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第2章 お昼休みと恋愛お約束条項④

「……もしかしてそれが本題?」


「本題ってわけでもないですけど。私にとって深町先輩は、その、なんていうか――深町先輩その人が嫌いとかではないんですよ? ですけど――」


「……まあ、複雑だろうな」


「複雑にしてるのはセンパイなんですけどねー」


「俺は悪くないだろ」


「私も深町先輩も虜にしてしまうセンパイが悪いと思います」


「言ってろ」


 はあ、と溜息を吐く。まるで考えていないではない。


 ただ、答えが出なかっただけだ。


「……なあ、《美月さん》」


「美月、です。他人行儀な呼び方はここが切なくなります」


 自分の胸を示して美月が言う。


 だが、しかし。


「美月さんでいいんだよ。目の前のお前じゃなくて、未来の我妻美月さんに相談してんの」


「!――」


 まるで飼い猫が名前を呼ばれて反応するように、ぴくりと震え背筋を伸ばす彼女。


「――聞きましょう」


 一人で考えて答えが出なかったのだ、となれば誰かに相談したいというのが当然出てくる考えだ。だが美月の話はタイムリープという非常に共感を得がたいワードが出てきてしまうため、おいそれと人には話せない。そもそも相談できるような相手が俺にはそういない。現状美月と柑奈さんの二択だ。


 そしてタイムリープの話を飲み込めるのは一人しかいない。


「……前提として、まあ《美月》のことは気になるよ。じゃなきゃ顔がいいってだけで恋愛シミュレーションとかそんな話に付き合ったりしないだろ」


「――……、はい」


「……そうなってくると、ごっことは言え――責任を求めない、求められない関係とは言ってもある程度の節度や誠実さってのは考えるわけ。美月の為にじゃないよ、俺がそう在りたいって話なんだけど」


「はい、センパイはそういう人です。知ってます」


 胸の内を吐露する俺に、美月はそう頷く。


「《美月》としては俺が柑奈さんの家に出入りするのは、まあ面白くないよな」


「……ええ、でもそれが恋愛シミュレーションの条件ですから。私から――《美月》から止めてくれという筋合いはありませんよ」


「そこ。《美月》の気持ちを知っていて、その上で柑奈さんの家にバイクを駐めるために出入りする俺は相当不誠実だよな?」


 言いながら美月の表情を伺う。彼女は頬を赤く染めてにやけていた。


 俺の視線に気づいた美月は自分の頬を目一杯左右に引っ張ったかと思うと、ばしばしを自ら顔を手のひらで叩く。


「……なにしてんの?」


「や、センパイが私のこと真剣に考えてくれてるのが嬉しくて、つい」


 ふーっと長く息を吐いて美月が言う。ふるふると顔を振ると、美月ではなく美月さんの顔になっていた。


「センパイが本音を仰ってくれてるので私も正直に答えますね。それは――はい、やっぱりすこしだけ面白くないです。深町先輩は高校生活で最強の恋敵ですから。でもそれでいいんだと思います。っていうかそうするべきです」


「……そうなのか?」


「はい。バイク通学するためにセンパイは頑張ってこの学校に入って成績維持してるわけじゃないですか。それを止めるだなんて――そんなのセンパイじゃなくなっちゃいますよ。それに、それを止めるときっと深町先輩とセンパイが付き合う可能性がなくなってしまいます」


「……それは《美月》にとって都合がいいんじゃないの?」


 尋ねると、彼女はゆっくりと首を横に振った。


「《美月》はセンパイに選ばれたいんです。私が――《美月》がセンパイに愛されるのは二番目の願いで、一番はセンパイの幸せなんです。だから深町先輩とお付き合いする可能性は消したくない。もしかしたらセンパイは深町先輩と添い遂げることが幸せなのかも知れませんし」


 それでも、私よりセンパイの伴侶に相応しいオンナは他にいませんけどね、と彼女は締めくくった。


「……重っ」


「《ごっこ》だって言ってるのにそこまで誠実であろうとするセンパイもなかなか重いですよ――バイク通学は続けてください。深町先輩との関係を自重するのは先輩の自由意思ですが、私としては先輩がいいようにしてくれればいいと思ってます。私は私で深町先輩とセンパイが親しくなりすぎないように邪魔したり、より早く深くセンパイに愛される努力をしますので」


「……お前も大変だね?」


「そうでもないですよー? 恋愛シミュレーションっていう大きなアドバンテージがありますからね。負けるつもりはありません」


 ぐっ、と胸の前で握り拳を作る美月。


「――で、深町先輩のお家までご一緒してもいいですか?」


「……控えてくれると有り難い。正直お前からあんな話を聞かされて、深町先輩とどう向き合ったらいいのか全然わからないんだよ。妙に意識しちまうし……この上お前がそこに介入してくるとかもうどうしたらわかんない。どんな関係か説明できないし」


「それはもう明言しない、でいいじゃないですか? 私としては恋人ですと公言したいところですが――それをしちゃうと責任を求めないっていうのが難しくなっちゃいますよね。私は彼氏だと言っているのにセンパイがそれを否定したら破綻しちゃいますし。クラスメイトにも好意があることは言いましたけど、私とセンパイの関係は明言してませんし」


「……やっぱ俺に都合よすぎない?」


「それでいいんですってばー。そんなに言うならもうちゃんとカリカノからカノジョにレアリティアップさせてくださいよ」


「ソシャゲか」


「恋人はSRで、お嫁さんがSSRです♡」


「カリカノはノーマルレアか。意外としょぼいな」


「ぐっ……じゃあ早くレアリティアップを!」


「素材が全然足りない」


「私にできることなら素材集め、手伝いますよ!」


「じゃあ頼もうかな。足りない素材は君の謙虚で真摯な姿勢だ」


「――! ……センパイ」


 くだらない話をしていると、急に美月の様子が変わった。俺の背後を見て随分驚いた顔をしている。


 何事かと振り返るより早く背中に声がかけられる。


「……颯太くん?」


 振り返るとそこには三年生の女子がいた。腰まで伸びる長い髪に、平均的か少し小さめな美月と違いやや高めの身長。線が細く、モデルが務まりそうな体型。大きな瞳は少し垂れ気味でおっとりした印象を受ける。


 その人は柑奈さん――深町柑奈だった。






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