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-09- 静かな異変

 そして、探査開始から数十分の時が流れ――。


『……なにも出てきませんね』


「あれ、おっかしいなぁ……」


 私の初めてのダンジョン探査は……順調も順調だった。

 なぜなら、モンスターにまったく遭遇しないからだ……!


『まさか、アイオロス・ゼロに恐れをなして出てこないとか!?』


「うーん、それはないと思うんだけどねぇ。ちょっと、燐光風穴のデータをもう1回洗いなおしてみるわ。直近でモンスターの数を大幅に減らすような戦闘は行われてないはずなんだけどなぁ」


 育美さんの声がどんどん低くなっていく……。

 冗談ではなく、真剣に異常事態なのだろう。

 こ、怖い……! 機械の体でなければプルプル震えると思う。

 DMDは自分の体ではないとはいえ、意識は完全にDMDと一体化している。

 そんな状態で異常事態の異空間を歩かされれば、怖くもなるって!


『あ、魔進石(ましんせき)みっけ!』


 他の鉱石と違い、輝いていないのですぐにわかる。

 魔進石とは、現代社会を支える新エネルギー『エナジー』を抽出することが出来るダンジョン特有の鉱石だ。

 このアイオロス・ゼロもエナジーで動いているし、いくら採取しても嬉しい代物だ。


 ネオアイアンソードの柄の方で壁から生えている魔進石を砕き、地面に落とす。

 そして、アイテム・スキャナーでデータ化し、アイオロス・ゼロのストレージにしまっておく。

 うーむ、何度使ってもこの『アイテム・スキャナー』には驚かされる。


 アイオロス・ゼロの両腕の先端、人間で言うと手首のあたりに搭載されているアイテム・スキャナーは、ほぼすべてのDMDに標準搭載されている装置だ。

 その機能とは……ダンジョン内に存在する一部の物質をデータに変換し、DMDにダウンロードさせるというもの!

 そう! 確かにそこに存在する物質が、スキャナーから発せられる光を当てるだけで、データに変わってしまうのだ!

 正直、DMDそのものを超えるオーバーテクノロジーだと思う!


 おかげでDMDは背中にでっかいカゴを背負うことなく、たくさんのアイテムを集めることが出来る。

 さらにマシンベースに戻れば、データ化したアイテムを物質に再変換することが可能だ!

 うーん、未来よ!!


 ただ、出来ないことだってちゃんとある。

 あくまでもダンジョン内の物質、それも一部しかデータ化出来ないため、現実世界の普通の物質をデータ化して流通革命……なんてことはない。

 また、マシンベースで物質に再変換されたものをもう一度データに変換することは出来ない。

 だから、ダンジョン由来の物質はデータのまま売却したり、購入したりする。


 私も集めたアイテムを売ったり、逆にアイオロス・ゼロの強化に必要なアイテムを買ったりする予定だ。

 レアなアイテムは買っても売っても高いらしいし、ダンジョン内でゲット出来れば嬉しいんだけどなぁ~。

 まあ、いきなりそんな上手くはいかないか!


「蒔苗ちゃん、やっぱり最近ダンジョンのモンスターが消えるほどの大討伐は行われないみたい。だから、ズバリ言うと……異常事態よ。引き返すのも選択肢の1つね」


『でも、すでにコアの近くまで来てますし、ここまで進んだなら当初の目標通りコアを見てから帰りたいと私は思います。それに最後まで進めば、この異変の原因もわかるかもしれません』


「……そうね。でも、より慎重に進むのよ。さっきDMDが壊されても蒔苗ちゃんは死なないって言ったけど、壊れたDMDをダンジョンから回収したり、修理したりするのにはお金がかかるから、(ふところ)は痛むわよ」


「肝に銘じておきます……」


 正直、なにも起こらないから駆け足になっていたけど、ここからはそろりそろりと進む。

 ダンジョンでは通信機器と同じく使いものにならないという理由で、DMDには敵を感知する類のセンサーが搭載されていない。

 一応、カメラに映ったものを識別するような機能はあるけどね。


 だから、敵の位置は目で見て確認するか、勘に頼るしかない。

 視覚、聴覚、触覚はもちろんのこと、疑似的に嗅覚を再現して伝えてくれる機能もDMDには搭載されている。

 それらの機能を使って、敵を感じ取るんだ……!


『……いやぁ、本当になにも出なかったなぁ』


 結局、私は無傷でコアに到達した!

 目の前にはまるでお月様のように黄金に輝く丸い鉱石が鎮座している!


「とりあえずおめでとう、蒔苗ちゃん」


『あ、ありがとうございます。ダンジョンのコアって、こんなに綺麗なんですね。もっと禍々(まがまが)しいものとばかり……』


「高レベルダンジョンのコアは確かに禍々しいわよ。ここのは優しい感じだけどね」


『これを壊すと……ダンジョンが消滅するんですよね?』


「そうよ。すぐにじゃなくて徐々に崩壊していく感じだけど。あ、最初に言った通り、ここのコアは破壊しちゃダメだからね。街中とか生活圏に近いところに出現したり、あまりにも危険なモンスターが外に出てくる可能性があったりするダンジョン以外は、基本的に消滅させちゃいけないの」


『残しておいた方が得るものが大きいから……ですよね』


「うん……。ダンジョンは謎が多くて危険な存在だけど、その恩恵はもはや人類に必要不可欠なものになっているわ。DMD操者や私みたいなメカニックは、そのダンジョンがもたらす恵みを受け取り、災いを未然に防ぐ役目を負っているの……って、長話してる場合じゃなかったわ! コアまでたどり着くという目的は果たしたし、戻ってらっしゃい!」


『……なにかいますね』


「え……っ!?」


 自分でも驚く。さっきとは違う空気感をここまで敏感に感じ取れるとは。

 いる……。自信を持って言える。

 ここからは見えない通路の先に『なにか』が待ち伏せしている。

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