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プロローグ

 挿絵(By みてみん)

 時は桜舞う季節。新学年になったばかりのある日の放課後。


 一日の授業を終えて退屈な学校から少しでも早く立ち去ろうと校門を出たところで。


「颯太センパイ」


 聞き覚えのない声に呼び止められて――俺の高校生活は激変した。


 振り返る。そこにいたのは女子だった。タイの色は新入生のもの。知り合いではない。初対面だと断言できる。


 ――こんな美少女と知り合っていれば、数年会わなくても忘れないだろうから。


 桜並木に佇む彼女はとても綺麗だった。まっすぐに伸びる髪は艶やかで、長い睫毛と榛色の瞳は見るものを惹きつける何かがあった。形のいい朱色の唇から発せられた声は風鈴を思わせるような軽く、涼やかで――顔立ちはやや幼く見えるが、先月まで中学生だったのだ、幼すぎるということはない。


 十人中十人が美少女と断じ、さらに内五人は「マジで超美少女だから!」と強調するだろう。俺を呼び止めた下級生――後輩女子はそんな女の子だった。


 俺の名を呼んだくらいだ、彼女は俺のことを知っているのだろう。しかし俺の方は彼女にまったく見覚えがない。お陰で彼女の容姿に目を奪われてまじまじと眺めてしまったぐらいだ。


 しかし、俺が彼女に思わず不躾に眺めてしまった非礼を詫びる言葉を――あるいは彼女の名を尋ねる言葉を口にする前に、彼女のほうがを開いた。




「颯太センパイ、好きです。愛してます。私を彼女にしてください」




 告白された。




 ……………………なるほど?




「夢か」


 踵を返す。足早にその場から去ろうとしたが、美少女後輩はあろうことか俺を追ってきた。


「現実ですよ、センパイ。私を彼女にしてください」


「断る。あと俺が知り合いでもない美少女に告白されるなんて世界線は夢に決まっている」


「自信持って、センパイ! 一年女子の間じゃセンパイ目立ってますよ!」


「目立つ? 俺が?」


「センパイいつも一人でいて浮いてるから悪目立ちするんですよ」


「まったく褒める気がないな!?」


「褒めるも何も好きだって言ってるじゃないですかー」


「それはどうもありがとう。俺は壺に興味はない。絵画を買うつもりもない。ではさようなら」


「女子の好意に懐疑的すぎやしませんかね……」


「自慢じゃないがモテたことがない。見知らぬ女子に好意をもたれる理由もない」


「そんなネガティブ発言を格好よく言われましても」


 振り切ろうと足を速めるが、むんずと制服の袖を掴まれる。


「ええい、はなせ! 俺は明晰夢を見たら一度やってみたいことがあるんだ! 学校なんかにいられるか!」


「殺人事件が起きそうなセリフは止めてください! お話ししましょうよー。私の彼氏になれるチャンスですよー」


「そんなチャンスはいらん」


「即答!? しかもマジトーンだ?」


 がーんと書き文字を背負って、彼女。


「え、私そんなにダメですか。ノーチャンスですか」


「いいか、よく考えてみろ」


「はい」


 立ち止まってそう言うと、思いの外真剣な顔で後輩女子さんは頷く。


「君が見ず知らずの男子に呼び止められて」


「はい」


「愛してます、彼女になってくださいと言われて頷くか?」


「知らない人に告られてもちょっと……とりあえずごめんなさいですかね?」


「だよな。俺も同意見だ。ごめんなさい。ではさようなら」


「今のナシ! 今のナシで!」


 立ち去ろうとする俺の腕を掴み、必死にその場に留めようとする彼女。


「ウェルカムです! ビッグウェルカム! 告白されたらお付き合いします! だからセンパイも私とお付き合いしましょう!」


「一般的に見ず知らずの男子の告白を大歓迎する女子ってちょっとケツが軽くないか? そんな女子を彼女にするのは男子的にどうなんだろう」


「正論だ!?」


 今度はベタフラッシュを背負って、後輩女子は苦悶の声を上げる。


「さすがセンパイ……無駄に頑なですね」


「無駄って……というか、君は俺のことを知っているんだよな」


「はいです。姫崎颯太センパイ。私の好きな人です」


「そういうのはいい――俺は君のことを知らない。知らない相手にそう迫られても危機感しか感じないぞ。存在も言動も突飛すぎる……認めたくはないが、どうやら君の存在は夢じゃなさそうだ。だとしたら君の出方によっちゃ俺も色々考えなきゃならんことがある」


「それは――私との交際を前向きに?」


「ストーカー被害に関する警察の相談窓口を調べたりとか、そういうのだ」


「あ、それはガチで困りますごめんなさいちょっと頑張りすぎました」


 後輩女子はウサギのようにぴょんと後ろに跳び、小動物のような仕草でぺこりと頭を下げる。意外と素直なのか……?


「反省するので、少しだけ私とお話ししてください。仲良くなりたいです」


「いや俺としちゃ遠慮したいというかもうお腹いっぱいなんだが……そもそも誰なんだ、君は」


「私ですか? 私は――」


 俺の問いに、彼女は愛らしく微笑んで――




「美月といいます。一年C組、我妻美月。十年後の未来から来た、世界で一番あなたの伴侶に相応しいオンナです」





第一話(ラノベ換算一冊分)完結まで毎日更新します、よろしくどうぞ!

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