第96話 合縁奇縁斬
※体育祭はあっさり優勝しました。
体育祭が終われば、余勢を駆って文化祭へと突入だ。
ただ、あまりにもぶっちぎりで優勝してしまった為、例年になく盛り下がった。どっちらけだ。
最後のリレーもサクッと勝利したし、完全制覇と言っても過言ではないが、とんだ体たらく。B組の独走を許した他のクラスが悪いのであり、B組は全力を尽くしただけである。
結局のところ、物事は事前準備が重要だと証明したにすぎない。戦う前に勝負は決まっている。孫子の兵法にもそう書いてる。いつもサンキューな孫子!
見事MVPに輝いた釈迦堂は英雄となった。ヘラクレスオオカブトのように勇ましき活躍は今後語り継がれていくことになるだろう。
途中、トラブルも発生したが、高橋(兄)と木村先輩も和解が成立した。
そもそも高橋(兄)は木村先輩に対して怒っていなかった。保健室で謝罪した木村先輩との間に蟠りはない。むしろ以前より仲良くなっていたくらいだ。
そうは言っても、過剰にヘイトを集めてしまったことにより、木村先輩は体育祭後も孤立しかねなかったが、保健室から戻る際、高橋(兄)と仲良しアピールをしながら戻ってもらったこともあり、なんとか丸く収まるだろう。
反省の意を込めて木村先輩は丸刈りにしてくるらしい。古典的だが単純で効果が見込める。木村先輩としても、それだけ後悔しているということだ。
木村先輩のままならない気持ちも分かる。一度フラれて、再度やり直したいと言われても、裏切られた傷はどうしても残る。素直に受け入れるには難しい。気持ちを消化するにはまだ時間がかかるはずだ。願わくば、双方が満足いく形になって欲しいものだ。
「いよいよ文化祭だねユキ!」
汐里のポニーテールがブンブン揺れている。どうやら機嫌は絶好調らしい。
体育祭の片付けも終わり、着々と文化祭の準備が進む教室を眺めながら、意味もなくカイゼル髭を付け、意味もなく偉そうに腕を組み、意味もなく鷹揚に頷く。とても偉そうだ。
「うむ」
「……なんなのその髭?」
「パーティーグッズだ。何処かで使うかなと思って」
「使わないよ!?」
ポイッとカイゼル髭を毟り取ってゴミ箱へ捨てると、期待に胸を膨らませながら口を開く。
「小百合先生のメイド服楽しみだなぁ」
「うっさいわボケェ! はぁ? なぁに言ってんの!? ふざけんなよ九重雪兎! 私、頑張ったよなぁ? 人生であれほど頑張ったことないってくらい頑張ったよなぁ!?」
何故かブチ切れている大人げない大人、小百合先生に呆れたような眼差しを送る。
「先生。頑張ったら許されるのは学生の間だけですよ。社会に出たら頑張ったなんて通用しないんです。結果を出さなきゃ結果を」
「学生で社会にもまだ出てない奴に言われたくない!」
「ゴネたって通用しませんからね。世の中厳しいんですから」
「なんで私が諭されなきゃダメなんだ!」
「安心してください。セクシー度は三割増しにしておきました」
「いやだ! そ、そうだ。よし、分かった。金だろ? 金が欲しいんだろ? なぁ?」
「最低かよ」
ダダを捏ねるしょうがない大人を宥めていると、血相を変えて岩蔵使節団の団長こと、岩蔵友美が駆け込んでくる。
「どうしよう! ない、ないの! 何処にも見当たらなくて――」
「どうしたの岩蔵さん?」
岩蔵のただならない様子に灯凪ちゃんが声をかける。後を追うように、峯田達も駆け込んできた。
「あ、九重ちゃん! ヤバいよ! 保管してた服がなくなっちゃったの!」
「はい?」
「なるほど……」
まったくどうしたものか、ハチャメチャが次から次へと押し寄せてくる。
顔面蒼白の峯田達に詳しく話を聞くと、文化祭で使用するのに裁縫を進めていたメイド服のうち、既に完成し保管していた2着が忽然と消えてしまったらしい。
「普通に盗難だな」
「ねぇ、どうしよう? もう間に合わないよ!」
焦る衣装制作班こと岩蔵使節団。手元に残っているのは、手直しする箇所が残っている数着のみだ。岩蔵達にしても、デザインを自分達で決め、力を入れていただけに表情には無念さが宿っている。
「内部犯の犯行だな」
「そりゃそうだろ」
爽やかイケメンの全然爽やかじゃないツッコミはさておき、言うまでもなく外部犯の犯行はありえない。校内に部外者が侵入するなど考えづらいし、ましてやその目的が文化祭で使用するメイド服を盗んでいくなどと、どんな変態の所業なのか。
「他に盗まれた物はなかったのか?」
「うん。私達が作ってた服だけみたい。これって嫌がらせなのかな?」
ギャルの峯田もしょんぼりだ。どうやら俺達、いや俺かもしれないが、盛大に恨みを買っているらしい。つまり、偶然B組が狙われたのではなく、最初から俺達を困らせるのが目的の犯行というわけだ。
