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第3章 生徒会と恋愛お約束条項②

「失礼します」


「失礼しまーす」


 生徒会室を尋ねる。ノックからのどうぞに応えて入室すると、中には柑奈さんと柏が待っていた。


「ごめんね、お昼休みに呼びつけて」


 とは柑奈さんの言葉だ。


「いえいえー、私はお手伝いさせてくださいって立場ですし、全然問題ないですよー」


「俺も――一応、引き受けるって前提ですし」


「ありがとうね。二人とも座って?」


 そう柑奈さんに勧められる。席は二脚の並んだ長机を向かい合わせた即席の八人掛けだ。柑奈さんも柏もそこが定位置なのだろう。一番奥の角に柑奈さんが、その向かいに一つずれて柏が座っている。


 先日同様柏の隣に座ると、美月が俺の隣に座る。多少歪だが、いきなり柑奈さんの隣に座るのもないだろう。俺も、美月も。


「早速なんだけど、話しても良いかな?」


「はい、お願いします」


 そう伝えると、柑奈さんは頷いて――


「まず、我妻さんなんだけど」


「はい」


 美月が姿勢を正す。


「有志メンバーの志願、ありがとうね。基本的に生徒会執行部の運営を手伝ってくれる生徒は歓迎です。普段は普通に過ごしていてもらって、イベントや人出が必要な時に執行部の仕事を手伝ってもらうことになると思う。勿論メンバーとなるからにはいつでも生徒会室に尋ねてきてもらって構わないけれど、それは別にウチの学校の生徒なら全員そうだし――」


「――え、そういうもんなんですか?」


 ちょっと驚いて尋ねると、話の腰を折ったにもかかわらず柑奈さんは丁寧に教えてくれた。


「そうよ? 生徒会執行部って言うと固く聞こえちゃうけど――つまりは生徒の会なのだから全ての生徒は生徒会なの。ここはその本部――例えば生徒会にして欲しいことがあればいつでも訪ねてきてもらって構わないし、繁忙期でなければ悩み相談だって聞くわ」


「……知らなかった」


「一応生徒手帳にも記されているんだけれどね」


「開いたことないっす」


「……私も生徒会室に相談に来る生徒は一年に二、三人いるかどうかだと先輩から聞かされているけど。生徒総会とかで告示した方がいいのかな」


「そうかもですね。多分、ほとんどの生徒が知らないっすよ」


「うーん……そうね、そうしよう」


 柑奈さんはそう呟いて、


「――ともかく、我妻さんを歓迎するわ。よろしくね、我妻さん」


「はいです!」


 美月が柑奈さんにびしっと敬礼する。


「当面は金曜の放課後にここで行なっている定例会議に参加してもらうだけでいいかな。後は必要な時に仕事をお願いするって形になると思う。後で生徒会執行部のライングループに招待するから参加してね」

「はーい。よろしくお願いします」


「こちらこそよろしくね」


 そう言って美月と柑奈さんはうなずき合う。


「それで、颯太くんの方なんだけれど」


「はい」


 柑奈さんの視線がこちらに向く。今度は俺が居住まいを正す番だ。


「颯太くんにお願いしたい庶務は正規メンバーなのね?」


「はい」


「それで、颯太くんは有志メンバーのように繁忙期は手伝えるけど、日常的にはちょっと……ってことでいいんだよね?」


「まあ、はい。そんな感じすね」


「やっぱりね、普段は完全にフリーっていうのは難しいと思うの。引き受けてもらうとなると、時々は仕事をお願いすることになるかな」


「そうすよね。その辺りは程度によると思いますけど。事前に振ってもらえればバイトのシフトは調整できると思います」


「それにセンパイがバイトの時は私が代われますよ」


「うん――そうだね、我妻さんなら手伝ってくれるよね」


「それは勿論」


 互いにそう言って微笑み合う二人。う、うーん……


「――そういうわけで完全に颯太くんの希望通りにはならないと思うけれど、それでも良ければ引き受けてもらいたいな」


「いいすよ。バイトある日も三十分とか一時間なら活動できると思いますし」


「ありがとう、姫崎くん」


 礼を言ったのは隣の柏だ。


「柏の代りが務まるとは思えないけど」


「確かに僕の代役ではあるんだけど――それは名目上の話で執行部の一員として僕の代りになる必要なんて無いんだよ。姫崎くんは姫崎くんのやり方で生徒会に関わっていけばいいんだ」


「……お前、俺と同級生なのに随分大人なことを言うなぁ」


「はは、何それ。そんなこと全然ないよ」


 俺の感想に笑う柏。そして――


「――ただ、ね」


 柑奈さんが言葉を続ける。


「柏くんが言ったように、名目上は柏くんの代りを務めてもらいたいの。つまり生徒会執行部の庶務として公式にその役に就いて欲しいのだけれど」


「――早い話が名義貸しってことすよね。それも別に構わないすけど」


「なるべく負担をかけない形にするってだけで仕事はしてもらうから、完全に名義貸しってわけじゃないのよ? だからそんな風に思わないで欲しいんだけど」


 柑奈さんは言葉を句切り、


「……颯太くんは我妻さんと違って役員になるわけだから、臨時の生徒総会を立てて信任投票をしないといけない。その時に簡単な演説をしてもらいたいの」




 ……なるほど?




「この話はなかったことに――」


「ちょっとちょっと!」


 言った俺に美月が待ったをかけた。俺の肩辺りを掴んで耳元に顔を寄せ、囁き声で怒鳴る。器用な奴め。


「センパイ、今更はしご外すような真似はナシですよ! センパイがいない生徒会執行部の有志メンバーとかただのボランティアなんですけど!?」


「いや演説とか聞いてないし。つか近い! 禁止令!」


「言ってる場合ですか! 『じゃあ私も辞めますー』なんて言えないでしょう?」


「やだよ人前で演説なんて!」


「私がスピーチ考えてあげますから!」


「お前そんなことできんの?」


「前の世界線じゃ一応大学出てるんですよ! センパイ追っかけたので!」


「ってかそれでも人前で演説とか無理」


 俺は美月を引き離す。


 そして。


「柏、お前って口固い方?」


「え? それは――言うなと言われことなら言わないけれど」


 ふむ、そうか。


「――颯太くん?」


 不穏な空気を感じたのか、柑奈さんが不安げな声を上げる。


 すみませんね。まあ柏が柑奈さんの立場が悪くなるようなことはしないだろう。


「あのな、柏」


 俺はそのまま口を開く。柑奈さんがあわわと慌て、美月はぴんときたのか素早く立ち上がり出入り口を施錠した。





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