していた魔将に声をかける。
『わかったよ。そう急かすな。』
『よし、乗ったな。行くぞ、【転移】』
俺たちは地上に転移した。
「と言う話があったんだ。」
随分と長い間話していた。
「そうなんだ、あの剣も最難だね。どうしてもらってあげなかったの?」
「別に剣はいらなかったんだ。だからだな。っと、もうそろそろ戻るか。」
「そうだね。」
俺は公民館の中に入った。
すみません。私事になりますが、次投稿のところから、日曜日に一本ということになりそうです。筆者の生活が大きく変わってしまいましたので、ご了承ください。あ、これはエイプリル・フールじゃないです。