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第2章 お昼休みと恋愛お約束条項⑨

「……お前は迷わないのな」


「言ったじゃないですかー。センパイの可能性を潰したくはないんですよ。この話をお断りしたら深町先輩と付き合う未来はきっと完全になくなります。センパイにはどちらも選べる状態で私を選んで欲しいんです」


「……それにしたって柑奈さんは最大の恋敵なんだろ? 俺が執行部に入ったら柑奈さんと会う機会は絶対増えるわけじゃん。嫌じゃないのか」


「それは――嫌ですけど。でも」


 美月は、上目遣いで俺を見て、


「――最終的にセンパイではなく別の男性を選んだ深町先輩より、私の方がセンパイを愛している自信がありますから。センパイにはきっと私を選ばせてみせます」


 ……こいつは、まあ、なんというか、もう。


「……役員にはなるけど、庶務じゃなくヒラってことでどうかな。平時は幽霊部員みたいな感じでさ、忙しいときだけ手伝うというか。スーパーサブ的な。それならイベントがないときは参加しなくて良いだろうし、まあ放課後も並木道までならお前と帰れるだろ」


 最後の言葉に顔を綻ばせる美月。


「それは私的にも素敵な案ですねー。さっそく明日の昼休みにでもその旨を伝えに行ったらどうですか? 深町先輩も早く聞いた方が安心でしょう」


「……そうか、そうだな。そうするか」


「はいです♡」


 美月は嬉しそうに頷いた。


「センパイの相談に乗れて嬉しいです。それじゃあ悩みも解決したことですし、昼休みいっぱい私と恋バナでもしましょう。私が好きな人は……センパイです!」


「あ、予鈴鳴るわ。次移動教室なんだよ。じゃあ、またな」


「センパーイ……」


「……放課後、バイトの時間まで付き合ってやるから」


「だからセンパイ大好きです♡」


「ああもう……お前も受業遅れるなよ」


 惜しげなく♡マークを飛ばす美月に嘆息し、俺は中庭を後にした。




   ◇ ◇ ◇




 翌日。昼休みに生徒会室を訪ねた俺は目を剥いた。


「あ、センパーイ。今日から生徒会有志メンバーとして志願した我妻美月です、よろしくお願いします!」


 ノックして入室すると、なんとも言えない顔の柑奈さん、そして満面の笑顔でスカートを押さえて頭を下げる美月がいた。


 物わかりが随分いいなとは思ったんだ。昨日の放課後もずっと機嫌が良かったし。


 ……こういうことか。


 思わず苦虫を噛み潰したような顔になっていただろう。その俺を見て美月はますます嬉しそうな顔をする。


「あの、あの……」


 困惑しているのは柑奈さんだ。俺と美月の顔を交互に見て、


「えっと……?」


「昨日、センパイから生徒会の役員さんが転校することになり、補充人員として生徒会に誘われたと聞きまして! なので、私も有志として参加したいなって。それならセンパイの負担も減るだろうし、私も生徒会活動を通してセンパイと一緒にいられます。生徒会も人員補充――特に忙しいときなんかはセンパイと私の二人分のヒューマンパワーを使えます。誰も損をしない素敵な提案ではないでしょうか!」


 何が素敵な提案だ、この野郎……お前が有志メンバーに志願するなんて聞いてないぞ!


「え、あ、うん――生徒会は役職外の有志メンバーを歓迎しているし、ええと――颯太くんと我妻さんに庶務の仕事をしてもらえば生徒会は十分回るし――ええと、あれ?」


 目をぐるぐるさせて、柑奈さん。美月は俺にVサインを向ける。


 その美月に耳打ちする。


「――お前なぁ!」


「ふふ、私だって無策じゃないんですよー。伊逹にこじらせてタイムリープしてないです。既知の出来事には対策を考えますよー」


「俺の選択肢を消したくないんじゃなかったのか?」


「それはそれ、これはこれ。未来は自分で切り拓くものですよ。前の世界線で負け続けた私が言うと含蓄ありません?」


「知るか! こんなこと考えてたんなら最初から言っておけよ!」


「センパイに『オトモダチも一緒に生徒会執行部に入ります』なんて外聞悪いこと言わせませんよ」


「お前が『オトモダチにくっついて生徒会有志に志願』ってことになるじゃねえか」


「……そんなのはどうでもいいですけど、距離、近くないですか? 恋愛お約束条項アップデートですか? 私はビックウェルカムですけど、深町先輩が凄い顔してますよ」


 美月に言われ、必要以上に顔を寄せていることに気付いた。慌てて離れると、美月はにこにこ、柑奈さんは真っ赤な顔で目を右に左に泳がせている。


「あ、あのね? 生徒会を手伝ってくれることにしてくれたのは嬉しいけど――学校では節度を持ってね? いやね、こんなこと私が言うことじゃないかも知れないけど」


「あ、いや、これは別にそんなんじゃ」


「――颯太くんって大胆なのね。でもね、女の子にも準備があるからね――っていうか、その、少なくとも生徒会室ではね? 時々顧問の先生もみえるからね?」




 柑奈さんの激しい誤解を解くのに昼休みのほとんどを費やすことになった。





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