「……盗難か。あまり公にしていいことでもないが、無視もできないな」
小百合先生も険しい顔をしている。校内には防犯カメラも設置されている。犯人捜しとなれば必然的に大事になる。その結果、明らかとなれば厳しい処分が下ることは間違いないだろう。
俺以外を深刻な空気が包む。
「どうしよう雪兎?」
灯凪ちゃんが不安げな表情を向けてくる。
「ねぇ、九重ちゃん。もしかしかしたら学校の何処かに隠されているのかも? だったら、今から皆で探せば――」
「まぁ、落ち着け」
焦る峯田を宥める。何も心配する必要はない。そう、この程度のことは常に想定済だ。どんな問題が起こっても、如何にもあくどい黒幕面して「それも私だ」と答えておけばなんとかなる。
「こんなこともあろうかと、コピーした型紙で3着作っておいた。家からそれを持ってくる。まぁ、母さんと姉さんが着たいっていうから作っておいただけなんだが」
そう、俺は家族からのプレッシャーに耐え切れず、家でメイド服を作っていた。もう一着は当然、雪華さんの分だ。最早、俺の裁縫スキルは限界突破している。
「さっすが九重ちゃん! やったぁ!」
「アンタって人は……」
ワッと喝采が教室中に広がっていく。俺の両手を掴んでブンブン喜ぶ峯田と裏腹に灯凪ちゃんは呆れたような表情だ。爽やかイケメンは目を逸らしていた。
「けど、少しだけ問題があって……」
「どうしたんだ九重雪兎? まさかお前、犯人を知っていると言うんじゃないだろうな?」
申し訳なさそうに顔を伏せると、小百合先生が恐る恐る口を開く。
「いえ、そうではなく……。ただ、我が家の要望に合わせた結果、セクシー度が五割から七割増しになっているので如何なものかと」
「却下だ!」
憤る小百合先生の意見は否決され、正式採用が決まった。
「いやだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!」
大人って、往生際が悪い。
‡‡‡
放課後、着なれない制服の着心地に居心地の悪さを覚えつつ、目的の人物を発見する。
「よかった、見つかって。貴女が岡島妙さんですね?」
「え?」
「木村先輩の元カノだって聞いてます」
「――ッ!? だ、誰?」
「木村先輩とのことで少し話があって来ました。あまり長居するとバレるかもしれないので、早々に撤収したいんです。喫茶店にでも行きましょう」
警戒しながらも、俺が出した名前に思うところがあるのか、素直に従う岡島先輩。
部外者が侵入するのは考えづらい。
そう言いながらもしっかり他校に侵入するのが、この俺、九重雪兎である。
11/25にトラ女子4巻発売します!
〓謎の妖怪や陰陽師が跋扈する地獄の宴が開幕!
浴衣姿の氷見山さんと灯凪ちゃんが目印です★★★
胸囲的な格差社会が広がっていますが、灯凪ちゃんもまだまだ成長期なので今後にご期待ください。
皆様のおかげで4巻まで来ました。
ありがとうの歌を唄っておきます。ボエー♪
特典SSの紹介をしていきます!
メロンブックスさんとゲーマーズさんでは有償特典もあるんだって!(๑•﹏•)
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『夏祭りはエンゲージリングと共に』
・氷見山さんと夏祭りに行くことになった雪兎君だが、また不用意にフラグを立ててしまう
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『ゆきとくんがころんだ』
・突如始まる闇のバトル。響き渡る悲鳴と絶叫。だるまさんがころんだを模した地獄の遊戯が幕開ける!
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『釈迦堂の使用武器:斧』
・斧使いと化した釈迦堂。鬱憤を爆発させるべく無双する?……するかな?
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『ワキが甘い女・神代汐里』
・何かと脇が甘いことに定評のある神代。本当にワキが甘いのか疑問を持つ雪兎君。
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『特典で消化される女神先生の悲しき水着回』
・イケてる残念美人女神先生。うっかり特典送りになってしまう。
✅ゲーマーズさん
『藤色の決意』
・ゲーミング幼馴染こと灯凪ちゃんが浴衣に込めた決意とは……?
✅特約店さん
『イケメンの考え休むに似たり』
・恋に悩むレオンさんに相談される雪兎君。事態は斜め上の方向に進みWデートへ発展する
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